第6話 お姉さん×お風呂
「お姉さんは、お風呂入りたいです?」
ご飯も食べたがるしお酒も飲みたがるし、俺はこのお姉さんを幽霊としてではなく人として扱うことにした。
「えっ……いいの?幽霊なのに入っても……」
あ、そこは気にするのか……いまいちその基準がよくわからん。
「いいですよ。バスタオルも予備含めてちょうど二枚あるんでこの花柄のやつ、使っちゃってください」
母が言うには客人用らしいけど……この見るからに女性向けの花柄のバスタオルは、一体どんな客人を想定してたんだろうか。
「ありがとうございますぅぅぅぅ!」
お姉さんは、バサッと抱きついてくる。
この人、感極まると誰彼関係なく抱きつく癖があるのか……。
「もうお風呂湧いてるんで先、入っていいですよ」
お姉さんの後、俺が入ってそのまま掃除すればいいしな。
「え、でも家主を差し置いて勝手に居座る幽霊がお風呂いただくのはさすがに気が引けるというかなんというか……」
一応勝手に居着いてる自覚はあるのか。
「えぇ、レディーファーストなんで一番風呂はどうぞ」
「えへへぇ…レディーだってぇ」
この人、褒められることに極度に弱いッ!
本音を言えば、その方が効率的だから先に入ってって言ってるだけだし、俺の後に入られるのはなんだか俺自身に抵抗があるのだ。
「早く入らないとガス代無駄になりますよ?」
そのままスリスリしてくるお姉さんを振りほどいて、距離を置く。
「ならお言葉に甘えて」
スラッと立ち上がると、お姉さんはバスルームへと消えていった。
足は、床についてないのか……。
お姉さんの数少ない幽霊らしいポイントだ。
しばらくすると、何故かバスルームからの呼び出しがなった。
「なんかあったか……?」
のぼせたとか?転んだとか?
でも幽霊なら転倒しても怪我とかしなそうだし、のぼせたりもしなそうなんだよなぁ。
でも呼び出しされてるし一応、様子見に行くか…。
「どうかしましたか?」
洗面所のバスルームとの仕切りの扉の前で声をかける。
しかし、中からは声も返ってこないし水音も聞こえない。
「あの……お姉さん?」
もう一度問いかけても静かなままだ。
久しぶりにお風呂入って未練まで洗い流せて成仏でもしたか?
その可能性は、絶対無さそうだな。
まだ会って一日だけど、煩悩の塊みたいな人だったし……。
「用がないなら戻りますよ?」
お風呂で寝ちゃって体が呼び出しのボタンに当たっちゃったとかそんな感じだろう。
「いや、なんで心配しないのよ!?」
ようやく、中からお姉さんの声が聞こえてきた。
なんでって言われても……
「幽霊だから死ななそうだなって」
だってもう死んでるし。
「少しは、心配しようよ!君に必要なのは、人の心ね!」
「幽霊に言われてもなぁ……説得力が……」
それに、このお姉さん……結構抜けてるところ多いし。
「ほら、中の様子は確認しなくていいの?怪我してるかもよ?」
いや、これで覗いてお姉さんがなんともなかったら俺は、ただ覗いただけの変態になってしまう。
「元気そうなんで、その必要ないと思いますけど?」
そう返すと
「あっ、痛いッ!痛い。モゴモゴ……」
演技力のない芝居までしてるし……。
どう聞いても演技って感じの声がバスルームから聞こえてくる。
これ、中の様子を俺が確認するまで続きそうだな……。
仕方なしに俺は、仕切りの扉を開けて中の様子を確認する。
開いた瞬間に、俺と目を合わせるお姉さんはニヤッと笑った。
「何ともなさそうですね。というか痴女ですか?」
多分、俺をからかおうとしたんだろうな。
だからお姉さんが何か言い出す前に、一言そう言った。
するとお姉さんは、自分のしてることに気づいたのか、顔を思いっきり赤らめて
「ち、痴女なんかじゃないから!」
そう言って持っていたシャワーを俺に浴びせて、慌てて仕切りの扉を閉めると湯船へと飛び込んだ。
シャワーを浴びせる前に、濡れた服と床の片付けをする俺の事を考えて欲しかったな。
楽しいことの代償に、お姉さんとの同居生活は仕事が増えるかもしれないな、と覚悟した。
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