483.診てもらったら金を払うのは当然だ
木本医師が来るということを知ったポチは早々に逃げたわけだが、タマはポチを捕まえてこいという風に取ったらしい。
どうやらかなり格闘して連れ帰ってきてくれたみたいだ。タマさん最強じゃないっすか。
「タマ、ありがとうな……」
俺の言った「大丈夫」は連れてこなくても大丈夫だったんだが、そんなことを言ったらタマに殺られそうである。だから俺は素直に礼を言った。
タマが得意そうにクンッと頭を上げた。うんうん、タマさんはできる女です。
そんなタマも木本先生は喜んで診察した。
「うんうん、羽は乱れまくってるけど怪我もないし健康体だね。いやー、元気でいいなぁ。それにまた成長してるね。どこまで育つのかなぁ。はい、もういいよ~」
木本先生に放免されて、ポチは逃げるように駆けて行った。その後をタマが追う。
タマ、もしかしてポチも獲物認定してないだろうな? ちょっとだけ心配になった。
「いや~、佐野君ちのニワトリたちは本当に元気でいいなぁ。あの尾も絶好調だね」
「そう、ですね……ははは」
そういえばあの尾も微妙に伸びてる気がするし、根元は更に太くなってるような気がしないでもないんだよな。本当にニワトリなのか羽毛恐竜なのかわからないかんじだ。
「何か変わったことがあったら教えてね」
「はい、ありがとうございました」
診察料は出張費も込みで一万円だった。それぐらいで収まればいいなと思っていたから助かった。一応二万円までは払う気でいたからありがたい。
「佐野君は気前よく払うなぁ」
「そうですか?」
不思議に思って聞き返した。大事なペットというか同志なんだから、診てもらうとなったら金を払うのは当たり前じゃないんだろうか。
「ペットに関してなんの知識もなくかわいいだけで飼う人もいるからね。中にはまぁ……診察料が高いって文句言う人もいるんだよ。って、佐野君にぼやいちゃいけないよな。ごめんね」
「いえ……」
診察料なんて、言われるがままに払うもんだと思っていたけどそうじゃないのかな。きっと世の中には俺が理解できないような人もいるんだろう。
木本医師を麓まで見送って、鍵をかけてから家に戻った。そういえば明後日? には養鶏場へ顔を出しに行くんだった。ユマがこんな状態じゃ連れていけないよな。
そう思ったらちょっとだけ残念だった。
タイミングが悪い? いや、タイミングとしては今がベストだったと思う。ただ単に、俺が気楽に考えていただけで。
そうだよな。抱卵って約三週間かかるんだよな。
「ユマ、ごめん……」
家に帰って、ダンボール箱の中で目を閉じているユマにそっと声をかけた。ユマが目を開ける。
「サノー?」
「俺さ……卵を温めるって、こんなにたいへんだと思ってなくて、ごめん……」
「サノー……ゴメンー、ナイー」
「俺が勝手に謝りたいんだ。自己満足で、ごめん」
「ゴメンー、ナイナイー」
ユマは優しすぎる。
まだ貯金は残ってるから、三週間経ったら風呂場の改築を真面目に考えよう。固定資産税と自動車税の分も大丈夫だ。山の固定資産税は安いんだけど、マンションとか駐車場はそれなりにかかる。税額は駐車場が一番高いんだよな……。だからって上物を建てる金もないから据え置きだ。ただ駐車場用の土地はちょっと不便な場所にあるから埋まってるのは確か半分だったかな。月極で貸してたはずだ。ちょっと今年はそこらへんも含めて見てこよう。親戚に管理はお願いしてるけど、やっぱ自分で確認することも大事だ。
夕方には更に羽が乱れまくった状態のポチとタマが帰ってきた。
だからどうしたらお前たちはそんなアグレッシブな羽の乱れっぷりになるんだっつーの。これはカメラを付けたところで半日で壊されるに違いない。定点カメラ的なものをあちこちに設置した方がいいだろうか。いや、それをやるなら不法投棄されそうなところが先だな。
全く面倒な話である。
今夜もユマは一緒にお風呂に入ってくれなかった。身体を冷やさない為と、卵からできるだけ離れない為だろうと木本先生は教えてくれた。うん、それならそれでいいんだ。ユマがたいへんじゃないならそれでいい。
後ろ髪を引かれたが、タマが睨むように見張っていたので俺はすごすごと部屋に戻って布団に潜った。朝晩はまだ少し冷える。重い布団が心地よかった。
タマ的に邪魔をするなってことらしい。ポチはどうだかわからないけど、タマはいろいろ考えてるんだよな。
明日は何もないはずだ。俺もそろそろ日常に戻ろう。
山の手入れしないとな。ああでも、ユマが付き添ってくれないのか。ポチか、タマにお願いしたら付き添ってくれるだろうか。なんか山の上に続く場所って、俺だけで行っても何故か見つけられないんだよな。神様は引きこもりなんだろうか。それともそんなことをしなくてもいいと言ってくれているのだろうか。
ユマは家で卵を温めてるんだよな。
買物とかも一緒に行けないんだよな。買物に行かないってわけにはいかないし、養鶏場にも一緒に行けないだろうし。
でも俺が沈んでることはユマに知られないようにしないと。つか、ニワトリにわかるように落ち込むなよ俺。
つらい。
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410万PVありがとうございます! これからもよろしくですー
サポーター連絡:本日サポーター限定の番外編を上げました。桂木さんの話です。読める方はよろしくですー
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