449.養鶏場のおばさんのごはんがおいしすぎる
「もー、佐野君てば手土産なんかいらないのに~」
おばさんが上機嫌でどんどん料理を運んできた。今回は、干豆腐の薄切りとサラダチキンをほぐしたものをあえたメニューも出てきた。いろどりにピーマンの細切りと唐辛子が散らされ、味付けはごま油と塩のようだった。
「そっか、サラダチキンを合わせるのもいいですね」
「さっぱりしておいしいでしょう?」
おばさんがにこにこしながら言う。豆腐屋からおからをもらっているから豆腐屋の新商品もすぐに手に入るわけだ。メニューを考えたりすれば鶏も豆腐も抱き合わせで売れるもんな。よくできていると思う。今回は干豆腐を使うことにしたらしく、鶏肉と小松菜を干豆腐の細切りとオイスターソースで炒めたものなども出てきた。松山のおばさんが作るからなのか、鶏肉料理が本当においしい。宮爆鶏丁(鶏肉とピーナッツの炒め)もおいしいし、メインで出てきたチーズタッカルビもたまらない。
「なんでこんなにおいしいんだろ……」
ついため息が漏れてしまう。
「そうだろう、うまいだろう。だがなぁ、ちょっと作りすぎじゃないのか?」
松山のおじさんが胸を張って言いながらも苦笑した。
「そんなにそんなにお客さんもこないんだからいいじゃないの」
「佐野君も無理はするなよ」
「はい。無理はしませんけど……おいしいので」
「ならよかった」
ほうれん草のおひたしとか、漬物で箸休めをしながら、中華風のコーンスープをいただいて舌鼓を打ったり、思ったよりごはんも食べてしまった。俺は宮爆鶏丁には勝てないんだ。(何を言っているのか)
「そういえば、豆腐屋さんでこの干豆腐を扱ってるとは思うんですけど、豆腐皮みたいなのって扱ってないんですかね?」
「豆腐皮(ドウフピー)?」
「はい、相川さんが言うには、上から潰すんじゃなくて水分を含んだままの豆腐を引き延ばして作るものみたいなんですが……」
「じゃあ今度豆腐屋さんに聞いてみるわ。調理法は相川君に聞けばわかりそうね」
「ええ、多分わかると思いますよ」
新しい、とか知らない食材の話をされるとつい食べたくなる。おなかいっぱいでもうとても入りそうもなかったが、おばさんは甘い物は別腹らしくお団子を食べてくれた。
「行ったことはないけど、和菓子のお店があるのよね?」
「はい、村の西の端です」
おばさんは少し考えるような顔をした。そんなに遠いわけではないが、あそこまで買いにいくかどうかと考えると微妙かもしれない。
「一度顔ぐらいは出してもいいんじゃないか?」
松山のおじさんが言う。おばさんは頷いた。
「そうね。一度ぐらいは見に行きたいわ」
養鶏場はたいへんだろうけど、たまには外出してもいいのではないかと思う。
「あんまりここを出ないから知らないのだけど、他にお店とかできた?」
「いえ、和菓子屋以外は知らないです」
「そう簡単にはお店もできないわよねぇ。だいたいこの村で商売として成り立つかって言われたら微妙だもの」
おばさんは苦笑した。確かにこの村で商売をするというのは難しいと思う。新しい店ならば猶更だ。この養鶏場は近隣の町にも鶏を下ろしているから成り立っているけど、村での消費といったらそんなにはないはずだ。それでも新しいものを開発したりと、なかなかに前向きだと思う。
「あ、そうだ。試作品でね、香草を練りこんだりとか、スモークしたりしたのとかいろいろあるのよ。よかったら持って帰って食べてみて。いっぱい作ったからお友達に配って感想をもらえると嬉しいわ」
「はい、ありがとうございます」
箱いっぱいにパウチされたサラダチキンをいただいた。その他に冷凍の鶏肉を買わせていただいたりもした。冷蔵庫に謝礼を払おうとしたけどもらってはくれなかった。業務用の保冷剤を山ともらい、餌を保管する時は小分けにして冷やしておくといいと言われた。まとめてだと更に発酵が進んで食べられなくなってしまうかもしれないからだ。ごめんなさい、ポリバケツごと入れようと思ってました。
「佐野君のところのニワトリはミルワームとかは食べないのかい?」
「んー、あげれば食べるとは思うんですけど普段から山野を駆け回ってるので、虫とかは自力で取って食べてると思うんですよね」
「それもそうだね。とても逞しそうだ」
おじさんが笑った。
ニワトリが戻ってくるまではお邪魔させてもらう。
「あ、そうだ。なんだったら雑草とか取りますよ」
「あら、いいの? 助かるわ~」
せめてものお礼に、養鶏場の周りの雑草を抜くことにした。タオルと帽子だけ借りて、ニワトリたちが戻ってくるまで作業をする。まだそんなに暑くないからいいけど、これから雑草が繁茂するわけで手入れがたいへんだよなとしみじみ思った。
タマとユマは夕方になる前に戻ってきた。さすがに今日は何も狩ってこなかったらしい。つか、狩ってくれるのはいいんだけどいろいろ予定がずれるのが困るから手ぶらで帰ってきてくれるとほっとする。
冷蔵庫や鶏肉を積み込んで、山へと戻ったのだった。
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