526.そろそろ夏なので
「偶然にしてはできすぎていると思うんですよ……」
「佐野さんを応援してくれているのではないですか?」
「何もやってないんですけどねー……」
こういう時の相談相手と言ったら相川さんだ。相川さんには迷惑をかけっぱなしだと思う。
「神様って基本は見守ってくださっているんですよね。そこで暮らしている住民に対して何をするとかしないとか、そんなルールがあるとはとても思えないんですが……」
「物語とかだと神々の世界にもルールはあるみたいなことはよく書かれていますけど」
「物語ではありませんから、そういうことに詳しいと言ったら村の稲荷神社に相談してみるとかですかね」
「ああ、そうですね……」
そういえば村に稲荷神社があることは覚えている。お祭りでお世話になった。そういえば以前ニワトリとの巡り合わせについて稲荷神社の方へありがとうございますと手を合わせたら、「ウチジャナイ~」って言われたんだよな。
じゃああの屋台はいったい? と思ったが、神様じゃなくても物の怪とかもいるんだろうし俺たちが考えているより単純ではないのかもしれない。
以前もちら、と村の神社にうちの山のご神体とかの件で相談しに行こうと思ったことはある。あの時はうちの管轄じゃないって言われそうな気がしてやめたんだよな。でも神様ってこういうことをするものなのかっていう一般論的なことを聞きに行くのはいいかもしれない。神様の一般論。自分で言ってて意味がわからない。
「いきなり行って相談とか乗ってもらえるものなんですかねぇ」
「相談料とか持って行けば確実かもしれません」
「ありがとうございます」
そうだな。話を聞いてもらうんだからお礼は必要だろう。
今日は幸い梅雨の晴れ間だ。昼飯も食べたし思い立ったが吉日でユマとメイに聞いてみた。
「イクー」
「ピィピィ」
メイはそのまま行くってことでいいのかな。メイは大きめの肩掛け鞄に入れてユマに運んでもらうことにした。肩掛け鞄をかけているユマ。めちゃくちゃかわいい。(ニワトリバカ全開
ちなみにポチは昼飯を食べたらツッタカターと遊びに出かけた。その後ろ姿が尾をフリフリしてとても楽しそうで、付き合ってくれてありがとうな~と思ったのだった。
うちのニワトリたちは自由が一番だ。もう何も狩ってくるなよとは言ってあるけど。つーかニワトリに何も狩ってくるなって釘刺さないといけないってなんなんだろうな。考えるだけ無駄か。
ユマとメイには軽トラに乗ってもらい、村の神社がある丘のようなところまで向かうことにした。村の神社はちょうど村の中心っぽいところにあり、そこも山というか丘のようになっているのだ。神社に繋がる階段の手前の駐車場に軽トラを停め、ユマと共に階段を上った。
あまり段数もないのですぐに境内に着いた。背の高い木が沢山周りに生えていて、まだ昼間だというのになんか暗い。
「おや、佐野さんではありませんか。どうかなさいましたか?」
神社の脇から出てきた男性に聞かれて、俺はびくっとした。
「あ、あの……なんで……」
その男性は、どこにでもいそうな風貌でありながら、どこか普通の人とは違って見えた。ユマが俺の前に出る。男性は笑んだ。
「昨年の夏祭り、手伝いに来てくださったでしょう。その際に関わった方の顔と名前は覚えております。申し遅れました。私、稲林と申します。こちらの神社の管理や掃除を主に行っています。どうぞお見知りおきを」
「あ、はい。すみません、佐野といいます」
「はい、存じております」
頭を下げたけどそこで会話が終ってしまった。なんともふわふわしたかんじで、不思議な人だなと思った。
「その、今日はちょっと相談というか……聞きたいことがあって来ました」
「なんでしょう?」
稲林さんは首を傾げた。
「ええと、こちらの神社は管轄外だと思ったのですが……うちの山にも神様がいらっしゃいまして」
「佐野さんの山というと、サワ山ですか」
「はい」
よく知っているなと思う。何故かユマの羽が逆立っているようで、宥めようと羽を優しく撫でた。
「最近なんですけど、雨が止んでほしいと思ったらうちの回りだけ雨が止んだり、草を刈ったら風が巻き上げて一つ所にまとめてくれたりということがあったんです。これは神様が関係しているのか、それともただの偶然なのか、と……」
自分でぺらぺら話していておかしいと思った。こんなことを聞かされても稲林さんが困るだけだろう。俺は別の神社の方にいったい何を話しているのか。
稲林さんはため息をついた。
やっぱり呆れられたのかもしれなかった。
「佐野さんは、それを好ましくないとお考えでしょうか」
「いえ、そんな、ことは……ただ、俺は何もしていないのにどうしてそこまでしてくれるのかなって……」
「神のお考えは計り知れないものです。確かにうちの管轄ではありませんが、一度そちらへ担当者を向かわせましょう。こちらの神社の者ではありませんが、どのように付き合っていけばいいか教えてくれるはずです」
「あ、ありがとうございます!」
やっぱりこちらの神社の管轄ではなかったらしい。
「それから、ニワトリ殿。そなに警戒されなくても大丈夫です。貴方がたに本気を出されたら私共はかないませんから」
「えっ?」
「湯本氏から連絡をさせましょう。それでは」
クァーッ! とユマが鳴いた。一瞬鳥肌が立った。いったい、どういうことなんだろう。
「え? あれ……?」
少し離れたところにいたはずの稲林さんの姿がいつのまにかなくなっていた。
「もしかして……」
それこそ狐に化かされた? でも担当者をうちの山に来させるとか言っていたし、おっちゃんから連絡させるとも言っていた。
「なんだったんだろうな?」
俺はユマの羽を撫でて、狐につままれたような気分で階段を下りた。で、スマホを取り出し、
「おっちゃーん! 説明してー!」
おっちゃんに電話をしたのだった。
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540万PVありがとうございます~。これからもよろしくですー!
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