466.久しぶりといえば久しぶり。でもタイミングは悪い

 えーと、どうすればいいんだろうな?

 解体してから持っていくんだろうか。そしたらお湯がいるかな。使わなければ使わないでいいし……と落ち着かないので湯を沸かすことにした。でっかいタライに水も張る。ここに一旦運んでくるのだから水はいくらあってもいいだろう。一応作業用にビニールシートも用意して、みなが戻って来るのを待った。

 どれぐらい待っただろうか。

 一番最初にポチが戻ってきた。羽がすごい勢いであちこちに乱れている。


「ポチ、おかえりー! どうだったんだ?」


 クァーッ! とポチが得意げに鳴く。クァーッ! じゃないんだよ。明日から人が来るんだよ。どうしてくれるんだ、コラ。

 困ったなと思っていたらぞろぞろとみな戻ってきた。


「昇平、水あるかー?」


 おっちゃんと秋本さんが天秤棒を担いでいる。一頭が吊るされていた。


「タライいっぱい用意してます! お湯はいりますかー?」

「とりあえず水だけありゃあいいや!」


 その後ろから相川さんと結城さんが天秤棒を担いで戻ってきた。こちらには小さめのが二頭吊るされている。本当に三頭捕ってきたようだった。俺は得意げにクンッ! と頭を上げているポチを見やった。

 タマとユマがその後から戻ってきた。二羽共羽は乱れまくっていた。どんだけ追いかけ回したんだろう……。頭の痛い話だった。


「いやー、すぐに連絡してくれて助かったよー。急いで運ぶから、連絡は後でいいかな」

「はい、大丈夫です。ありがとうございます」


 秋本さんがにこにこしながら言う。うちのニワトリたちがホントすみません。

 秋本さんは結城さんとイノシシについた汚れなどを簡単に落とすと、さっそく運んでいった。軽トラに載せたりするのは手伝った。

 秋本さんたちの軽トラを見送って、やっと一安心だ。本当ならうちの山で軽く解体していった方がいいのだろうが、うちには解体用の小屋もない。川が近いところで狩れたなら作業するのかもしれないけど。


「おっちゃん、相川さん、ありがとうございます」


 改めて二人には頭を下げた。


「久しぶりのイノシシじゃねえか。なんともなかったらうちで宴会でもいいのか?」


 おっちゃんはウキウキしているように見えた。


「おばさんがよければお願いしたいですけど……明日から山倉さんたちが来るんですよね」

「山倉? 庄屋さんか?」

「ああ、えっと、息子さんたちです」


 おっちゃんはなんだそんなことかというような顔をした。


「それは、日帰りなのか?」

「いえ、山倉さんちに泊まりだとは思いますけど……」

「じゃあちょうどいいじゃねえか。イノシシの状態がよけりゃあ夜はうちで宴会に参加させりゃいいだろ?」

「それは助かりますけど、まずおばさんに聞いてからにしましょうよ!」


 なんでもかんでも先に決めてしまうのはおっちゃんの悪い癖だ。


「わかった。聞いてから連絡するわ。それでいいんだろ?」

「はい。料理してくれるのはおばさんなんですから、先におばさんの都合を聞いてくださいよ……」


 どうしたって男は台所へは入れてくれないのだから。

 相川さんがククッと笑った。


「宴会をするのでしたら僕も呼んでいただいてもいいですか?」

「ああ、もちろんだ。相川君もありがとなー」

「いえいえ。イノシシ、健康な個体だったらいいですね」

「ですねー」


 病気持ちだったら厄介だ。寄生虫とかも勘弁してほしい。せっかくニワトリたちが狩ったんだからおいしく食べられる個体であってほしい。しっかしまたどこから見つけてきたんだろうな?


「そういえばどの辺にいたんですか?」

「裏山の方向の、少し下の方ですね。うちの裏山にもイノシシが戻ってきているみたいです」

「そうなんですか」


 冬の間全然獲物がいないみたいなことを言っていたけど、無事戻ってきたようだ。リンさんやテンさんの獲物ということで考えればよかったんだろうけど、やっぱりそれぐらい狩猟をする人とかも減ってるってことなんだろうな。


「そういえば、二頭は小さめでしたけど……」

「おそらく秋頃に生まれたヤツだろうな。でっかいのはメスだったから増えねえとは思うが、イノシシだのシカだのが多くて困る」

「そういえばこの辺りってサルはいないんですね?」


 ちょっと気になったことを聞いてみた。


「サルなぁ……サルは確かもっと北の方の山にいるなんてこたあ聞いたことがあるな。人里に下りて悪さするっつー話は聞かねえから、よっぽど植生が豊かなんだろうな」

「へー」


 それなら共存していけるのだろうか。でもそれで増えすぎたらやっぱり問題になるんだろうな。お互いただ必死に生きているだけなんだけど、どうしても住んでいる場所が被っているから難しい。

 そんな話をしながら足を洗ったり手を洗ったりし、ニワトリたちにつつかれながら汚れをざっと落としたところでお茶にした。ニワトリたちがつつくのは虫とかゴミとかがついている場合だ。ありがたいことである。


「おっちゃん、一応おばさんに聞いてよ」

「帰ってからでもいいじゃねえか。まだ秋本から連絡もこねえんだからよ~」


 お茶と漬物でその後はまったり過ごした。俺は何かやったわけではないがひどく疲れた。ニワトリたちはどうしたかって? もう何も狩ってこないことを条件にまた遊びに行かせたよ。まだ日が落ちるまでには時間があるからな。

 ユマはこの辺りにいるみたいなので羽をざっと整えたりした。

 すりっと一瞬寄り添ってくれたので顔が崩れた。ユマがかわいくて超癒される。

 おっちゃんが帰る頃になって秋本さんから連絡がきた。

 全て健康な個体だったらしい。よかったと胸を撫で下ろした。これでどれも病気個体だったりしたら、うちのニワトリが暴れて手がつけられなくなっていただろう。


「おばさんにちゃんと確認してくださいよ!」


 と釘を刺し、おっちゃんと相川さんを見送ったのだった。

 なんか、すっごく疲れた。

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