465.そんなイレギュラーはいらないと思う
翌日は準備だ。
明日の三日から五日までは、元庄屋さんの息子さんの山倉圭司さんが手伝いに来てくれることになっている。
息子の将悟君も来るかこないか、はよくわからない。人手は多い方がいいけど、そう簡単に攻略できるものでもないしな。年単位でまったりするしかないだろう。また雨を降らされてはかなわない。
言っちゃなんだけど、この山の神様はなかなか面倒見がいいと思う。心配性なのかもしれない。いつも見守っていてくれるのはありがたいから、うちの神棚にも祀らせていただいている。今朝もごはんと塩は捧げた。清酒? 明日以降持っていく分は買ってある。一升瓶で何本か買っておいた方がいいんだろか。自分がそんなに飲まないから悩ましいことである。
家の窓を全部開けて空気を入れ替え、ついでに布団も干した。洗濯もまとめてする。作業着はお湯に浸けて10分以上置いてから洗濯する。匂いが取れていいかんじだ。こういう主婦の知恵袋的なことは相川さんが教えてくれることが多い。相川さんはコインランドリー派みたいだけど。
「よしっ、洗濯終り!」
庭で草をつついていたユマがコキャッと首を傾げた。うん、今日もユマはかわいい。ポチもタマもすでに遊びに出かけている。パトロールしてくれているんだろうけど、運動不足の解消が主だからやっぱり遊びに行ってる印象が強いんだよな。
畑がイノシシとかに襲われないのはきっとニワトリたちのおかげなんだろうと思うから、ありがたいことは間違いない。
で、思い出したので畑を見た。かき菜の葉を裏返して虫などがついてないかどうか確認する。でもその前に葉っぱによっては虫に食われていた。
これは無農薬農薬の出番だな。
家の中で作るとすごい匂いがするから外で作る。携帯用コンロが大活躍だ。ユマには近づかないように言って、午前中はそれを作っていた。そして希釈して畑にスプレー!
「ヤダー!」
ユマが遠くに逃げて行った。やはり刺激が強いのだろう。後でつつかれるかもしれない。だが俺のごはんを守る為だ!
風がこっちに向いたのでちょっと辛い目にあった。ううう……眼鏡とかゴーグルが必要かもしれない。
ユマが嫌がるってわかってるのにやった罰なんだろうか。そんなことを思いながらもまんべんなくスプレーして、ぼとぼとと落ちて行く虫を見て鳥肌を立てたりした。どこにいたんだよー。ぼとぼと落ちた虫は焚火台に集めて燃やす。うーん、刺激臭。山で嫌なのはやっぱ虫だよなー。フツーに困るもんなー。
しばらくしてからユマが戻ってきてくれたから、謝って昼飯にした。
んで、午後は山の上の手入れでもするかなーと思っていたら、何故かタマが帰ってきた。すっごく嫌な予感しかしない。だって羽があっちこっちに乱れてるし。
「タマ、おかえり……どうしたんだ?」
予想通りではありませんように、と願ったのだが。
「イノシシー」
「マジかー!」
頭を抱えた俺に、タマがクンッ! と得意そうに頭を上げた。
「数は? 一頭か? それとも二頭か? それ以上?」
指を出して確認する。
「ニー」
「マジかー!」
イノシシ二頭とかざけんな。
「ちょっと待ってろ。あー、おっちゃんと、秋本さんかなー。連絡つけばいいけど……」
俺じゃあ二頭はかついでこれないから急いでおっちゃんに電話した。
「すみません、おっちゃん。なんかうちのニワトリがイノシシ狩ったっぽいんですけど……」
「おー、そうかそうか。久しぶりだな。一頭か、それとも二頭か?」
「んー……はっきりはわかりませんが、一頭ではなさそうです。応援ほしいんですが、秋本さんに連絡すればいいですかね?」
「現物は見たのか?」
「まだです」
「じゃあ待ってろ。秋本へもこっちから連絡する」
「わかりました。お待ちしています」
おっちゃんなら麓の柵の合鍵も持ってるから大丈夫だろう。タマがせかそうとするので待ったをかけた。
「タマ、二頭だったら俺だけじゃ運べない。今おっちゃんたちが来るから……」
タマはユマを見ると、一緒に連れ立って行ってしまった。あれ? もしかして狩りの応援を頼みに来たとか? それって俺が行っても役に立たなくね?
首を傾げて待つこと約三十分。ユマが戻ってきた。
「ユマ、どうだった?」
「ミッツー」
「……え?」
なんか増えてないか? ユマも羽がけっこう乱れている。なんか尾も汚れているように見える。う、うちの子はかわいいけど、かわいいけど……なんか複雑だ。
「イノシシ、三頭?」
「ミッツー」
ユマが頷くように頭を前に動かした。
「マジかー!」
獲物増やすんじゃねー! つーかアイツらどんだけイノシシ食べたかったんだよ! 豚肉は食わせてただろーが!
頭を抱えていたら車の音がした。おっちゃんたちが来てくれたようだった。
あれ? 軽トラが三台来てる?
「佐野さん、イノシシを狩ったって聞いたんですけど!」
相川さんまで来てくれた。おっちゃんが気を利かせて連絡してくれたらしい。
「やあ、またニワトリが狩ったんだって? 今年度も世話になるよ」
秋本さんはにこにこだ。結城さんも来てくれた。ありがたいことである。
「で? イノシシはどこだ?」
ユマがトトトッと動いた。
「ついてこいってことか」
「あのっ、もしかしたら複数かもしれないんですけど……」
「わかった。佐野君は待っててくれ」
秋本さんが笑んで、天秤棒を持った結城さんが続いた。俺は一人その場に残されて、何がどうしてこうなったんだ? としばし呆然としたのだった。
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