471.食べすぎ注意です!

 スパイスの効いたシシカツは一口大だったということもあってか、久しぶりに食い過ぎた。

 なんだあのスパイス。すっごく後引くんだけど。


「このスパイスってなんですかね……」


 相川さんに聞いたら、


「多分クミンだと思います。カツにするのは手間かもしれませんが、薄切りにして味塩胡椒とクミン、それから唐辛子をまぶして焼いたらこんなかんじになりそうですね。酒に浸けた方がスパイスもよくくっつきそうですけど」

「今度やってみます! 炒めるかんじですか?」

「いえ、油でよく両面を焼くかんじですね。そうすれば肉の臭みもあまり感じられないと思いますよ」

「鶏肉とかでもいいんですかね」

「鶏肉でもおいしそうですね」

「……佐野さん、ニワトリ飼ってんのに鶏肉食べるんですね……」


 ボソッと結城さんが呟いた。


「食べますよ。うちのニワトリじゃないですし、それに」

「それに?」

「うちのニワトリ食べようとしたらかえってヤられますよね?」

「あー、ソウデスネー」


 結城さんも納得してくれた。うちのニワトリ食べられるわけないだろ。俺が殺されてしまうわ。


「養鶏場の鶏肉、おいしいですよね」


 相川さんがフォロー? してくれた。


「ですねー」


 養鶏場のニワトリさんたち、いつも命をありがとうございます! さすがにうちのニワトリには食べさせませんから!(気分の問題だ)

 春巻もたまらなかった。荒くミンチにしたシシ肉にカレー粉まぶしてもちろん細切り野菜をいろいろ入れて春巻にするとか天才ですか。(正確にはミンチには他にもいろいろ練り込んであったらしい。俺にはそこらへんよくわからない)


「あー、春巻も止まらない~……」


 ってやってたらクァーッ! と呼び出しである。はいはい、おかわりですね。

 身体が一気に重くなっていて、立つのが億劫だった。


「昇ちゃん、台所にボウル置いてあるからね~」


 おばさんに教えてもらった。


「ありがとうございます!」


 将悟君が立ち上がった。


「あのっ、俺も手伝っていいですか?」

「ありがとう、助かる」


 台所へ向かうとボウルは二つあった。将悟君が申し出てくれて助かった。


「将悟君、けっこう食べたかい?」

「はい! シシ肉ってやっぱおいしいですね」

「おばさんの調理がうまいからね」


 俺ではとてもこうはいかない。今回の肉は確かに臭みが強いから、持ち帰ったら臭み消しにスパイスを揃える必要があるだろう。クミンって相川さんは言ってたっけ。さすがにN町まで行かないと調達できないかな。


「おまたせ~」


 庭に出て、ビニールシートに肉や野菜を並べていく。


「これで足りるかな? これ以上は野菜になると思うぞ。よーく噛んで食べろよー」


 そう言い残して踵を返した。


「噛む? ニワトリって歯、ありましたっけ?」


 将悟君が首を傾げた。普通はあったとしても退化してるから使えるかんじじゃないんだが、うちのニワトリたちは違う。


「先祖返りなんだか、ギザギザの歯が生えてるんだよな」

「ええっ!?」


 今度ユマにでも見せてもらえばいいと思った。

 ちょっと動いたからもう少し食べられそうだ。

 天ぷらが出てきた。嘘だろって思った。


「おいおい、こんなに食えねえよ!」


 おっちゃんが悪態をついた。


「山菜の天ぷらよ~。それぐらい食べられるでしょ? 相川君からいただいたシイタケもどうぞ」


 おばさんはにこにこしている。シイタケとタケノコの誘惑には勝てない。腹っぱいなのにめちゃくちゃうまくて困った。


「はち切れそう……」

「さすがに限界です……」


 よく食べる結城さんもギブアップのようだった。


「いろいろ作ってはみたんだけどシシ肉はけっこう余っちゃったのよ~。チャーシューとかも作る予定だからそういうのは明日以降でいいかしら?」


 おばさんに言われてうんうんと頷いた。今作って出されても残念ながら食べられません。


「また食べすぎてしまいましたね」


 そう言う相川さんは、とても涼やかです。これはイケメン効果なのか? そうなのか?

 向かいを見れば山倉さん一家もおなかをさすっているような状態だ。いっぱい食べられたらしい。よかったよかった。


「そういえばお吸い物もごはんも出してないわね」

「おばさん、もう無理です……」

「お吸い物だけでも飲まない?」

「一滴も入りません……」


 残念ながら無理だった。でもほどほどに食べていたおっちゃんと秋本さんは、ごはんとお吸い物をいただいていた。どうなってるんだ、いったい。


「食い方ってもんを覚えねえとな?」

「何言ってんの! 飲んでただけじゃない!」


 おばさんにツッコまれておっちゃんは頭を掻いた。


「つまみばっか作るからじゃねえか!」


 煮物もいいつまみになるようである。

 山倉さん一家はここで帰るようだ。


「佐野さん……明日はちょっと……」

「無理そうですよね。俺も多分うちに帰るのが夕方になりそうなんで」


 圭司さんとそう話し合って、明日はお休みとした。明後日はまた来てくれるらしい。

 山倉さん一家を見送ってからビニールシートを片付けた。さすがにこの時期はすぐに洗わないと虫がたかってしまう。残った欠片を片付け、外の水道でよく洗った。相川さんと結城さんが手伝ってくれたから助かった。


「ありがとうございます」

「いえ、これぐらいやらないと動けなくなりそうなんで」


 結城さんが苦笑した。結城さんはこの後運転もあるのだった。

 結城さんがへべれけになっている秋本さんを軽トラに乗せて帰って行った後、俺はどうにかニワトリたちをキレイにして倒れたのだった。

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