597.浴衣姿は確かに見慣れないかもしれない

 ポチとタマは、本当にどっか時計でも仕込んでるんじゃないかと思うような、絶妙な時間に戻ってきた。

 準備はもうできていたので軽トラに乗ってもらい、全員で出発する。今日は家の鍵は閉めてもいいんだよな? 指さし確認大事。


「さーて、しゅっぱーつ!」

「シュッパツー」

「ピヨピヨ」


 ユマとメイが一緒に言ってくれるのが嬉しい。ついにまにましてしまう。

 おっちゃんちに着くと、もう桂木さんの軽トラが停まっていた。浴衣に着替えて軽トラ運転とか、やりづらくないんだろうかと考えてしまった。

 浴衣で軽トラを運転。

 なんかカッコいいな。(個人の感想です)

 ニワトリたちを下ろすと、桂木妹が玄関から顔を覗かせた。髪型もばっちりである。


「あ、おにーさんこんにちはー。おにーさんたち来ましたよー」


 後半は家の中に声をかけていた。桂木妹に手招きされる。


「こんにちは。ニワトリをどうすればいいか聞いてもらえるかな」

「はーい。ニワトリちゃんたちはどうしたらいいですかー?」


 少し間が開いて、


「庭の方にいてもらってだそうですー」

「ありがとう」


 見た目は完全にギャルなんだけどすっごいいい子なんだよな。見た目は、ってのは余計か。こんなこと言ってたらおじさん認定されてしまうかもしれない。

 ニワトリたちに庭にいるように言うと、ポチが代表してココッと返事をした。

 家の陰にドラゴンさんが寝そべっているのが見えた。今日は一緒に来たらしい。


「タツキさん、こんにちは。今日はニワトリたちも一緒に来ています。どうぞよろしくお願いします」


 そう声をかけると、ドラゴンさんはゆっくりと頷いた。さすがにもうメイも餌にはならないと思う。

 そうしてやっとおっちゃんちに入った。


「こんにちはー。ニワトリたちは庭にいさせてます」

「あ、昇ちゃんいらっしゃい」

「佐野さん、こんにちはー」


 さっそくおばさんに浴衣を着せてもらうことになった。もうお祭りは始まっているから行ってこいという。


「あの……でもニワトリたちの餌を……」


 俺が準備しないといけないだろう。


「もう浴衣着ちゃったんだからいいわよ! あ、でもそうね。ビニールシートだけ敷いてもらってもいいかしら?」

「はい」


 それぐらいはさせてもらわないと困る。


「夕飯はまだだけど待っててくれな~」


 浴衣姿で出てきた俺を見て、ニワトリたちが一斉にコキャッと首を傾げた。


「え」


 ナニコレ、めちゃくちゃかわいいんだが。


「ポチ、タマ、ユマ、メイ、どうした?」


 ココッとユマが鳴いて、トトトッと近寄ってきた。


「ん?」


 そしてまた首をコキャッと傾げ、すりっとしてから戻っていく。なんなんだろうと思ったけど、かわいいからいいか。

 ビニールシートを敷いている間、メイは遠くにいた。視線は感じるんだが近づいてはこない。もしかして見慣れない恰好だから俺だと認識されていないんだろうか。それはそれでショックだな~と思いながらビニールシートの端に石を置き飛ばないようにした。

 確かに、俺っていつも作業着だからその恰好が俺って認識なのかもしれないな。


「もう少ししたらおばさんかおっちゃんが餌を持ってきてくれると思うから、荒らさないでくれよ?」


 そう言って玄関の方へ向かう。俺が着ているのより明るめな藍色の浴衣を着た桂木姉妹が待っていた。浴衣は藍色だが、蓮の花などの模様が大きくて色鮮やかである。やっぱ女子は華があっていいなと連れ立って出かけることにした。


「いってきます」

「いってらっしゃーい」

「佐野さーん」

「おにーさん」

「なんだなんだ」


 二人に腕を取られて挟まれた。これだけ見ると俺ってハーレム状態だよな。かわいい女の子を侍らせた冴えない男……。村中の噂になりそうだけどもうどうでもいい。ちょっと遠い目をした。


「あれー? おにーさん嬉しくない? 美女二人にくっつかれてるのに!」

「自分で美女って言うか……かわいいけど、妹二人の間違いだろ?」


 俺は苦笑した。

 でも女の子っていいよな。柔らかいし、いい匂いがするし。

 だけどそれでこの二人をどうこうしたいとかは思わない。俺って大分枯れてるのかもしれないな。

 そんなことを思いながら神社の方へ向かう。

 祭り囃子のような音色が聞こえてくる。これはスピーカーで流しているんだよな。そして太陽がどんどん西の方へ沈んでいくのがわかった。

 桂木姉妹はそっと絡めていた腕を離した。

 くっついてくれていてもよかったんだが。何かあればその方が一緒に逃げられるし。(戦ったりはしない)

 そんなことを思いながら、神社へ上る階段に足をかけた。

 歩いている人はまばらだったが、階段を上ると思ったより人がいた。子どもたちは屋台というより神社の周りを走ったりして遊んでいる。


「お祭りだねー!」


 桂木妹が嬉しそうに声を上げた。


「……去年は私、一人でこの階段上がったんですよ。ちょっと心細かったです」


 桂木さんがにこにこしながら言う。俺が屋台の手伝いをしていたのだからそれはしかたないだろう。


「山中のおばさんたちは来なかったのか」

「来年は当番だから参加するとは言ってましたけど、自分たちが当番の時以外は若い人たちが楽しんでおいでって送り出されました。だから佐野さんに会えたのは嬉しかったです」

「そっか、もう……あれからも一年経つんだよなぁ」


 そう言いながら二人を確認し、相川さんの屋台を探すことにしたのだった。



次の更新は16日(木)または17(金)ですー。よろしくー。


1200万PVありがとうございます! また近々記念SS上げますね。


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鈍感社会人女子視点の恋愛です。


タイトル考える方が時間かかるのですー(汗

よろしくー

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