542.どうにか連絡は取れたので

「シカ3。連絡頼む」


 という相川さんからのLINEが入った。

 シカを本当に三頭倒したらしい。どうなっているんだと頭を抱えたくなった。

 秋本さんに連絡しようとして、三頭捕れたら一頭はリンさんたちにあげるんじゃなかったかな? と思い出した。


「シカは二頭で電話入れますか? リンさんはまだこちらにいます」


 相川さんがLINEを受け取れるかどうかはわからなかったが入れてみた。

 十分程して、「2で」と返ってきた。秋本さんに電話を入れることにした。


「もしもし、すみません佐野です」

「もしもし、佐野君? またニワトリかい?」

「ええ。シカを二頭狩ったみたいです。相川さんが付いていってくれたので確実だと思います」

「えっ? そうなのか。じゃあできるだけ早く行くよ」

「よろしくお願いします」


 電話の向こうで秋本さんが驚いたような声を上げた。さすがにまたシカ二頭は多いよな。相川さんに「連絡しました」とLINEを入れた。

 どこで見つけたんだろう。

 ユマにメイを頼んで玄関の戸を開けた。リンさんはどこかと見回すと、裏山に近いところで佇んでいた。黒く長い髪の後ろ姿は、昼間見てもホラーっぽかった。


「リンさん、相川さんから連絡がありましたよ」

「ソウカ」


 リンさんは蛇の胴体を動かしてこちらを向いた。やっぱ女性の身体は擬態なんだなと改めて思う。


「シカが三頭捕れたらしいので、一頭はお渡しすることになるんですけど、どうしたらいいでしょうね?」

「マツ。サノ、アリガト」

「いえ」


 相川さんが戻ってくるまでここで待っていてくれるらしい。ちょっと腹がすいたので家に戻り堅焼きの煎餅を一枚齧った。うん、堅い。

 地元ではこんな堅い煎餅ってあんまり食べたことなかったなとか、とりとめもないことを考えた。

 さて、相川さんたちと秋本さんたちのどちらが早く着くだろうか。麓の鍵を開けてこないといけないだろうが、どうしたものかなと思っていたら何やら音が聞こえ始めた。


「ユマ、メイのこと頼むな」


 頼んでばかりで申し訳ないが、外へ出た。

 タマと相川さんが戻ってきたようだった。


「佐野さん、すみません。まさか本当に三頭獲れるとは思っていませんで……」


 相川さんは汗だくだった。相当走ったのだろう。首に巻いたタオルでしきりに汗を拭っている。


「そうですよね。お疲れ様です。冷蔵庫に麦茶作ってあるんで飲んでください」

「ありがとうございます。一頭はうちの山の方へ追い落としたので……タマさん、リンを案内していただいてもいいですか?」

「イイヨー」


 追い落としたって……怖い。リンさんを案内してそのまま帰ってもらうのだろう。


「リン、シカの場所がわかったら持って帰るか、テンを呼んで帰ることはできるか」

「デキル」

「じゃあ頼む」

「ワカッタ。タマ、アリガト」


 タマはツンと嘴を上げた。ポチと一緒に獲ったんだろーが。

 リンさんは俺たちの前ではゆっくり動くが、タマに促されて進み始めたらすごく早かった。


「えええ……」


 ヘビってあんなに素早く進めるもん? タマの動きに付いていっているように見える。あのスピードで進めるなら、確かに海ぐらい泳いで越えてしまうかもと冷汗をかいた。


「タマさん、優しいですね」

「えっ?」

「ちゃんとリンがついてこれるような速さで走ってくださるんですから」

「そ、そうですか……」


 以前秋本さんたちを獲物の場所に連れてくる時は容赦がなかったと聞いたけど、ついてこれるギリギリを攻めてるって解釈でいいのだろうか。

 スマホが鳴った。


「はい。あ、すみません。鍵開けに向かいます!」


 秋本さんたちが麓に着いたらしい。相川さんには家で休んでもらうように頼み、俺は慌てて軽トラを麓まで走らせた。


「すみません、鍵を開けてなくて……」

「いいってことよ」


 にっかりと笑った秋本さんの軽トラの後ろからは、何故か陸奥さんの軽トラまで続いていた。


「あれ? 陸奥さん、どうかなさったんですか?」

「いやぁ、連絡があった時秋本はうちにいたんだよ。二頭って聞いたからなんか手伝えないかと思ってな!」


 相変わらず元気なじいさんである。


「わかりました。とりあえず行きましょう」


 さすがに陸奥さんに運ばせるわけにはいかないから俺が行けばいいかなと思った。


「あれ? 陸奥さん?」


 相川さんも陸奥さんの姿を見て目を丸くした。陸奥さんは俺にしたのと同じ説明をした。


「じゃあ……陸奥さんにはユマとメイと、留守番しててもらっていいですか?」


 相川さんにとりあえずおにぎりを食べてもらいながら提案してみた。


「留守番か……まぁ、佐野君が行ってくれるならしょうがねえな」


 そう言いながらも陸奥さんはメイにデレデレしている。メイは好奇心が強いせいか、秋本さんや結城さんにもピイピイ鳴きながら近づいていた。結城さんの顔もデレデレだ。でも結城さんにはシカを運ぶのを手伝ってもらわなければいけない。シカの回収だからメイと遊ぶ時間はないだろう。また今度遊んでやってください。

 シカは二頭ともそれなりにでかいらしい。やはり四人はいた方がいいみたいだ。俺、相川さん、秋本さん、結城さんのメンバーである。そんなわけで縄だのナタだのを持って、シカを回収しに行くことにしたのだった。


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よくわからない場所に落とされて、イタチ(?)とサバイバルしながら暮らします~。

本日も最低4話上げる予定です。

大蛇にオスとメスがいれば~みたいなことを言われたけどそんなに単純じゃない。

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