第4話 お姉さん×精気(※健全です)


 「うわ……もうこんな時間か……」


 幽霊のお姉さんという新しい同居人(?)にで疲れたのか、引越しで疲れたのかとにかく体が重たくて気付いたら寝てしまっていたらしい。

 時計を見れば、既に午後の六時をすぎている。

 晩御飯の準備しなきゃな……。

 まだ寝ていたいと訴えかけてくる体に抵抗して体を起こすために床に手をつく。

 硬い感触のはずなのに、なんだか柔らかくて弾力のある触感が返ってきた。


 「えっ……」


 変なものとか触ってたら嫌だなぁ……と恐る恐る手をついた方を見ると寝ていたお姉さんがパチッと目を開けてこっちを見た。


 「お、起こしちゃいましたかねぇ……」


 触ってたのは、お姉さんのたわわな胸でそれを誤魔化そうとパッと手を離す。


 「積極的だけど、許可が無いから減点ね。こんなところ触られたら起きるよ?」


 お姉さんのワンピースは、若干着崩れて鎖骨が見えたり谷間が見えたりしていて、いけないことをしているような感覚になった。

 幽霊の胸を触ってしまったのは、痴漢になりますかね……?


 「いや……床だと思って手をついたら……」


 まさかお姉さんが隣で寝てて添い寝状態になってたとは思わなかった次第で……。


 「電車でやったら、捕まるよ?」

 「は、はい」


 お姉さんは、人の悪そうな笑みを浮かべるとそう言った。


 「てか、幽霊って触った時に感触みたいなものあるんですね」


 てっきり触ったら、感触がなくて向こうまで指が突き抜けるようなものだとばかり思っていた。


 「う〜ん、それはその個体の持ってるエネルギー次第かな……」


 え、そのエネルギーってまさか人から吸い取ったりしてないよね?


 「エネルギー源って何です?」

 「えっと、食べ物とか人の精気とかから摂取することができるよ」


 あ、なるほど……お姉さんの場合は、さっきのプリンと煎餅でエネルギーを確保したってことか……。

 でもそれだけで、ここまでおっぱいが弾力を持つのだろうか?


 「一応聞いとくんですけど、お姉さんの……その胸に感触があったっていうことは、お姉さんもエネルギーを摂取したんですよね?そのエネルギー源ってどこですか?」


 そう訊くと、お姉さんは口をもにょもにょさせて言い淀むような仕草をみせた。


 「……え〜と、プリンとお煎餅かなぁ〜?」


 目を泳がせながら、言ってるあたりなんだか嘘をついてそうだなぁ……。


 「ほんとにそれだけですか?」

 

 それだけで、あのおっぱいの感触になってしまったのなら、世間の貧乳に詫びるべきだろ。


 「……そうだよ」


 あ〜この人、顔に出ちゃうタイプかぁ。

 全然俺と目を合わせて答えてくれないしずっと右上の方を見ている。


 「ほんとのほんとにそれだけですか?」


 お姉さんとの距離を詰めてもう一度、問いかける。


 「……ご、ごめんなさい!君の精気も貰ってましたぁっ!」


 白状したか……どうりですごく体が重くて疲れてるわけだよ……。


 「やっぱりかぁ。で、どうしたら僕の精気からほかのエネルギー源に切り替えることが出来ますか?」


 このまま新学期が始まっても精気を吸われ続けるのは、たまったもんじゃない。


 「え……もう精気分けてくれないの?」


 物欲しそうな目で見つめられても、あげません。

 ちょっと心が揺らいじゃったけども。


 「ダメです」

 「そっかぁ……精気の代わりに生きてる人間と一緒でご飯食べればいいよ」


 残念そうな顔でお姉さんは答えた。


 「わかりました。食費は増えますが仕方ないですね。お姉さんの分のご飯は作りましょう」


 どうせ、この家に居座るつもりだろうし一人暮らしよりは誰かといたほうが楽しいだろうから、お姉さんの食費が増えることには、目をつぶることにした。

 幸いにして、実家からの仕送りは十分すぎるほど送られてきてるし。

 何かを切り詰めれば問題なく二人でもやりくりできるはずだ。


 「え……いいの?私をここに置いてくれるの?」


 捨て猫が拾われたときのような目をしてお姉さんは、訊いてきた。

 捨て猫が拾われるときにどんな顔してるかは知らんけど、だいたいこんな感じだろう。


 「俺も一人よりは誰かといたほうが楽しいですから」

 「やった!」


 お姉さんは、手を広げて勢いよく抱きついてくる。

 実家にいる大型犬とあんまり変わらないかもしれない。

 てか、ちょっとひんやりしていて気持ちいいかもしれない。

 ひょっとして夏の冷房代が浮くかもしれないな。

 そんなことを考えているとお姉さんは、そのまま俺に乗りかかって一言。


 「でも君の精気、すごく美味しかったんだよ。なんか体の相性がバツグンに良いみたいで」


 受け取り方によったら、だいぶいかがわしく聞こえなくもない発言。


 「だからさ、たまに君の精気をくれない?」


 お姉さんの顔が俺の顔のすぐ目の前にあって嫌でも整った顔が視界いっぱいに映る。

 こんな美人にそんなことを言われたら断れるはずも無かった。

 

 「た、たまにならいいですよ」


 後から何言ってんだ……って思ったけどもう遅かった。

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