459.シイタケ祭りは終らない

 帰宅してからおっちゃんちに電話した。


「相川さんのところでシイタケが沢山採れたっていうんだけど、いる?」

「ちょっと聞いてみるわ、おおい」


 おばさんが代わった。


「シイタケってそんなにあるの? うちも前に少しは作ってたけど……いただけるならありがたいわ~」

「じゃあ明日持って行きますね」


 さすがにこれから行ったら帰りは暗くなってしまう。山はすぐに暗くなってしまうのだ。それは夏でも例外ではない。(まだ春だけど)暗くなったら外灯がないうちの山ではとても車でなんて登れやしない。そんなわけで俺の山の外での稼働時間はとても短いのだった。(朝はそれなりに早くても大丈夫だ)


「お昼ご飯食べていくでしょ?」

「いえ、それは……」

「お客さんがいなくて退屈なのよ。昇ちゃん、食べていきなさい」

「わかりました。ありがとうございます」


 続く時はけっこう続くものだ。うちで最後に昼ご飯食べたのいつだっけ? とか考えてしまう。

 そんなわけで明日はおっちゃんちに行くことが決まった。まだそんなに暗くないので畑の野菜の葉を裏返したりして虫がついてないか確認する。

 トットットッとユマが近づいてきたと思ったら嘴にマムシを咥えていた。まだいるってのが怖い。去年の大量発生とかあれはどうなってたんだろうか。元庄屋さんに聞いてもわからないんだよな。例の毒蛇を大量に放ったらしいってのが関係しているのかもしれないけど(真相は不明だ)、こんなにマムシがいるのはさすがに怖い。

 そういえばおっちゃんちに持ってく手土産がないなと思った。

 でもさすがにマムシはないだろう。おっちゃんは待っているようだが去年はかなり持っていったし、今年も持っていったらさすがにおばさんに睨まれてしまう。


「ユマ、食べていいぞ」


 今年はそれほど捕れてるとはいえないしな。ま、それでも多いとは思うが。

 ユマはトットットッと少し離れた場所まで行って戦利品を食べた。ポチは俺の側にいる。そうしているうちにタマが帰ってきた。随分と羽がくたびれていた。


「タマ~、おかえり~」

「オカエリー」


 お互いにおかえりだ。つい笑みがこぼれる。こういうやりとりがたまらなく嬉しいのだ。なんか泣きそうになったのは夕焼けのせいかもしれない。オレンジ色の陽を見ると、なんか懐かしくなるな。

 四阿でタマをざっと洗ったりして手入れをしてから家に入れた。


「タマ、シイタケって食うか?」

「シイタケー?」


 タマはコキャッと首を傾げた。まぁ確かにシイタケって言われてもわからないよな。相川さんからもらってきた現物を見せた。タマがそれにバクッと食いつく。

 バクバクバクバク……。

 一応少しは考えようよ、タマ。食べられないものだったらどうするんだよ。俺には食えてもニワトリには毒ってものだってあるんだぞ?


「オイシーイ」

「そうか……それはよかったな……」


 おいしかったならいいだろう。ユマにも一個あげた。ポチには、「昼間いっぱい食べただろ」と言ったらショックを受けたような顔をされた。ガガーンって書いてあるかんじだ。


「ごはんにはいれるから」


 と約束して、豚肉のスライスといつもの餌、そしてシイタケをスライスしてボウルに入れた。今日もニワトリたちはよく食べた。うん、食欲があるのはいいことだよな。

 養鶏場に電話してみた。


「こんばんは~、佐野です」

「おお、佐野君か。どうしたんだい?」

「えーと、松山さんのところってシイタケ作ってたりします?」

「いやあ……前は作ってたんだが手が空かなくなってね。今でも取りに行けば少しは獲れるけど。ほしいなら少しは生えてるだろうから今度取りにおいで」


 やっぱりみんなシイタケは原木で育てるものらしい。ただそれなりに原木を並べてしまうと収穫がたいへんなようだ。

 おっちゃんちも少しは原木で育ててたって言ってたもんな。


「いえ、そうではなくてですね……かくかくしかじか」


 松山さんに相川さんちの件を話したら少し呆れたようだった。だけど、


「シイタケを餌にか……確かにおいしい鶏肉になりそうだね」


 と、シイタケの粉末を餌に追加するという考え方については気になるようだった。


「ちょっとうちも原木を見てから考えるよ。相川君には明後日まで待ってもらえるように言っておいてくれ」

「わかりました」


 夕飯にもシイタケとかき菜の炒めを食べた。やっぱうまい。みそ汁にもシイタケを入れた。(豆腐もだ)シイタケうますぎる。45リットル袋でめいっぱいもらったけど、思ったより早くなくなりそうだと思った。でもそんな勢いで食べると飽きてしまうだろうか。そう考えると食べ方も難しい。

 俺ってこんなにシイタケ好きだったんだなと知れたのは収穫だった。


「明日はおっちゃんちに行くけどどうする? 昼だけど」

「イクー」

「イクー」

「イクー」

「山登ったりはしないぞ。せいぜい畑辺りでつつかせてもらうぐらいだぞ?」

「ワカッター」

「ワカッター」

「ハーイ」


 うん、返事はとてもよろしい。

 全員一緒に行くらしい。そろそろ軽トラの幌を取ってもいいんだろうか。やっぱりまだ付けておいた方がいいのかな。悩ましい問題である。

 その夜はもう部屋で寝た。翌朝、襖がスパーン! と開く音で目覚め、なんだ? と思った時にはタマが足の上に乗っていた。


「タマ……もういいかげん起こしにこなくていいからな……」


 昨夜なんで注意しとかなかったかな、と俺はまた後悔することになったのだった。


ーーーーー

宣伝です!


「森のくまさんと元OL」

https://kakuyomu.jp/works/16817330647692813520


「山暮らし~」というか「虎又さん~」のスピンオフです。未来の話なのであんまりどっかに絡んだりはしませんが。

ブラック企業に辞表をつきつけて辞めた元OLが、山暮らしをしている髭もじゃのマッチョと知り合って、山の下にある森の管理人になるお話です。恋愛成分過多です。

よろしくー!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る