525.相変わらずお金のことで言い合ったり

 明日の天気予報を見たりしてぼーっとしてから思い出した。

 桂木さんにまだ連絡をしていなかった。慌てて桂木さんにLINEした。


「シカが二頭獲れました。明々後日、湯本さんちで宴会の予定です。是非参加してください」


 返信はすぐにあった。


「本当にシカがそちらへ行ってたんですね! 申し訳ありません。シカの解体費用はこちらも負担しますので教えてください」

「えええ」


 桂木さんにえええと直接返したわけではない。声が出てしまった。別に桂木さんの土地から流れてきたからって桂木さんが責任を感じる必要はないと思う。


「ポチとタマが狩ったから気にしなくていいです」

「でもシカ二頭だとそれなりの金額がかかりますよね? タツキにも分けてほしいのでこちらで負担させてください」


 だからどうしてそうなるのか。俺より若い娘に処理費用を負担させるわけにはいかない。だってシカはうちのニワトリたちが狩ったものだ。


「お金はいらないよ」


 と返したら今度はLINEで電話がかかってきた。しかたなく出ると、


「払わせてください!」

「払わなくていいから!」


 結局押し問答になった。


「だって絶対うちの土地から流れて行ったシカですよね!?」

「そうとは限らないだろ? それにうちのニワトリたちが狩ったんだから関係ないよ。ニワトリたちの獲物だ。桂木さんには一切責任はない」


 きっぱりと答えた。


「むむむ……じゃあ、シカ肉は分けてほしいのでその分の費用は払わせてください」

「いらないって。いつもそういうのでお金はもらってないし、うちも払ってない」

「むむむ……」

「うちのポチとタマの獲物だから、本当に気にしないでくれ」

「……わかりました」


 桂木さんはしぶしぶだったが納得してくれた。こういうところはお互い頑固だから困る。


「あ、でも! 手土産はうちで用意しますから佐野さんは何も用意しないでくださいね!」

「わかった。じゃあそれは頼むよ」


 やれやれだ。電話を切り、ユマとメイを連れて風呂に入ったのだった。



 翌朝スマホを確認するとまた桂木さんからLINEが入っていた。今度はなんだと身構えてしまう。


「明々後日はどなたがいらっしゃるんですか?」


 昨夜のうちに入っていたようだ。


「相川さんと秋本さんたちは確実かな。他はどう声をかけてるかは聞いてないよ」

「わかりました。ありがとうございますー」


 なんだったんだろうと思いながら今日はどうしたものかと考える。梅雨の晴れ間のようで、今日は墓の上を手入れしてこようかと思った。


「今日は墓の上の山の手入れをしてこようと思ってるんだが、誰か付き合ってくれないか?」

「イクー」


 今日はポチが付き合ってくれることになった。タマとユマはメイと共に留守番してくれるらしい。午前中だけ作業をすることにして、餌をあげてから動くことにした。墓参りの準備をし、ポチを助手席に乗せる。乗る時はとさかが引っかかりそうになったが、もふっと座ってしまえば大丈夫だった。それにしても本当にでかくなったなぁと思う。


「先に墓参りするからな」

「ワカッター」


 墓へ向かうと、けっこうな荒れっぷりだった。風もそれなりに吹いていたらしく草があちこちに飛んでいる。まずは近くの川から水を汲み(だいぶ増水していた)、散乱している草などを一か所にかき集めた。墓を洗い、線香に火をつけて供えた。飾る花はそこらへんに咲いている雑草だ。本当は雑草を刈る場合花が咲く前に刈った方がいいらしいのだが、そんなことはやってられない。


「なかなか来られなくてすみません」


 ここ数日あったことを報告し、今日こそはと参道の手入れをまた始めることにした。

 最近本当に全然できなかったからな。

 一応余裕を持って3,4m幅に山の草木を刈っていく。ポチに方角を示してもらって刈っているだけなのでかなりアバウトだ。

 本当は目印みたいな棒とかを等間隔に刺して行った方がいいかもしれないと今更ながら思った。とはいえ、ところどころ遠回りしないといけないところもあるので、まっすぐにというわけにもいかないのだ。索道とかなら別なんだろうけどな。

 そんなわけで木の枝を切ったりなんだりしていたらすぐに時間は過ぎてしまった。しばらく来られなかったから草もけっこう伸びてたし。


「電動のチェーンソーがいるかな……」


 時計を見たら昼頃だったので、ポチに声をかけて戻ることにした。

 山頂に向かって頭を下げる。


「なかなか手入れができなくてすみません。時間はかかるかもしれませんが、山頂までおこなっていきますのでよろしくお願いします」


 いきなりぶわっと風が吹いた。刈った草が撒き上げられたかと思うとどこかへ運ばれていった。


「えええ?」


 呆然とする。ポチもケキャッ!? とか変な声を上げていた。またスズメバチが出たのではあるまいな。


「う、うーん……いいの、かな?」


 首を傾げ傾げ墓のところへ戻ったら、さっき墓の手入れの時に草を集めたところがこんもりしていた。あ、ここに運んでくれたんだと納得した。

 神様のサービスがすごくてどうかと思います。

 さすがに、そろそろどこかに相談した方がいいんだろうか。

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