448.和菓子屋に寄ってから向かいます

 で、タマとユマと一緒に和菓子屋へ向かったわけなんだが。

 広い駐車場に停めて、一旦タマとユマを下ろした。


「遠くへ行くなよ~」


 そう声をかけて店に入ろうとしたら、如何にも料理人さん、って白い恰好のがたいのいいおじさんが出てきた。確かこの人が店長さんなんだっけ。


「お、お……お客さん、ですか……?」

「? はい」

「あの……後ろの……」


 なんとなしに振り返れば、まだ軽トラの側にタマとユマがいた。ああ、俺にとっては当たり前の光景だけど、客観的に見たらびっくりするかもな。でも確かここのおじさんは以前もうちのニワトリたちを見たことがあったような気がしたんだが。


「ああ、すみません。うちのニワトリです。車道に出たりとか、店に入ったりはしないので安心してください」

「そ、そうですか……どうぞ」


 おじさんの腰は引けていた。ちょっと悪いことをしたなと思った。


「お父さん、なんか忘れ物?」


 和菓子の入ったショーケースの後ろには看板娘がいた。


「いや、お客さんだ」

「あ、いらっしゃいませ~。今日はお一人ですか?」

「うん。みたらしと餡の団子を五本ずつお願いします」

「はいっ!」


 娘さんはてきぱきと手を動かし、すぐに団子を包んでくれた。


「ありがとうございます」

「これはオマケです」


 おじさんが大福を一個くれた。ありがたくいただく。


「ありがとうございます、嬉しいです」


 礼を言って店を出た。おじさんも出かける予定だったらしく、一緒にまた表へ出た。


「おーい、タマー、ユマー、行くぞー」


 タマとユマが少し離れたところにいたから呼んだら駆けてきた。おじさんがびっくりした顔をした。


「あ、すみません。大丈夫ですから」


 二羽を軽トラに誘導する。そんなに遠くから駆けてきたわけではないのでスピードは乗っていない。なのでスムーズに軽トラの手前に着いた。


「……お客さん、失礼ですけどそのニワトリってどうしたんですか?」

「村のお祭りでカラーひよこを買ったら、こんなにでかく育っちゃったんですよ」

「ほうほう……それはご縁ですね」

「そうですね」


 縁って言葉はいいなと思い、ついにっこりしてしまった。


「お客さんはこちらは長いんですか?」

「いえ、ここでやっと一年経ったところです」

「村での生活はたいへんでしょう」

「あー、ええと……村ではなく山に住んでるんですよ」


 おじさんは目を丸くした。


「山、ですか。ああ……確かに山だったらそんな大きいニワトリも飼えそうですね」

「はい」


 会話の止め時がわからなくて困っていたら、タマがココココッ! と鳴いた。


「あ! すみません、これから行くところがあるので」

「お引止めしてしまってすみませんでした」


 おじさんは頭を掻いた。タマのおかげで助かったと思いながらタマを荷台に乗せ、ユマを助手席に乗せて軽トラを出した。あとでタマには礼を言わないとな。

 それにしても、あんまりお客さんとか来ないのかな。正直それほど知らない人と話したくない。今度行く時は誰かと一緒に行こうと思った。

 村の西の端から東の端の方へと軽トラを走らせる。とてもいい時期だと、ところどころ新緑を眺めながら思う。新緑も傍から見ている分にはいいんだが、自分の山となるといただけない。今年は裏の山に向かうことができるだろうか。住んでいる手前の山だっていっぱいいっぱいなのに。ただ急ぐことじゃないからのんびりやっていけばいいかなとも思った。

 村の端の方まで進み、分岐点を右に向かえば山を少し登っていく形になる。その終点が養鶏場だった。


「こんにちは~」


 松山のおじさんが外に出ていたので挨拶をした。


「おお~、佐野君いらっしゃい。なんか今日はちょっと遅かったな」

「すいません、立ち話に付き合わされてしまって」


 俺は頭を掻いた。


「それじゃあしょうがねえ。みんな若い者と話したいからしょうがないな」


 松山さんはそう言って笑った。


「ニワトリたち、下ろしても大丈夫ですか?」

「養鶏場の方へ来なければ大丈夫だよ」

「ありがとうございます」


 許可を取ってからタマとユマを下ろした。


「養鶏場の方へ行かなければいいってさ。暗くなる前に戻ってくるんだぞ」


 タマとユマに言い含める。二羽とも頷くように首を動かした。今日はユマもちょっと遊んでくるみたいだった。誰かのところへお邪魔する時はユマもそれほど側にはいないことが多い。いったいなんなんだろうな?

 それでもユマはこちらを何度か振り返ってからタマと遊びに行った。ホント、ユマってかわいいよな~。


「じゃあ倉庫にあるから来てくれ」

「はい」


 手土産の和菓子を先に渡してから、松山さんと倉庫を見に行くことにした。昔ながらの箱だと言っていたからあんまり期待しないでおこう。使えたらめっけもんぐらいで。


「持ってくようなら保冷剤も山ほどつけてやろう」

「ははは……」


 確かにいっぱい持ってそうだと思う。業務用のでっかいのとか持ってそう。そういうのがあれば便利だよな。

 家の裏手にあった倉庫はけっこうでかかった。

 んで、肝心の冷蔵庫はというと、元は白かったのかもしれないが、経年劣化なのか黄色っぽくなっていた。そして扉が一つである。


「これ、ポリバケツそのまんま入りそうですね」

「ああ、入ると思うよ」


 穴とかも空いてないし、中もけっこうキレイだったのでもらっていくことにした。これでニワトリの餌の保管ができるな。よかったよかった。

 ほくほくしながら母屋へ向かう。そして今日もおばさんから豪華な昼ご飯攻撃を受けたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る