第5話 お姉さん×生姜焼き
「えっとボウルってどこ?」
あ、用意し忘れてたか……。
「下の引き出しに入れときましたんで、そこから出してください」
お姉さんは、よいしょっと屈んでキッチンの下の方の引き出しからボウルを取り出す。
「タレの味は、お姉さんが好きなようにやっちゃっていいかしら?」
久しぶりの調理で見るからに張り切っているから、好きなようにやってもらえばいいだろう。
「お任せします!」
その間に、俺が適当にお肉の下準備をしておけば手際よくいきそうだ。
元々そんなに難しい料理じゃないしな。
「ほい、できたぁ」
お姉さんは、タレを作り終わったのか、キッチンに出していた調味料をしまいはじめる。
そしてフライパンにごま油をひいた。
「ごま油、使ってるんですね」
「お、よくわかったね!こっちの方が香りがいいのよ」
俺が普段使ってるのはサラダ油だ。
今度から参考にさせてもらおう。
「お肉の準備できたんで焼いてきますね」
「匂いだけで呑めそうね!えっとビールない?」
お姉さんは、無遠慮に冷蔵庫を
「未成年の飲酒が禁止って法律知りません?」
お酒は20歳になってからってお酒のCMでもテロップでてるし……あ、ひょっとして幽霊だから法律に縛られないとか言い出したりして……。
「私?成人してるわよ?」
お姉さんの引っかかったポイントは、それ以前のところだった。
「いや、俺がですよ!俺が買えると思えます?」
そこまで言ってようやくお姉さんは、( ゜∀ ゜)ハッ!みたいな顔になった。
「君は中学生だっけ?」
「春から高校生です!」
「そっかぁ……残念無念……これじゃあ成仏できそうにないわね!当面する気もないけど」
いや、成仏できない理由がすり替わってるけども。
「ならさ、今度一緒に買いに行こうね!」
まぁコンビニに一緒に行くときにでもお姉さんが買えばいいだろう。
でもよくよく考えてみれば、お姉さんの酒代も俺が出すのか……なんだかなぁ……。
そんな話をしつつ、薄力粉をふるった豚ロースをフライパンへと並べていく。
「お味噌汁作ってもらってもいいですか?」
さすがにご飯と豚の生姜焼きだけじゃ何かが足りないので汁物を用意してもらうことにした。
「任せなさい」
そんな調子で調理はあっという間に終わった。
実家で、一人暮らしに備えて調理の練習はしてたけど、それよりもはるかに早く終わった。
「やっぱり二人だと早いですね」
「そうね、それに楽しいわ」
テーブルの上に適当に並べて、それでご飯の支度は終わりだ。
「いただきます」
「いただきます〜」
向かいあってテーブルを囲む。
一人暮らしだから孤食なんだろうなって思ってたのに初日から予想外にも誰かと食卓を囲んでいるのが何だか嬉しい。
誰かと食べるってのもきっとご飯を美味しくするひとつの調味料だからな。
「ん〜誰かと食べたのっていつぶりだろ……」
お姉さんも感慨深い顔でお箸を口へと運んでいる。
その姿を見てると、なんだか善行を積んでる気分になって、お姉さんを置いて俺だけ成仏できそうな気分になる。
「お姉さんは、一人暮らしだったんですよね?」
「彼と同棲してた訳じゃないから一人暮らしだったよ。今思えば、同棲して手綱握っちゃえば良かったなって思うよ」
ちょっぴり残念そうに言うけど、俺からすると何だか複雑な気持ちにさせられる。
彼氏が別れを切り出してお姉さんが自殺をしなきゃ、僕が一人暮らしで寂しい思いをすることになるのだから。
「でも今日、君と出会えてまた楽しい日々が来るのかな〜って思ったりしてるよ!」
お姉さんは、ちょっとだけ漂わせたシリアスな空気感をその笑顔で払拭した。
「そういうこと言われちゃうと、お姉さんがここに居座ることを断れなくなりますね」
「でしょでしょ〜」
あ、計算ずくでその言動だったらさっさと出ていって貰いますからね、と思わなくもないのだが結局、誰かといて楽しく過ごしたいって思う俺の気持ちがそんなことはさせないだろうな。
「あ、桜かぁ……いいなぁ……」
そんなことを考えていると、お姉さんはテレビに映っている夜桜の中継を見て羨ましげな顔をした。
「確かに、僕も今年はまだしっかりと桜を見てないですね」
もともと花見とかするわけじゃないんだけど、やっぱり季節感を感じれる桜は、どっかでちゃんと見たいって思わなくもない。
「ならさぁ、今度一緒に見に行かない?」
夜桜を見に行くってのは、雰囲気があっていいかもしれない。
「ええ、そうしましょう。でも今夜は疲れちゃってるから明日にしません?」
精気を吸われたらしいから、そんな気力は湧かない。
「今度って言ったじゃん、案外君も乗り気だね〜」
これでは、まるで俺がお姉さんと早く行きたがってるみたいになってない?
「誰かさんに精気吸われちゃったせいか疲れてて聞き落としたみたいです」
そう返すと
「もう、意地悪言うなぁ……」
とお姉さんは、申し訳なさそうな顔をしつつ言った。
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