504.そんなにまだ、歩くのはうまくない
小さめのダンボールにタオルを敷き詰めたものは用意してある。窒息しないように、ダンボールをある程度の形に切ったものも入れてある。これをタオルでやってしまうと窒息する恐れがあるようだ。ヒーター(鳥籠用のもの)もダンボールの中に取り付けられる。
タオルの上に卵ごとひよこを下ろして様子を見ていた。身体がもう半分ぐらい出ている。
うちのニワトリたちもじっとひよこを見守っている。
がんばれがんばれ。
ひよこはじたばたしては少し休み、またじたばたしては休みをくり返してどうにかコロンとタオルの上に落ちた。卵の殻を外し、タオルで優しく水気を取ってやった。
産まれた時から普通に黄色い毛が生えている。
そして、このひよこにも爬虫類っぽい尾が生えていた。
「同じだな……」
写真を撮って送れる人にはLINEで送った。
「この子はメイだ。メイ、よろしくなー。メイはどうする? お前らが見てるか?」
エサと水を入れた小皿をダンボールの中に入れると、またじたばたと動き始めた。
「ミテルー」
「ミテルー」
「ミテルー」
「じゃあ頼んだぞ」
どうしたって居間兼土間が一番暖かいからな。
明日は圭司さんたちが来るから素直に寝ることにした。ひよこが餌を食べ終えるのを見計らって電気を消した。
「ポチ、タマ、ユマ、メイ、おやすみ」
「オヤスミー」
「オヤスミー」
「オヤスミー」
「……ピヨ」
ちょっと笑ってしまった。
翌朝は早く起こされそうだなと思って寝たら、本当に朝早くタマが足の上に乗っていた。
「タマ……」
「メーイ」
「なんかあったのか?」
「メーイ」
「わかった。起きるからどけー!」
タマは俺から下りるとツッタカターと逃げて行った。やれやれである。
どうにかざっと身支度を整えて居間に向かった。引き戸を閉めてくれないのはいつものことである。確かに引き戸を閉めるのは難しいとは思うが、きっとタマならできると思うんだよな。やってくれないけど。
「おお……」
小さいダンボール箱の中、昨日はまだ薄黄色だった羽がピンと立ってしっかりひよこになっているメイがいた。
汚れているものは片付けてと。餌と水は新しいのを置き、ひよこをそっと撫でたらこけた。
「えっ?」
「ピィピィピィ」
抗議された。
「ごめんごめん」
そういえばポチたちは生まれて何日かしてからここに来たからもっとしっかりしていたのだった。
そして、ユマはもうダンボールから出ていた。
ダンボールの中を覗く。卵はそのままだった。
ダンボールの外に、卵が無造作に二個転がっている。それはタマとユマが産んだもののようだった。
「タマ、ユマ、この卵はさっき産んだやつか?」
「ウンー」
「ソウー」
確認を取ってそれはありがたくいただいた。
ダンボールの中に残っている卵は無精卵だったのかもしれない。でも有精卵だったかとか、無精卵だったかなんて調べたくはなかった。結果的にメイは産まれたのだからそれでいい。この孵化しなかった卵たちは畑の脇に穴を掘って埋めることにした。ありがとうと手を合わせた。
1羽産まれたんだからそれで十分じゃないか。
居間に置きっぱなしだったスマホが鳴った。
ふと見たらLINEがいくつも入っていた。
「やべ」
確認する。
「ひよこ産まれたのですね。おめでとうございます」
一番早かったのは相川さんだったようだ。
「ありがとうございます。一羽産まれました」
そう返した。
「ひーよーこー!!」
顔文字だか飾り文字だかいっぱいのLINEは桂木さんだった。こっちにも、
「一羽だけ産まれた」
と返した。おっちゃんからも、「おー、ひよこか」とだけ入っていた。産まれたってことだけわかれば十分だろう。
今日は圭司さんたちが来るからその他の連絡は後だ。まずはニワトリたちのごはんを用意し、俺のごはんを作る。ユマはしきりに身体をゆすっていた。間違いなく運動不足だよな。そうなると一緒に行動するより遊びに行かせた方がいいんだろうか。
ユマがこっちを見た。
「オフロー」
「あー……時間ないから後で」
一番の功労者はユマなんだが、これから圭司さんたちが来るのだ。風呂に入れている時間はない。でもじーっと見つめられたら逆らえなかった。早く起こされたことだしと、ポチとタマにメイを見てもらうことにしてユマをざっと風呂場で洗った。
「サノー」
「俺は入らないよ!」
朝風呂は性に合わない。どうせ入ったところで汗だくになるのだ。
いろいろバタバタして、圭司さんたちが来るぎりぎりまで準備をしていた。メイはマイペースにダンボール箱の中でころころしていた。かわいい。
ああもう、なんてひよこってかわいいんだろうな。
今日はタマとユマが遊びに行くことになった。洗ったのにやっぱ遊びに行くのかー。そうだよなー、運動不足だもんなー。さっぱりしてキリッとしたユマは嬉しそうにタマと出かけていった。がんばったんだから好きにさせるべきだ。いってらっしゃいと手を振りながら、今日はまたどれだけ汚れて帰ってくるのかなとたそがれた。ま、圭司さんたちと山に登ったって汚れることは間違いないけどな。ようは気持ちの問題である。
そうやるとやっぱりメイはカバンかなんかに入れて持ち歩きか。がんばろう。
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みなさま、お祝いのお言葉ありがとうございました!
480万PVありがとうございます! これからもよろしくですー。四羽になったよ!
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