474.GW中なんですよ

 秋本さんがシシ肉の内臓をたんまりと持ってきてくれた。

 うわあ、というかんじである。冷蔵庫でじっくり解凍すればいいらしい。


「ニワトリ共、食えるのは明日の昼過ぎだからな。わかったか?」


 秋本さんに言われて、ポチが代表してコココッと返事をした。


「あー、俺、明日の昼間は山の手入れをするから明日の夕方でいいかな。そしたらその後洗えるし……」


 不満そうではあったがニワトリたちはしぶしぶココッと返事をした。今夜はシシ肉のスライス付けるからそれで許してくれ。朝からスプラッタは勘弁だ。


「昇平んとこのニワトリだったら寄生虫もねじ伏せちまいそうだが、そんなわけにもいかないだろうしな」


 前は24時間経たずに食べさせたこともあったが、その時は運がよかったのだろうと思う。あとは畑の側に群生しているヨモギとかも効果があるのかもしれない。


「佐野君とこのニワトリたちには長生きしてもらわねえといけねえからな!」


 秋本さんも正直だった。


「ちげえねえ!」


 おっちゃんとガハハと笑い、バシバシと二人で俺の肩を叩いた。痛いんですけど。農家は年を取ってても力が強い。

 というわけで帰宅です。さすがに山の中に入るとだいぶ暗くなってきていた。それでも日は落ちてないから慎重に軽トラを走らせた。

 昨夜はそんなに飲んでなかったから酒自体の影響はない。

 帰宅したら、ポチとタマは日が落ちるまで遊んでくるそうだ。


「気をつけていってこいよ~」


 と送り出した。日が落ちるまでは……あと一時間ぐらいか。その間に畑から今日食べる分を収穫して片付けを始めた。洗濯は明日の朝すればいいかな。おっちゃんちにはもう着替えも置いてある。下着とかは洗濯機に突っ込めと言われているのでそうしている。家族扱いされててなんか悪いような嬉しいような不思議な心地だ。

 内臓の塊は冷蔵庫に突っ込んだ。シシ肉は一部外に出しておく。夕飯にスライスしてニワトリたちに食べさせる分だ。

 なんだかんだいって忙しい。

 ニワトリたちはやっぱり不満そうだったが、シシ肉のスライスは喜んで食べてくれた。

 翌朝、足の上にタマがのしっと乗りました。

 ついつい起こしに来るなということを言い忘れてしまった結果だ。


「タマ! 重い! どけー!」


 タマがパッとどいてトトトッと居間の向こうの土間へ向かって逃げて行った。


「だから戸、閉めてけっつってんだろーが!」


 いやまぁ、無理なのはわかってるんだけどな。和室の引き戸に関して言うと、取っ手の部分を嘴でどうにか引いて、空いた隙間に足を入れてスパーン! だからな。閉めるとなるとちょっと難しいかもしれない。おかげで和室の襖の取っ手は傷だらけです。

 やれやれと思いながら着替えて顔を洗い、居間へ向かう。まだ世の中微妙に暗いんですけどどうにかならないんですか、タマさん。遠足当日の小学生じゃないんだぞ。

 今日も卵が落ちている。ありがたいと手を合わせ、いただいた。

 しょうがないからさっそく朝食の支度をする。まずは畑から小松菜を収穫し、虫食いっぽいのは畑の隅に置いた。多分後でニワトリが食うだろう。

 小松菜とワカメでみそ汁を作り、ニワトリたちに餌をあげた。


「圭司さんたちが帰ってから内臓は出すからな。だから夕方まで遊んできていいぞ」


 いくらなんでも昼にはあげません。スプラッタ状態の清掃なんて明るいうちにやりたくないです。


「……ワカッター」

「ワカッター」


 ポチはしぶしぶ返事した。タマはそこらへん引きずらないのか返事も普通だ。ユマは納得しないわけではなく、俺の側にいるから返事をしていないだけらしい。

 ポチとタマは朝飯を食べるとツッタカターと遊びに出かけた。つーか、自分たちが迎えるんでも出かけるわけでもないのになんでタマはわざわざ俺を起こすかな。思わずあくびが出た。

 洗濯をして干す。昨日の分の着替えだけだから楽でいい。スマホを確認すると圭司さんからLINEが入っていた。


「昨日一昨日とお疲れ様&ごちそうさまでした。本日も十時頃に伺います」

「わかりました。お待ちしてます」


 返信してユマと共に麓の柵の鍵を開けてきた。そういえばGW中の不法投棄対策とかってどうしたんだろうな。今になってやっと思い出し、相川さんと桂木さんにLINEを入れてみた。


「リンとテンに巡回を頼んでいましたから、今のところは大物はないです」

「タツキが麓の辺りを見回っててくれました。少しごみを置いていかれてて腹が立ちます!」


 桂木さんからは怒りのスタンプも届いていた。桂木さんちの方が奥だから勝手に入ってきてごみをそのまま捨てて行った輩がいたんだろう。迷惑なことである。


「それは災難だったね」

「GW中はもっと村側にロープを張ることにします!」


 手間かもしれないけどその方がいいかもしれない。私有地で巡回しているっていうのはアピールしなければいけないんだろうな。

 うち? 多分ポチとタマが麓まで駆けて行ったりといろいろしているらしい。結局カメラも付けてないからわからないんだよな。ただ今更になって思うけど、アイツらじっとしてる時間ってほとんどないからカメラ付けてもブレた映像しか結局撮れなかったんじゃないかな。

 え? やってもいないくせに勝手なこと言うなって? それもそうだよなー。

 どちらにせよ諦めたよ。

 畑の収穫を改めてしっかりして、スマホをまた確認したら「そろそろ着きます」と圭司さんからLINEが入っていた。

 GW最終日だ。山の手入れはどこまでできるかな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る