445.酒が入るとどうしても ※豆の乾物についての調理法あり

 翌朝は自己嫌悪だった。

 ビールがいけない。相川さんもビールを持ってきてくれた。それで気持ちよくなって飲んでしまったのだ。

 ビールとおいしいごはん。満腹まで食べたら嬉しくなっていらんことまで話してしまった。他の誰かがいる時は抑えられるけど、相川さんと二人の時は危険だと学んだ。


「佐野さん、僕の思い違いでなければなんか疲れているように見えますけど、何かありましたか?」

「え? ああ、先日夢見が悪かったからかな。まぁなんてことないですよー」


 昨夜はそんな会話の流れから、母親から来たLINEのことを愚痴ってしまった。なんつーか、相川さんて聞き上手なんだよなぁ。


「そういうことは知らせないでほしいですよね」

「そうなんです。母の気持ちもわからないでもないんですが……」

「そこは佐野さんが考える必要はありませんよ。一番傷ついているのは佐野さんなんです。佐野さんは自分のことだけ考えればいいんですよ」

「……ありがとうございます」


 涙が出そうだった。

 で、自己嫌悪の中母さんにLINEを入れた。


「もう彼女のことは一切俺に知らせないでほしい。つらいから」


 そうだ。俺、まだつらかったんだよなぁ。

 ニワトリたちとか、おっちゃんたちとか、相川さんとか、桂木姉妹とか、その他村関係の人たちに優しくされて癒されてはきているけど、やっぱ思い出したらつらいんだ。

 そうだよな。地元に戻りたいなんて全く思わないんだからそうなんだよな。

 身体を起こした。ニワトリたちが頭を上げた。起きてはいたけど大人しくしていてくれたらしい。


「おはよ、ポチ、タマ、ユマ」


 んーっと両腕を伸ばした。まだ朝晩寒いから居間で寝ている。こたつもまだしまえなくて困っているのだが、相川さんも違和感なくこたつに入っていたからやっぱり寒いのだろう。

 山は夏でもそれなりに涼しい分、5月ぐらいまで朝晩寒いんだよな。夏の暑さがあまりない方がいいか、冬の寒さが厳しくない方がいいか考えてしまうけど、別の場所だからって冬寒くないわけじゃないしとか俺は思ってしまう。それはまだ俺が若いせいなんだろうな。


「オハヨー」

「オハヨー」

「オハヨー」


 みんなちゃんと返事してくれるのが嬉しい。思わずにんまりしてしまった。今朝もタマとユマはぽこんと卵を産んでくれた。


「タマ、ユマ、ありがとうな~」


 昨夜水に浸けた豆を茹でるんだけど、豆ってニワトリにあげていいものなんだっけ? 喉詰まったりしたら困るから止めた方がいいかな。潰して餌に混ぜるとかならありかもしれないけど。生豆はあまりよくないようなことをどっかで聞いたから、あげるにしても茹でてからにしよう。


「おはようございます」


 相川さんが起きた。


「布団、畳んでおきますね。向こうの部屋にしまってくればいいですか?」

「えーと、後で干すんで隣の部屋にお願いします」

「わかりました」


 起きてすぐきびきび動いてるってことはきっととっくに起きてたよな。気を使わせてばかりだ。後で謝るとして、今は気にしないことにした。

 まずは大豆から茹でることにする。大豆は固いので水から茹でた方がいいようなことを聞かされた。ふやかした水と一緒に鍋に水を足して入れ、塩も入れる。沸かしている間にニワトリたちの餌を用意してあげた。市販の水煮っぽい柔らかさのものを作るなら沸騰してから弱火で一時間ぐらい煮るようだが、とりあえず沸騰してから15分~20分でそれなりの固さのものができるらしい。というわけで沸騰してからまず15分茹でることにした。

 ニワトリたちは大豆を茹でている間に朝飯を食べ終え、タマとポチはそのまま遊びに出かけた。

 相川さんにお茶と漬物を出した。とりあえずごはんを出そうとしたら大豆を味わいたいと言われた。なので二人でじっと待っていた。ユマは家の周りで遊んでいる。


「相川さん」

「はい」

「昨夜は愚痴ってしまってすみませんでした……」

「愚痴は大事ですよ。僕でよければいくらでも聞きます。その代わり、僕にも愚痴らせてくださいね」

「……ありがとうございます」


 相川さんはどこまでイケメンなのか。女子がそんなこと言われたら絶対惚れると思う。俺? 何言ってんだ?(誰に向かって言っているのか)

 沸騰したらもこもこになって慌てた。白い灰汁がもこもこ出てきてびっくりした。慌てて掬って流しに捨てることを何度かくり返し、弱火にして15分ぐらい煮てから相川さんと味見をした。


「お」

「この固さ、いいですね。ちゃんと火も通ってますし」


 ということでそこでザルに上げた。次は青大豆だ。

 同じようにして茹で、味見をしてOKが出たところでザルに上げた。どちらも沢山もこもこの灰汁が出た。こんなに灰汁が出るんだ、とびっくりした。大豆も青大豆も、適度な固さがあると枝豆っぽい。青大豆は色がそうなのでより枝豆っぽかった。


「おいしいですね。茹でたてだったら鰹節と醤油だけでいただけますね」


 と相川さんが言うので、その通りにして出した。お互い適当にご飯に混ぜて食べた。

 絶品だった。


「おいしい……」

「大豆って、こんなにおいしかったんですねー」


 ってことでこれからも豆を買ってくることにした。相川さんは冷めた大豆をタッパーに入れ、塩とごま油、にんにくのすりおろしと唐辛子を少々入れて、蓋をして振り、豆のナムルを作ってくれた。


「半日漬けておけば味が染みると思います。僕も雑貨屋で買ってきます」


 そう言って上機嫌で帰っていった。

 ホント、一家に一台相川さんだよなと、西の山に向かって拝んだのだった。




ーーーーー

大豆、青大豆の乾物は、水に一晩浸ける。(夏場は8時間以上は浸けない。水がいたむ)

水から茹でて(塩を入れる)沸騰させ、そのまま中火~弱火で15分~20分茹でるというのが佐野君式です。(気温などによっても時間は前後します。あくまで目安です)

茹でたら味見をして、まだ芯が固いと思ったらもう少し茹でましょう。甘味が感じられたら茹ってはいます。(茹ってない場合はなんかまずいです。生煮えはおなかを壊します。くれぐれもお気をつけください。各自、自己責任でお願いします)

あとはお好みの固さになるまで茹でてください。


私は水から茹でないで沸騰してから入れて、再沸騰してあくを取り除いてから13分ぐらい煮ます。人によってやり方は様々です。


注:コメ欄にナムルのレシピもあります~

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る