736.いつのまにか決まっていた。ありがたいことです

「おおー! けっこうでかいなー! ポチ、タマちゃんお手柄だな!」


 秋本さんのテンションが高い。今回も結城さんが一緒に来て、イノシシを手際よく軽トラの荷台に乗せた。

 そうしてから結城さんがジッとこちらを見る。


「メイちゃん……大きくなりましたね」

「ええ、かなり成長したと思います」

「……でもかわいい」

「ええ、かわいいんですよ」


 結城さんはにっこりして、秋本さんと戻っていった。イノシシを解体して病変などないかどうか確認してから改めて連絡をくれるという。


「よーし、じゃあうちに集合だ!」


 秋本さんたちがイノシシを運んでいってから、おっちゃんが胸を張ってそう言った。


「え?」


 ?がいっぱいである。


「うちのが飯作って待ってるから行くぞ」

「ありがたいなぁ」

「お言葉に甘えようねえ」

「佐野さん、行きますよ」

「え? え?」


 なんかいつのまにか話がついていたらしい。イノシシの宴会の話のついでに今日のお昼ご飯の話になっていたみたいだ。またおばさんがごはんを作ってくれていると聞いておろおろしてしまった。

 ユマとメイにグイグイ押されて軽トラに移動した。


「え? なんで? ポチと、タマは?」


 ポチとタマは俺たちから離れたところにいた。ポチの足がタシタシしている。これからパトロールに出かけるつもりらしい。お昼は現地調達するみたいだ。


「えーと……暗くなる前には家に戻ってこいよー」


 クァーッ! とポチが鳴き、そのままタマと共にツッタカターと山を降りていってしまった。やっぱポチとタマはおっちゃんちには行かないみたいだ。

 ユマとメイにジッと見つめられていた。


「ああ、うん。おっちゃんちに行こうな」


 ココッとメイが鳴き、バサバサッと羽ばたいて荷台に乗った。


「おおう……」


 そして丸くもふっと座る。

 ユマは当たり前のように助手席へ。


「じゃ、じゃあ行こうか……」


 メイが荷台なんだなぁと今更ながら思い、おっちゃんちへ向かった。


「お邪魔します」


 ユマとメイは庭に行かせていいと言われたので、庭に行かせた。おっちゃんちである。


「いらっしゃい。疲れたでしょう? 大したもてなしもできないけど、ゆっくりしていってね~」


 おばさんがそう言いながら漬物とお茶を出してくれた。


「ありがとうございます」


 一応川で手を洗ったりごみを取ったりニワトリチェックは受けてきているが心もとないので、みな先に外で水道は借りた。そして更にユマとメイからチェックを受けて縁側から居間に上がった。


「いやー、ユマちゃんとメイちゃんは優秀だよな~」

「だねー。助かっちゃうよー」

「そうですよね」


 陸奥さん、戸山さん、相川さんがにこにこしている。

 おっちゃんもしっかりニワトリチェックは受けていた。


「虫を家に持ち込まないように、ニワトリを飼った方がいいんだろうか」


 おっちゃんが首を傾げて本気で悩んでいる。


「……全てのニワトリが佐野さんちのニワトリさんたちみたいに優秀とは限りませんよ」


 相川さんが苦笑した。


「それもそうだな。冬になりゃ餌もなくなるしな。そうなったら潰すしかねえし」


 ひえっと思う。そういえば掛川さんちのブッチャーは……元気、だよな。この間稲刈りの時も見たもんな。


「かけちゃんとこのは元気らしいけどなー」

「……それならよかったです……」


 ペットじゃなくて家畜だからしょうがないんだけど、次に行って姿が見えなかったら泣いてしまうかもしれない。一応掛川さんには、もし飼い続けられない場合はこっちで引き取りたいとは伝えてあるけどどうなることやら。

 トイレとかは苦労するかもしれないけど、ポチと仲良いニワトリがいなくなるのは嫌だと思った。


「簡単だけど勘弁してね~」


 おばさんが料理を運んできてくれた。


「昇ちゃん、ユマちゃんとメイちゃんの野菜、取りにきて」

「はい、ありがとうございます」


 ボウルに野菜くずと野菜を切ったものが入っている。ありがたくいただいてユマとメイに出した。ココッ、コココッと二羽が鳴いてつつきだす。

 今日のお昼ごはんは中華丼だった。それとサラダチキンを使ったサラダに、大根の煮物と豚肉の照り焼きにみそ汁である。豪華だと思った。


「こんなものでごめんなさいね」

「いえいえいえいえ、豪華ですよ!」

「真知子ちゃん、ありがとうなー」

「ゆもっちゃんは果報者だねえ」

「おいしいです」


 俺、陸奥さん、戸山さん、相川さんが口々に言う。「あら、いやだ」なんておばさんが笑う。中華丼の餡は市販のタレを使ったから手抜きだなんておばさんは言っていたけど、市販のもおいしいんだから十分だと思う。何よりもごはんを用意してくれるということがありがたいのだ。

 おっちゃんが「うちのは世界一だからな!」とガハハと笑った。奥さんのことで謙遜しないのっていいよなと思う。


「大根がまだ固かったかしらねえ」

「そうでもないですよ」


 相川さんが答えた。


「もう少し経つともっと水を含んで柔らかくなるんだけど」

「それもおいしいですよね」


 相川さんは料理の話をしている時は生き生きしていると思う。

 みんなでおばさんの手料理をおいしくいただいて、また明日の話をすることにしたのだった。



次の更新は12日(金)です。

「山暮らし~」6巻、すでに一部の書店さんで販売開始しているらしいです。

特典はゲーマーズさんと、企画実施店舗さんです。

明日にはまた書籍発売記念SSを上げますね。どうぞよろしくお願いします!

https://kakuyomu.jp/official/info/entry/yamagurashi6

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