505.やっと祠を設置してみた

「ええー!? ヒヨコが産まれたんですかーっ!?」


 山倉の圭司さんと共に来てくれた、その息子の将悟君が驚愕の声を上げた。ポチがちょっとうるさそうな顔をした。わかるけど許してあげてほしい。


「ええと、すみません……見てもいいですか?」

「うん」


 将悟君はそーっとダンボール箱の中を覗き込んだ。


「ピィ」

「うっわ~……かわいいですねぇ……」


 将悟君はとろけるような表情でしみじみと言った。きっと俺もあんな顔をしてるんだろうな。


「この子、名前はなんていうんですか?」

「メイって名付けたよ」

「メイ、かぁ……メイちゃん? よろしくな~」


 将悟君は触りたいのを必死で我慢しているようだった。いい子だなと思う。


「ヒヨコが産まれたってことは……祠の設置は……」


 圭司さんは苦笑した。


「もちろん行きますよ。置いてくわけにはいかないのでこの子も一緒に行きますけど」


 探したらメッシュ入りの袋があったから、その下にタオルを敷いたりして入れることにした。冷えたらいけないから、メッシュ入りの袋はそのまま肩掛け鞄に入れ、口を開けたままで運ぶ。面倒は面倒だがしかたない。水や餌は適宜あげることにした。ピィピィと何度も鳴くようだと何かが足りないようだ。

 ってことでポチも一緒に墓のところまで行き、墓の手入れをして手を合わせてから山を上ることにした。そう、今回は祠を山頂に設置するのである。背負子に祠を載せて運ぶのだ。

 肩掛け鞄にやたらとポチがくっついてくるので試しにポチにかけたらうまくはまった。ポチは嬉しそうにそっと身体を動かした。どうやらメイを運んでくれるらしい。


「ポチ、本当に任せちゃっていいのか?」


 クァーッ! とポチが鳴く。頼もしいことだった。


「本当にニワトリって賢いですね」

「ええ。いつも助かってます」


 圭司さんに言われてついつい笑顔になった。そうだ、うちのニワトリたちは最高なのだ!


「佐野さんちのニワトリは特に、じゃないですか? そういえば今日、ユマちゃんは?」

「タマと遊びに出かけたよ。昨日までずっと卵を温めてくれたから運動不足でさ」

「えー? 抱卵してたんですか? すごい!」


 将悟君が声を上げた。圭司さんも目を丸くした。どうやら孵卵器を使ったのかと思っていたようだ。確かに常識的に考えて孵卵器使うかも。俺はニワトリがいるんだからニワトリが抱卵するものとか勝手に思ってたけど。冷汗をかいた。


「じゃあユマちゃん全然動かなかったんですか?」

「そうだね。トイレには行ったけど、ほとんどずっと卵を温めてくれてたよ」

「……本能かもしれないけど、ユマちゃんすごいですね」

「うん、すごいよな……」


 ユマにはもっと優しくしようと思った。なんかいつも俺がみんなに優しくしてもらっているような気がする。俺も少しでも返せているといいんだが。

 さすがにもう六月も近いせいかなんか蒸し暑かった。汗だくで上り、水分補給をしてからメイにも水と餌をあげたりした。ヒナの世話はたいへんらしいが、ニワトリサポートが手厚いので俺でもどうにかなっているかんじだ。ポチたちを買った時はとにかく必死だったからあんまり覚えてなかったりする。ちょっともったいない。

 どうにか山頂について祠を下ろした。背負子に乗る大きさだったからいいが、けっこうでかいのである。祠の中に石を収め、お酒と塩や米を備えて手を合わせた。本当に立派な祠を用意してくれて感謝だ。

 これからも見守っていてくださいと願った。圭司さん、将悟君も手を合わせて何やら祈っていたようだった。

 心地良い風が何度も吹いて、大丈夫だよと言われている気がした。

 下山にはそれほど時間はかからなかった。ポチは器用に下りていった。俺だとああはいかなかっただろう。ポチに感謝である。

 昼にうちに戻ってダンボール箱にメイを戻した。


「ピィピィピィ」

「やっぱ尾が……なんかトカゲっぽいんですね」


 将悟君がじっとメイを見ながら呟いた。そう、メイの尾はうちのニワトリたちと同じで爬虫類系の尾である。それでなんとなくバランスを取れるようになってきたのか、ダンボール箱の中をポテポテと歩いていた。ただ自分の尾に引っかかったりしてポテッと倒れたりもする。やっぱヒヨコってかわいいよな~。

 お昼は天津飯もどきにした。タマとユマが卵を産んでくれているので。なんでもどきになったかというと、うまくふわふわに作れなかったのだ。料理には技術がいる。


「はー……おいしい……」

「おいしい……」


 圭司さんと将悟君がしみじみ呟いた。スパイスに漬けたシシ肉の薄切りを焼いたのも出した。将悟君がもりもり食べていた。


「辛いけどおいしいです!」

「ちょっと臭みがないかな?」

「全然感じませんでした!」


 それならよかった。スープは海苔とワカメの中華スープにした。海藻アンド海藻である。ちょっと具材を考えろ俺。

 ポチにも餌は出したら普通に食べた。昼にポチがいるってなんかへんなかんじだと思ったが、きっと今日限定なのだろう。ヒヨコはマイペースに餌をついばんだり水を飲んだりしていた。逞しいことである。

 午後もヒヨコを連れてはたいへんだったけど、ポチと日陰にいてもらって今度は参道の整備を始めた。今日は思ったよりスムーズに作業が進んだ。やっぱり山の神様もメイの誕生を祝福してくれているのかもしれないなんて、都合のいいことを思った。

 あまり長く作業してもしかたないので三時過ぎには撤収して家に戻った。ポチが身体を揺らしているのを見て、こっちも運動不足なのだなと苦笑した。


「ポチ、ありがとう。遊んできていいぞ」


 そう言ったらすぐにツッタカターと駆けていってしまった。余程走りたかったのだろう。悪いことをしたなと思った。


「ポチ……早いですね」


 将悟君が呆然として呟いた。


「うん、とても追いつけないよ」

「ワイルドだなぁ……」


 お茶を飲んで煎餅をバリバリ食べ、圭司さんはやっと一仕事終えたというような顔をした。


「夏にまた来ます。よろしくお願いします」

「はい、お待ちしてます。祠を用意していただいて、本当にありがとうございました」

「いえいえ。あれだけはうちで用意しないとと思ったものですから」


 思ったより気を使わせてしまったみたいだった。


「佐野さん、ヒヨコ見せてくれてありがとうございました。また来ますね!」


 最後に将悟君にメイを持ってもらった。そっとひよこを手の中に包み、


「うわ~、ふわふわだ~」


 と喜んでくれた。よかったよかった。

 圭司さんたちを見送った後スマホを確認したら、通知が沢山入っていた。


「あ、やべ……」


 怒られるだろうが、一つ一つ見ていくしかなさそうだった。


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480万PVありがとうございます! これからもよろしくですー

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