530.いつも同じやりとりをしている気がする

 忘れないうちにと、おっちゃんちに電話をかけた。


「おお、昇平どうした?」

「おばさんいます?」

「おお、いるぞ」


 電話を代わってもらい、図々しいとは思ったが明日はシカ肉のハンバーグが食べたいということを伝えた。


「あらあら、昇ちゃんからそういうリクエストをもらうなんて初めてじゃない? わかったわ、張り切って作るわね~」

「いいんですか?」

「ミンチなんて機械でやればいいんだからなんてことないわ」

「ありがとうございます。こねるぐらいなら俺でもできると思うので」

「あらそう? じゃあ手伝ってもらっちゃおうかしら」


 おばさんはとても嬉しそうに言ってくれた。電話を切ってからそうか、と思った。確かに何を食べたいと言っておいてもらえれば多少は楽になる。メニューを考えるのは楽しいとおばさんは言うけど、たまにはリクエストもしてみようかなと思った。

 ポチとタマが帰ってきたので二羽をわしゃわしゃ洗った。一緒に帰ってきたことから、どこかで合流したのだということはわかる。二羽とも同じぐらい汚れていて、いったい何をしていたんだと呆れた。


「なぁ、お前ら本当にどこまで行ってるんだよ?」

「ウシロー」

「ヤマー」

「また裏山まで行ってるのか! 何も狩ってくるんじゃないぞ!」

「シカ、イター」

「シカ、ザンネンー」


 捕まえられなくて残念と言いたいらしい。頭が痛くなるのを感じた。まだドラゴンさんに追われたシカが山中にいるということなのだろうか。困ったものである。


「……シカは、何頭ぐらいいるんだ?」

「イチ、ニー……ンー?」


 ポチがコキャッと首を傾げた。お前は2以上は数えられないのかよ。しょうがなく指を出した。


「1? 2? 3?」

「サンー!」


 指の本数でわかったらしい。


「三頭もまだいるのかよ……明日は夕方からおっちゃんちに行くから、狩ってくるなよ?」


 それだけは言っておかないといけなかった。


「エー」

「エー」

「狩ってきたらおっちゃんちには連れていかないし、内臓もなしだ」

「エー」

「エー」


 不満なのは大いにわかる。わかるのだが、明日も狩られたりしたら秋本さんたちがてんてこまいになってしまう。それだけは避けたかった。


「いいか、ポチ、タマ。俺たちがおいしくお肉を食べられるのは秋本さんたちのおかげだ。明日の宴会には秋本さんたちも来てごちそうを食べるんだ。それなのになにか狩ってきたりしたら秋本さんたちが忙しくなって食べられなくなっちゃうだろ? だからまた今度な」

「エー」

「ワカッター」


 ポチはまだ不満そうだったが、タマには俺の話が通じたみたいだ。やれやれである。


「明日は見てくるだけで頼むな。それに、昼過ぎには出かけないといけないし。わかったか?」

「……ワカッター」

「テイサツー」


 タマは難しい言葉をよく知っている。やっぱりTVとかで覚えているのかなと思った。

 ユマとメイはマイペースだった。我関せずというかんじである。


「明日の……メイの飯はどうするかなー」


 土間で預かってもらうのも迷惑だろう。


「ユマー、メイー」

「ユマが面倒をみてくれるのか?」

「ミルー」

「ありがとうな」


 やっぱ俺ってばニワトリにおんぶにだっこだよなぁ。頭を掻いた。夜はいつも通りタマに居間を追い出された。ひどいと思う。

 んで翌朝。お約束らしく、俺の足の上にタマがのしっと乗った。

 なんで俺、昨夜あれだけ話したのに朝乗って起こすなってことを言いつけなかったんだろう。


「タマ重い、どけー!」


 タマがパッと俺の足の上から飛び降り、部屋を出て廊下をドドドドドッと走って戻っていった。


「あー、もうだからっ! タマ、閉めてけよー!」


 今の時期はいいが冬は寒いんだからな。って言ってもしょうがないんだが言いたいだけだ。

 まだ世界はそこまで明るくないし。


「今何時だよ……ってまだ五時じゃないか」


 今日も雨ではないらしく、太陽がすでにがんばり始めているみたいだ。だから夏はニワトリたちも起きるのが早いんだよな。日の光と共に起きるみたいなかんじだし。


「ったくしょうがねえなぁ……」


 とりあえず朝ごはんをあげて追い出せばいいだろう。昼過ぎには戻ってくるように言って。

 まぁでも、いつも通りってのが一番いいんだよなと思う。いつも通りの朝ごはんを出して、行く準備を改めてして家事をしたりして。

 朝飯の用意をしている間にタマとユマが卵を産んでくれた。


「いつもありがとうな」


 二羽に感謝して、卵をいただいた。先にニワトリの餌を出して、予定通り早めにポチとタマを追い出す。


「昼過ぎには出かけるから、それまでには帰ってこいよー」

「ワカッター」

「ワカッター」

「昨日も言ったけど、何も狩ってくるんじゃないぞ。狩ってきたら内臓は抜きだからな!」


 ビシッ! と言ってやった。


「……ワカッター」

「……ワカッター」


 なんか睨まれている気がする。怖い。でも負けるものか。

 二羽がツッタカターと出かけた後、俺はため息をついた。ホント、最近はどっちが飼主なんだかわからない。最近でもないか。もうそれは昨年から思っていることだった。


「困ったもんだなー……」

「コマルー?」

「ピヨピヨ」


 ユマが俺の呟きを聞きつけて首をコキャッと傾げた。この動きがかわいいんだよな。メイも側でくりくりした目で俺を見ていた。


「大丈夫だよ。ありがとうな」


 そう言ってユマを撫で、メイは掬い上げて撫でたのだった。

 はー、癒される。

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