531.お客さんが来るらしい

 シカ肉が早めに届くようならおっちゃんに連絡をくれるように頼んだ。

 手間だろうとは思ったが、おっちゃんは快諾してくれた。


「ハンバーグこねるんだって? 昇平も奇特だなぁ」

「そうなんですかね?」


 コックって言ったら男の方が多いわけだし、料理も力仕事は男がした方がいいんじゃないかと思うんだが。

 ポチとタマはちゃんと、太陽が中天に差し掛かった頃に戻ってきた。太陽の光の位置とかで大体の時間がわかるんだから優秀だよな。曇の日とかは難しいけど。そういう時は前みたいに腕時計を持たせたりすればいいだろう。時計も細かくはわからないけど大まかには読めるのだ。あれ? やっぱうちのニワトリって相当優秀じゃね?(かなり今更)


「おかえり~。ごはん食べるかー?」


 今日は養鶏場からもらってきた餌と野菜ぐらいだが。肉は夕方からたんまり食べるのだからいいだろう。


「タベルー」

「タベルー」

「わかった。ちょっと待ってろ」


 台を出してその上に餌と小松菜を入れたボウルを置いていく。水の入ったボウルもだ。当然ながらユマにも、メイにもあげた。

 うちの子たちは本当によく食べる。あんまり大きくなられると困るのだが、健康でいてくれるならいいと思うのだ。

 手土産は相川さんが持っていってくれるし、桂木姉妹も来る。

 ニワトリたちがごはんを食べ終え、俺も軽く昼飯を食べて片づけが終わった頃、おっちゃんから電話があった。


「おっちゃん? シカ肉届いたの?」

「ああ、それもあるんだけどな。隣村との境に国有林があるだろ? あそこに住んでる山唐さんが夫婦で来るっつーんだよ。いいか?」

「え? 山唐さんが? もちろんいいですよ?」


 なんで俺にわざわざ聞くんだろうと思った。


「それだけだ。あんまり無理しないでこいよ」

「? はい? もう少ししたら出ますね」


 シカ肉も届いているというからハンバーグをこねるつもりで出かけることにした。

 それにしても山唐さんか。がたいのいい姿を思い出した。なんつーか、あの姿を見ると一瞬ギクッとするんだよな。言っちゃなんだけど一瞬獣っぽく見えることがあるのだ。ご本人はとても丁寧だし、奥さんも小さくてかわいいんだけど。(山唐さんに比べればとても小さく見えるというだけである)


「行くぞー」


 とニワトリたちに声をかけて、いつも通りポチとタマは荷台、ユマには肩掛け鞄にメイを入れて助手席に乗ってもらう。

 忘れ物チェックをして出発だ。


「しゅっぱーつ」

「シュッパーツ」

「ピイピイピイ」


 合いの手を入れてくれるひよこがかわいい。うちのニワトリたちがニワトリになったのってどれぐらいだっただろうか。確か、買ってから一月立つ前にもうニワトリっぽくなってた気がする。そうなるとメイがひよこでいるのもあとわずかなのかな。

 そんなことを思いながら軽トラを走らせた。

 おっちゃんちに着くと、軽トラが一台先に着いていた。庭の方を見ると縁側に誰かいるのが見えた。


「こんにちは~」

「おー、佐野君かー。早いなー」


 秋本さんと結城さんだった。

 ニワトリたちを下ろし、「おっちゃんはー?」と聞いたら、「誰か迎えに行くっつってたぞー」と言われた。山唐さん夫妻を連れにいったんだろうか。そこでやっと思い出した。そういえば稲荷神社の人が管理者? とかいう人に連絡をしてくれると言っていた。で、その人から連絡がおっちゃんに来ると。

 その管理者の一人が山唐さんではなかったか。


「ちょっと待ってろよ」


 畑の方へ行きたそうにうろうろしているポチとタマに待っているように言い、家の中へ声をかけた。


「こんにちはー、佐野でーす」

「あらぁ、昇ちゃんいらっしゃーい」


 家の中からおばさんの声が届いた。


「ニワトリたち、どうしたらいいですかー?」

「畑の方まで行かせてていいわよー。山には上らせないでねー」

「わかりましたー!」


 そう答えて、


「おばさんが言ったこと聞こえたか? 畑には行ってていいってさ。でも山に入っちゃだめだぞ」


 とニワトリたちに伝えた。ニワトリたちはココッ! と返事をし、ツッタカターと走っていった。ユマはさすがに呼び止めた。


「メイはどうする? 下ろすか?」


 コッ! とユマが返事をする。肩掛け鞄を取り、メイを下ろす。メイはぶるぶるっと身体を震わせて、ピヨピヨと鳴いた。そして地面をつつき始める。

 はー、ひよこかわいい。


「うっわ、ひよこってやっぱかわいいですねー」


 結城君がにこにこしている。


「かわいいよな。ユマ、メイのこと頼むな。俺おばさんの手伝いしてくるから」


 ココッとユマが律儀に返事をしてくれるのが嬉しい。そうしてやっとおっちゃんちに足を踏み入れ、よーく手を洗ってから透明なビニール手袋をはめて大量のハンバーグの種をこね始めた。これっていくつぐらいできるんだろう。俺がこねている横でおばさんが手際よくいろいろ作っているのが見える。洗い物もすごいスピードでされていくのがさすがだなと思う。やっぱベテランは違うよな。


「昇ちゃんが手伝ってくれるの助かるわ~」


 おばさんがにこにこしている。

 自分でハンバーグ食べたいとは言ったけど、これは多すぎではないのかとちょっとだけ思ったのだった。

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