452.久しぶりに隣山へ
……帰ってきた時は想像通りだった。ポチとタマが出かけてから洗濯物を干せてよかった。
バスタオルがいくらあっても足りない。泥汚れを完璧に落とす洗剤ってないんだろうか。あったとしてもニワトリには使えないよな。悩ましいところである。お湯もいくらあっても足りない。
それでも四阿の場所が泥だらけになった程度だからいい。床はコンクリだから水を流せばいいし。
帰宅したニワトリの世話だけでどっと疲れた。昼はぐでぐでしといてよかった。
明日は桂木さんのところへ行くことになっている。
「明日は何時ぐらいに邪魔したらいいかな?」
桂木さんにLINEを入れた。
「連絡しないでいてごめんなさい。明日は10時頃に来ていただいてもいいですか?」
「わかった。ニワトリたちを連れて行っても大丈夫かな」
「タツキもいますのでお任せします」
「わかった」
というわけで明日向かうことは確定したからニワトリたちに聞いてみた。
「明日桂木さんのところへ行くけど、どうする?」
「ルスバーン」
「イクー」
「サノー、イッショー」
主張がよくわかった。
「ポチは留守番してくれるんだな。タマとユマが一緒、と。今回は村の会ったことがないおじさんが一緒だけど大丈夫か?」
タマが首をコキャッと傾げた。
「タツキさんはいるらしいぞ」
「イクー」
タマはドラゴンさんが好きみたいだ。面白いなと思う。そういえばよくドラゴンさんをつついていた。身体についた虫とかを取っていたのだろうが、最初は心臓に悪いと思ったものだった。なにせ相手はおとなしくてもドラゴンさんである。いきなりバクッとか食いつかれて戦争が起きるかもしれないとひやひやしたものだ。
そこで面白がっていたのが悪かったのか、翌朝の注意をするのを忘れていた。
おかげで。
「……タマ。胸の上に乗らなければいいとか、そういう問題じゃないからな?」
まだ世界がそれほど明るいとは言えない時間、俺の足の上辺りにタマがどっかりと乗っかっていた。さすがに胸の上だの顔の上だのに乗られたら窒息死するかもしれないということを訴えたせいか、その辺には乗られていないが足が動かせない。
「タマ、重い。どけー!」
タマは俺が起きたことを確認するとしれっとどき、土間に下りた。なんつーか、してやったりみたいな雰囲気を出している。
これはやはりここではなく、部屋で寝た方がいいかもしれないと思った。
もぞもぞとニワトリたちが起き出したのを確認して、「電気点けるぞー」と明かりをつける。家の中は朝でもさすがに明かりを点けないと暗い。だが声をかけないと時々ポチが驚くので声をかけてから点けるようにはしている。キョエエ~! とか鳴かれると俺も何が起きたのかと思うしな。面倒といえば面倒だが、一人きりで暮らすよりはずっといい。
「……やっぱニワトリたちには助けられてるよな~」
昨年の春祭りに顔を出してよかったとしみじみ思った。
朝食を準備してポチを送り出す。タマのおかげで時間が余ったから洗濯して外に干した。あとは日中雨が降らないことを祈るばかりである。
まずは桂木さん宅に向かう。いつものようにユマとタマを軽トラに乗せてからなんの手土産も用意していないことに気づいた。
「あー……どーすっかなー」
かといってここで気づいた時点で手土産などを買う時間はない。
「ま、いっか。今度用意しよう」
そんなに会う機会があるわけではないがそろそろGWである。不法投棄関係の話はどうせしなければいけない。顔を合わせるかどうかは別ではあるが、またそのうち顔を合わせることはあるだろう。
麓の入口の柵は開けてあるという話だったのでそのまま入った。鍵をかけてきてほしいというので南京錠をかけて桂木さんの家へと軽トラを走らせた。
着くと、見慣れない軽トラが停まっていた。桂木さんが頼んでいるという村のおじさんのものだろう。
「こんにちはー」
声をかけてユマとタマを下ろした。ちょうど死角になっていたらしく、畑の側にある木の裏手から桂木姉妹とおじさんたちが現れた。
おじさんたちは定年したぐらいの年に見えた。
「ああ、湯本んとこの」
「佐野君だっけか」
見覚えはあった。確か毒蛇騒動の時のおっちゃんちでの集まりに来ていた面々である。おじさんは二人だった。
「こんにちは、佐野です」
おじさんたちは頭を掻いた。
「さすがに覚えてねえか。俺は妻木だ」
「俺は元平だ。今日はよろしくな」
「すみません、物覚えがあんまりよくなくて」
俺も頭を掻いた。
「佐野さん、こんにちは~」
「おにーさん、おはよー」
「おはよう。タツキさんはどちらに?」
「あの木の影にいます」
桂木さんが答えた。
「じゃあ先に挨拶してくるよ。タマとユマを連れて来たから」
「ありがとうございます」
言われた通り木の側へ向かうと、以前より一回り大きくなったドラゴンさんが寝そべっていた。
「こんにちは、タツキさん。佐野です。ニワトリたちを連れてきました。ニワトリたちにこちらの草や生き物などを食べさせてもいいですか?」
ドラゴンさんはうっすらと目を開けると、ゆっくりと頷いた。このやりとりも久しぶりである。
「ありがとうございます」
礼を言って桂木さんたちのところへ戻った。
「許可をいただいたから、ニワトリたちに声をかけるよ」
「はい」
「はーい」
おじさんたちは不思議そうな顔をしていた。
「タマー、ユマー、タツキさんから許可が下りたぞー」
二羽がそれを聞いて駆けてきた。さすがにその姿が近づいてくると、おじさんたちは顔を引きつらせた。思ったよりでかくてすみませんと思った。
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