第7話 お姉さん×お買い物


 ツンツン―――――

 何かにつつかれている気がしてうっすらと眠い目を開ける。

 するとそこには、昨日から同居人になったお姉さんがいた。

 

 「おはようございます……」


 挨拶をするとお姉さんは、ニコッと笑った。


 「ご飯はもうできてるから、パジャマから着替えて一緒に食べよ」


 言われてみれば、部屋に漂っている匂いは香ばしいパンの香りだ。


 「作って貰っちゃってすみません」


 家主は、何もせず惰眠を貪ってたわけであって年上の人に、朝食を作らせちゃったかと思うとなんだか申し訳なく感じる。


 「居候だし、これくらいはするよ〜」


 前言撤回だ。

 食費は、俺が持ってるんだからそれくらいしてもらってもバチは当たらないだろう。

 枕元に置いといた服に袖を通す。

 お姉さんは、律儀に顔を背けていた。

 

 「いただきます」


 朝食は、食パンと各種ジャムにサラダと目玉焼きとカップスープ。

 至って普通だけど、人が用意してくれたってだけで自分で作るよりも美味しく感じる。


 「そういえば、その服は亡くなったときのものですか?」


 食事の話題に適してるかは分からないけど気になったことを尋ねてみた。


 「……やっぱり臭う?」

 

 お姉さんは、俺の意図したことと全く関係ないことを言ってきた。


 「いや、そういうわけじゃなくて昨日も今日もその服だったんで訊いてみました」


 ぶっちゃけ臭うか臭わないかで言われるとお姉さんは、無臭だ。


 「う〜ん、お恥ずかしながらこれがデフォルトスキンで、まだ私のスキンはこれしか実装されてなくて……」


 お姉さんは、恥ずかしさを濁すためかゲームっぽい感じで答えてくれた。

 デフォルトスキンということは、まぁ死んだときからそれを着ているということなのだろう。


 「なら、買いに行きますか?」


 女性からしたら、ずっと同じものを着続けるのは嫌だろう。


 「え、いいの?」


 お姉さんは、驚いたように言った。


 「いつかお金を返してくれたらいいので」


 幽霊にお金返せるかは心配だけど……

 幸いにして手元にはお小遣いを貯金し続けた結果溜まったお金が5万円以上ある。

 服ぐらい、余程のブランドを買わない限りはどうとにでもなるだろう。


 「さすがに、デフォルトスキンのままじゃキャラクターが可哀想ですからね」


 というわけで今日の午前中の予定にお姉さんとの買い物が入ることになった。


 




 

 駅で電車を降りて、そこからは少しだけ歩く。

 無論、往復の電車賃も俺が払う。

 幽霊だから、姿を消せば切符を買わずに改札を通れるかも、と考えないでもなかったが、お姉さんには姿が俺以外の他の人にも見えるようにしてもらった。

 他の人からお姉さんが見えないと、俺がただただ横を向いて独り言を言っているヤバい奴になってしまうからだ。

 そんな状態で街を歩くのは願い下げだ。

 そういうわけで、お姉さんの分含めてしっかり大人料金を往復で払った。

 

 「機嫌いいですね」


 お姉さんは、ふんふふん〜♪と鼻歌を歌いながら足取りも軽やかだ。


 「久しぶりに、外を歩いてるからね〜」

 「一人のときも、してたんじゃないですか?」


 何しろ、幽霊には壁も関係無さそうだし暇そうだし……それくらいはしてそうだ。


 「そんな単純にはいかないのよ。日差しが幽霊にはキツくて」


 それじゃぁモグラとかミミズとかと一緒だろ……。


 「あ、今なんか失礼なこと考えてたでしょ?」


 なんかこの人、勘が鋭い。


 「そんなことないですよ。モグラとかミミズとかのこと考えてただけですよ」


 そう返すと「ほらやっぱり」と、お姉さんはころころと笑いながら言った。

 

 「日傘とかあった方が良かったですかね?」


 女性なら日焼けも気になるだろう。

 しかし、残念ながら我が家には日焼け止めなどあるはずもなかった。


 「あら、気を使ってくれてるの?」


 素直にそうですよって言うのは、なんだか恥ずかしい。


 「干からびやすいですからね」


 あくまでも、ミミズやモグラの話ということにしておこう。


 「もう、お姉さんをからかって!」


 お姉さんは、ぷりぷりと怒った。

 でも、目元は笑ってる。

 そんなにことを話しているうちに、あっという間にショッピングモールに到着した。


 「さて、一年ぶりのショッピングを楽しもうねっ!」


 お姉さんは、どうやら前世ぶりの買い物らしい。

 お姉さんは、そう言って意気揚々とショッピングモールへと入っていった。

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