510.西の山の住人が見にきてくれた(ごはん付)

 メイが産まれて一週間が経った頃、予定通り相川さんが来た。

 さすがにリンさんとテンさんは来なかった。メイが丸飲みにされてしまう。

 相川さんが来るということで、ポチとタマは珍しく遊びに行ったのに戻ってきた。


「え? ポチ、タマ、どうしたんだ?」

「ヒヨコー」

「アイカワー」

「ん?」


 ポチとタマが違うことを言い出した。多分戻ってきた理由は同じなのだろう。


「えーと、ひよこが心配で戻ってきたってことでいいのかな? 相川さんっていうより、リンさんかテンさんが来ないかの確認か?」

「エライー」

「ワカッター?」


 ポチは純粋に褒めてくれたっぽいのだが、なんかタマの言い方はイラッとくるな。なんかTVでこんな言い回しを聞いたのかもしれない。


「タマ、そこは”当たり”って言ってくれよ」

「アタリー?」

「アタリー?」

「そうそう」


 なんで俺はニワトリ相手に言葉教えてるんだろうな? インコでもオウムでもないはずなんだが不思議だ。だからお前らの声帯は(以下略

 ユマは変わらずうちの中でメイの相手をしている。家の中を覗くとかわいいとかわいいが見えてがんばろうと思えるのだった。

 そんなことをしているうちに車の音が聞こえてきた。今朝麓の柵の鍵は開けてきたてあった。

 ポチとタマがトトトッと駐車場の近くまで移動した。それと同時ぐらいに駐車場に相川さんの軽トラが入ってきた。


「あれ? 今日はポチさんとタマさんが出迎えですか?」


 ポチとタマは相川さんの軽トラが停まったことを確認すると、助手席や荷台の方へ向かった。


「イナイー」

「ダイジョブー」


 そう言って俺の側に戻ってきた。


「お前ら、さすがに失礼だろ……すみません、相川さん……」


 相川さんは苦笑した。


「いえいえ。大事なひよこをうちのリンとテンに見せたらたいへんですもんね。配慮が足りませんでした。連れて来てはいませんから安心してください」

「ワカッター」

「ワカッター」


 ポチとタマは返事をするとツッタカターと走っていった。


「ああもう……本当にすみません」

「いえ、ポチさんとタマさんの危機管理能力は素晴らしいです。メイさんがある程度育つまでは連れてはきませんので安心してください」


 相川さんはそう言ってにこやかに笑んだ。目も笑っていることは確認した。気を悪くしないでよかった。

 家に相川さんを案内した。


「お邪魔します」

「ピィピィピィ」


 メイの行動パターンは今日も変わらない。どうしても土間に下りたいらしく、ユマの羽毛に埋もれている。


「ユマ、相川さん来たよ。メイ、下りようとしちゃだめだろう」


 メイをユマのおなか辺りから掬い上げて、相川さんに見せた。


「うわぁ……本当にひよこですね。って、ひよこはひよこですけど……」


 相川さんはまじまじとメイを見た。


「やっぱりこの尾は羽じゃないんですね……」

「そうですね。ユマたちと同じっぽいです」

「だとすると、やはり羽毛恐竜の可能性が高いですね。卵から産まれたばかりでもこの尾なんですねぇ」


 相川さんはうんうんと頷き、興味深そうにメイを眺めた。


「いいものを見せていただきました。佐野さん、お昼ご飯は僕が作ってもいいですよね?」

「アッ、ハイ」


 やっぱりごはんを作ってくれるらしい。相川さんの料理はとてもおいしいので大歓迎です。


「またシイタケづくしになってしまうのですが……」

「ありがとうございます。嬉しいです」


 ユマが抱卵してからはあまり外に出ないようにしていたし、産まれたら産まれたで出られないしで、雑貨屋に売っているものを急いで買って帰ってくるという生活だったのだ。シイタケとか生のは雑貨屋に売ってない。(干しシイタケは売っている)


「困っていないかと思って野菜も持ってきたのですが」

「すんごくありがたいです!」


 俺はうんうんと何度も頷いた。実は先日おっちゃんが来た時も野菜をどっさり持ってきてもらったのだ。お金を払おうとしたのにまた受け取ってもらえなくてムキイイイイとなっている。もう少しメイが大きくなったらいいものをお取り寄せしておっちゃんちと養鶏場、そして相川さんに押し付ける予定だ。覚悟しておいてほしい。(本当に覚悟はしないでほしい)

 シイタケも大量にいただいた。本当に嬉しい。なんにでも使える。


「そういえば養鶏場にシイタケを下ろしてるんですって?」

「はい、おかげで鶏肉をけっこういただいてしまって。鶏肉を平べったく潰して油で焼くものを用意したのですが、いいですか?」

「はい。平べったく潰したら確かに大量に油がなくてもうまく焼けそうですね」

「そうなんですよ。切ってからプレスして火が通りやすくしました。ユマさんには豚肉をどうぞ」

「アリガトー」


 窓という窓を開け放って換気し、筋を取って潰した鶏肉にスパイスがいろいろついているものを焼いてもらった。新食感! と思いながらいくらでも食べられた。野菜たっぷりのサラダはユマも食べたしメイも摘まんだ。


「成形したのとはまた違っていいですね、こういうのも」


 シイタケは田舎煮にごろごろ入っていて堪能した。シイタケ好きにはたまらない。


「やっと減ってはきたのですが、これがまた秋頃まで採れるらしくて……」

「俺、シイタケ好きだから食べますよ」

「ありがとうございます」


 シイタケの笠の内側をギリギリまで取って器にした肉詰めも最高だった。シイタケ二つの間にひき肉が挟まれてるなんてのも好きだが、こういうのもとてもおいしい。シイタケの佃煮はごはんのおともに最適だ。

 また相川さんの料理を堪能させてもらった。


「俺は幸せです……」

「そんな大げさな」


 相川さんは苦笑していたけど、ごはんがおいしいのは幸せだと思う。異論は認めない。

 メイはお客さんが来たことで興奮したのか、ずっとピイピイピイピイ鳴いていた。水もあるし、餌も確認したし、うんちも出てるし異常はなさそうだった。

 そして、相川さんが帰った後は段ボール箱から脱走した居間の真ん中でぱたりと倒れていた。びっくりしたけど力尽きて寝ていただけだった。

 大物だなと思った。


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