563.ジビエは時期や個体によって味が変わる
ハンバーグは照り焼きにされて出てきた。
それも二枚。そして両方ともでかい。ナスとピーマン、ヨモギの素揚げが付け合わせで出てきた。でもなんつーか、それも付け合わせって量ではなかった。ごっちゃりである。嬉しいけどな。
「こんな程度でごめんね~」
とおばさんが言っていたが、十分である。なにせごはんも日本昔話ばりにてんこ盛りだ。それにみそ汁がつく。
「こんなに食えねえよ」
とおじさんが文句を言っていたが、しっかり食べている。
うまい、シカ肉バーグ最高。シカ自体に脂身はほとんどないが、付け合わせの野菜の素揚げと合わせて食べると絶品だった。たまらん。
「ハンバーグはもっとあるから、おかわり欲しければ言ってね」
「いやいやいやいや……」
一枚が草履ぐらいあるハンバーグである。それが二枚もあって満腹にならないわけがない。余った分は肉団子にして持たせてくれると言われた。もう本当におばさんには頭が上がらないのである。
「あー、うまい……」
「昇ちゃんが食べてくれるから作り甲斐があるのよ。もう、手土産なんていらないって言ってるでしょ!」
煎餅を持ってきただけなのにまた怒られてしまった。
「持ってきたいんだからしょうがないじゃないですか~」
「そんなこと気にしなくていいのよ!」
玄関の方からクァーッ! と鳴き声が届いた。ユマだろう。
「ごはんあげてくるわね~」
おばさんは途端に笑顔になって居間を出て行った。ユマさまさまである。
「昇平」
「はい」
「伯父っつったらあれか。勝野の家になるのか」
「ええまぁ……母方の伯父なんで苗字は勝野ですけど」
うちの駐車場とかを管理しているのは母の兄だけど、二番目の兄さんだと言っていた。一番上のお兄さんが勝野の家を継いでいるはずである。つっても母さんちは分家だったらしいけど。本家はおっちゃんの友人だって言う母さんの従兄の家だ。
「母さんの家は上のお兄さんが継いでるって聞いてます」
「ああ、じゃあ勝野とはまた別の家になるのか」
「ええ、そうですけど……何か?」
「いや……あんまり昇平が大変そうなら勝野に声をかけようかと思ってよ」
おっちゃんはバツが悪そうに頭を掻いた。
「いえいえ、さすがにそれには及びませんよ。多分弁護士に相談するって言えば済むと思います」
「いろいろたいへんだな」
「ですね」
へらっと笑った。気持ちはとても嬉しいが、親戚のおじさんにまで迷惑はかけられない。そうじゃなくたって湯本のおっちゃんと繋げてくれたおじさんである。それに、分家の従兄弟のことなんかで煩わせてはいけないだろう。
また野菜とか肉団子とかいっぱいお土産に持たされてしまった。俺が持ってくる手土産なんて大したことないじゃないか。
野菜はうちのニワトリたちも喜んで食べるからとても助かる。
「肉団子ってこのままスープとかに入れちゃってもいいかんじですか?」
一応おばさんに聞いてみた。
「ちょっと臭みがあるから、そのまま普通のスープに入れるのは止めた方がいいかもしれないわ。スパイスを効かせたものならいいかもしれないけどね」
「カレーみたいなかんじですかね」
「中華系でもいいとは思うけど」
確認してよかった。俺はあんまり肉の臭みとか気にしない方だが、それでおいしく食べられなかったら嫌だし。おっちゃんにも改めて声をかけた。
「実家に向かう時は改めて連絡入れますね」
「おう、そしたら餌ぐらいは準備しといてやるよ」
「助かります」
ぶっちゃけ一晩ぐらいならどうにかなるとは思うのだが、やっぱりメイはまだひよこに毛が生えたかんじだから心配なのだ。過保護だって? ほっとけ。
家に戻ってユマとメイを降ろす。二羽共シロツメクサが群生している辺りに向かい、ついばみ始めた。
花が咲いているところにいるニワトリとひよこ。
すごく絵になるなぁとスマホで何枚も撮影してしまった。うん、かわいい。
うっかりそのまま母さんに送りそうになったが、尾が写ってないかとか、不自然さはないかとか確認してからにしよう。メイが手前にいたからあんまり違和感はないと思いたい。
相川さんからLINEが入ってきた。
「明日にでもいらっしゃいませんか? ダージリンの新茶が届きました」
お茶しませんか、ってどこのステキ男子なんだろう。確かに飲みたいは飲みたい。でもおばさんと飲むみたいなこと言ってなかったかな。
「湯本のおばさんにはどうしましょうか?」
「でしたら湯本さんちに向かいましょうか」
また明日おっちゃんちに行くことになりそうである。
「またお昼ごはんも食べに来なさいよ~」
おっちゃんちに図々しくお伺いの電話をかけたら、おばさんにまたそう言われてしまった。明日の手土産は絶対に持ってくるなと言われたけど、
「相川さんが紅茶を持ってくるんですから、お茶菓子は持っていきますよ」
と俺は譲らなかった。
「紅茶に合うお茶菓子ねぇ……」
「緑茶みたいな味わいだって言ってましたから、和菓子でもいいかもしれません。和菓子屋で買っていきますから」
「お金払うからね」
「受け取りませんよ!」
油断も隙もあったものではない。
全く、みんなして俺を甘やかしすぎだとため息をついたのだった。
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