482.獣医さんに来てもらった
木本医師と携帯番号のやりとりはしていたので、早い時間に電話があっても驚きはしなかった。
本当に急いで来たらしい。まだ10時にもなっていない。
「はい、もしもし」
「ごめん、もう山の麓まで来てしまったんだ!」
木本医師、大興奮である。
「あ、ハイ。鍵開けに行きますね。ちょっと待っててください」
そんなに楽しみだったのかと苦笑した。みそ汁ぐらいは作ってあるし、ごはんも毎朝一日分をまとめて炊いてるから昼飯を食べていってもらっても大丈夫だ。シシ肉は昨夜スパイスをまぶしておいたのがあるから、それを焼けばいいだろう。(もちろんチルドにしてある)
「ユマ、ちょっとお医者さん連れてくるから待っててくれ」
「ワカッター」
一晩寝て、俺も少しは冷静になった。うちのニワトリはでかくて規格外だからちょっとでも変化があると気にしてしまうのだが、抱卵とはきっとこういうものなのだと思うことにした。
軽トラを麓に走らせる。はたして、木本医師の軽トラが着いていた。
「おはようございます。今開けますね」
「おはよう。ごめんね佐野くん、早かったかな」
木本医師は頭を掻いた。
「いえいえ。もうポチもタマも遊びに出かけていますから」
「ああー、やっぱり出かけちゃったか~」
木本先生は残念そうな声を出した。やっぱり診察したかったんだろうか。そういえば出張の診察っていくらかな。うちに着いてから出張の診察費用について聞いてみた。
「んー……今日は休みだからロハで、とは言えないかなー」
ロハって古い言い方だな。
「出張していただいたんですからちゃんと払いますよ。想定外に高かったらオマケしてほしいですけど」
「勉強するよ~」
でも確か獣医の診療料金って獣医が決められるんじゃなかったっけ? 独占禁止法に引っかかるからとかなんとかで。ま、俺は言われた通りに払うつもりではいるけどな。
「そういえば佐野君、ペット保険て入ってるっけ?」
「え? いいえ?」
「入っておいた方がいいよ。うちの病院はペット保険対応してるから安く済むよ」
「……うちのニワトリで入れますか?」
「なんだったら代行するよ~」
木本医師が悪い笑みを浮かべた。いや、それって虚偽報告になりませんかね? でもさすがにペット保険に入るからってうちのニワトリを保険屋さんが見に来たりはしないか。ニワトリであることに変わりはないと思うし。
「代行していただけるのなら助かります……」
なんか問題とかなければいいなぁ。まぁ、うちのニワトリみたいな規格外はそういないとは思うけど。
ってことでさっそく木本先生にユマを診てもらった。
「ユマちゃん、こんにちは。ユマちゃんの様子を見にきたよ。覚えてるかな?」
ユマはココッと返事をした。
「そうかそうか、覚えててくれてるかー。いやー、佐野君ちのニワトリは頭がよくてとてもいいなぁ。ユマちゃん、佐野君がユマちゃんを心配だっていうからちょっと見せてね。いいかな?」
ココッとまた返事をする。うん、本当にうちのニワトリたちは頭がいい。
「ありがとう。じゃあちょっと体長とかいろいろ測らせてね」
木本先生は鞄からいろいろ取り出して手際よくユマを診てくれた。
「うん、抱卵もばっちりだね。おなかの下もいい温度になってるし。ユマちゃん、水分はしっかり取るようにしてね。これから暑くなるから。はい、終わりです」
にこにこしながら木本先生は診察を終えた。
「佐野君、ユマちゃんは大丈夫だよ。心配なんて何もすることはない。そんなに食べなくても気にすることはないよ。もしかすると時々卵を産むことはあるかもしれないけど、それはできたら回収してね。無精卵だから」
「わかりました」
「ユマちゃんは普通のニワトリとも違うし、品種改良されたかどうかも不明だからなぁ……。抱卵中は卵は産まないものだけど、産む可能性は0ではないかな。何か心配事があったら連絡してくれ。できれば産まれそうな頃にまた連絡をもらえると嬉しいよ。それから、湿度は50~60%程度を保つように。卵ってのは呼吸してるから、湿度が高いと呼吸できなくなっちゃうからね。絶対に濡らさないように」
「はい、わかりました。ありがとうございます」
木本先生に診てもらえてほっとした。つか、卵って殻に包まれてるのに呼吸してたのか。ちゃんと調べろよって話だよな。
「あ、先生。お昼食べていかれますか?」
「え? 佐野君が作ってくれるのかい? ありがたいなぁ」
「男の料理ですから期待しないでくださいね」
ってことで昼はスパイスに漬けたシシ肉を焼いて出した。
「こ、これはなかなか刺激的だね。うん、なかなかおいしい。これはシシ肉かな。臭みがなくて食べやすいよ」
と言ってもらえた。一応肉は薄切りにしたのだ。分厚いとどうしても臭みが消えないので。
お昼ご飯を食べていたら、表からクァーッ! キョエエエッ! クァーッ! とすごい鳴き声が聞こえてきた。
「え? なんだ?」
慌てて表へ出ると、羽がすんごく逆立ってたいへんな状態になったポチと、タマが戻ってきていた。
「えええええ」
タマさん、ええと、これはどうしたら……。
「うわぁ、ワイルドだねぇ……」
木本先生はどんぶりを持ったまま出てきた。
「戻ってきてくれたのかな? じゃあ急いで診察しちゃうね~。かるーくだからね~」
木本先生は目を輝かせると、どんぶりを俺に渡して鞄を取り、さっそくポチの診察を始めてしまった。ああ、その、ええと……ありがたい、です。
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細かいツッコミはなしで願います!(ぉぃ
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