473.西の山の住人はやっぱりハイスペックイケメンだ

 結果として、おっちゃんの打った蕎麦はつるつる食べられました。おっちゃんが自分で切ってるやつだからちょっと太いんだけどそれがまたいいのだ。

 おばさんがまた天ぷらを揚げてくれた。胃が受け付けないかなと思ったけどそんなことはなかった。山菜の天ぷらもぱくぱく食べてしまった。そしてほうれん草のおひたしや、煮物もある。どれもこれもおいしくてまた食べすぎてしまった。


「昇ちゃん、相川君、ちょっと味見してくれない?」


 おばさんは午前中いっぱいシシ肉と格闘していたらしい。シシ肉のチャーシューができていた。一切れずついただいて食べる。

 臭みがある、と言われなければわからないぐらいにはおいしかった。


「ラーメンとかに乗せたいですね」

「けっこう作ったから持ってく?」

「いいんですか?」


 その他にも冷凍したシシ肉も一部もらっていくことになっているのだ。


「いいわよ~。食べるのも好きだけど作るのが楽しいのよね~」

「わかります」


 相川さんがうんうんと頷いておばさんに同意していた。ごめんなさい、俺にはわかりません。俺はやっぱり食べる人のようです。

 相川さんもシシ肉はもらっていくようだ。そうだよな。きっとリンさんとテンさんが首を長くして待っているだろう。


「昇平、秋本が夕方には内臓を持ってくるらしいぞ」

「あんまり遅くなるようなら明日の受け取りの方がいいんですが……」


 日の入りの時刻は遅くなっているんだが、山は暗くなるのが早いのだ。どんなに遅くとも5時にはここを出たい。


「4時過ぎに持ってくるらしいぞ。5時にはならんだろう」

「それなら待ってます」


 どうせ今日は予定もないし。気楽な山暮らしだから洗濯もいつしたっていいしな。一人暮らしは寂しいけどそういうところは楽だ。まぁニワトリが三羽いるから全然寂しくはないな。ユマはいつも側にいてくれるし。

 俺、ニワトリに甘えすぎだよな。

 だからってどこをどう変えるとかそういうこともないんだけど。

 相川さんものんびり夕方までいるそうだ。


「帰るとどうしてもあれもこれもしたくなってしまいますから。たまにはのんびりした方がいいのはわかっているんですけどね」


 相川さんは昼寝もしないんだろうな。今もスマホ確認してるし。とにかく相川さんは勤勉だと思う。


「やっぱGW中は上がりますね。佐野さん」


 手招きされてスマホを見せられた。一瞬なんだろうと思ったけど、どうやら仮想通貨を見ていたらしかった。


「ええ? この間換金しましたよね?」

「今は儲かる方が早いですね」


 相川さんはとても嬉しそうに教えてくれた。なんでもっと早くやらなかったんだと思ったけど、俺は知識がないからやってもうまくいかない気がする。相川さんさまさまだと思った。

 タマが戻ってきた。


「タマ、どうしたんだ?」


 ココッと啼いてコキャッと首を傾げる。いつ帰るのか聞きにきたのだろう。そういえば伝えていなかった。


「タマ、これから秋本さんがシシの内臓を持ってきてくれるらしいぞ。それを受け取ったら帰るから、もう少し待ってくれないか?」


 ココッとタマは返事をして戻っていった。内臓を待ってくれるのだろう。食い意地の張ったニワトリたちである。でも冷凍で届くわけだから食べさせるのは明日だよな? 朝から血の海か、夕方に血の海かどちらを選ばなければならない。いろいろ悩ましかった。


「あー……今夜は食べられないって言うの忘れてた……」

「それって、言いに行った方がよくないですか?」

「ですよねぇ……」


 こういうことをおろそかにするとニワトリ殺人事件が勃発してしまうかもしれない。ってことで億劫だったけど畑まで行きました。さっそくユマがトットットッと近寄ってきてくれた。ユマさんは相変わらずとってもかわいいです。


「ユマ、タマからシシの内臓のこと聞いたか?」


 ココッと返事をしてくれた。どうやら聞いたらしい。


「でも内臓は今日は食べられないんだ。明日の朝か夕方には食べられるから、タマとポチに言ってくれないかな」


 ユマはコキャッと首を傾げた。

 俺の言っていることがわからないのではなくて、何故今日食べられないのかが疑問のようである。


「内臓は凍った状態……うーん、雪みたいなんだ。雪だと冷たすぎるだろ? だから明日じゃないと食べられないんだ」


 ユマの首の傾きが元に戻らない。理解できないらしい。うん、わからないことはわからないと主張できるのはえらい。

 困ったなと思っていたらポチが来た。


「ポチ、内臓は明日食べられるから。今日は無理、わかった?」


 ポチもコキャッと首を傾げた。それは理解できないのか、それとも理解したくないのかどっちだ?


「佐野さん……凍ったお肉をあげてみて、教えてあげればいいんじゃないですか?」

「あー、帰ってから、ですよね……」


 相川さんが心配になって見に来てくれたようだった。


「なんでしたら今、おばさんに一切れずつもらってきますよ?」

「いや、そこまでしてもらうわけには……」

「でもこのままだと困るでしょう?」


 それもそうだった。


「もらってきますから、待っててください」


 爽やかな笑顔で相川さんが戻っていく。


「えーと、ポチ、ユマ……相川さんが凍った肉を持ってきてくれるから、食べて判断してくれ。内臓はその肉と同じ状態だから……」


 というわけで、タマも呼んで凍った肉を食べてもらった。内臓がこの状態だけど、明日はいつものおいしい状態になると話したらニワトリたちは納得してくれたようだった。やっぱり相川さんさまさまである。本当に頭が上がらないなと思った。


ーーーーー

サノ、何言っちゃってんのー? のポーズなポチでした。

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