432.家の神棚に祀るのは

 登るのもたいへんだけど、下りるのもたいへんだ。

 ニワトリたちは軽快に下りて行くが、あれって下りるっつーか落ちてるかんじだよなと冷汗をかいた。何あのヒャッハー感。

 墓の近くへ下り、いろいろほこりや泥などを軽く落としてから軽トラに乗る。うちに戻ってほっとした。ポチとタマはこのまま遊びに行くらしい。


「え? ポチ、タマ、昼飯はー?」


 てっきり家で食べてから出かけると思ったのだが。

 クァーッとポチが鳴いた。いらないようだ。もしかしたら蛇を根こそぎ狩る気なんだろうか。まぁ……毒蛇は退治してくれると助かるが……。


「ヤマカガシとマムシぐらいにしておけよー」


 名前を言ってわかるかどうかは不明だが、一応声はかけてみた。こちらの都合で悪いが、毒蛇以外はいてくれた方がよかったりもするし。


「……え? やっぱマムシとかいますよね……」


 将悟君が反応した。青ざめている。俺は安心させるように声をかけた。


「ああうん。なんか去年はすっごく多かったんだよ。うちはニワトリたちがけっこうな勢いで狩ってくれたから今年はそんなにいないと思うけどね。あ、ユマ。昼飯はどうする?」


 ユマはココッと鳴いて家には入ってこなかった。


「ユマも見回りしてくれるのか? ありがとうなー」


 ユマもまた蛇を狩ってくれるんだろうか。ありがたいニワトリたちである。夕飯のシシ肉は厚めに切ったのを二枚ずつにしようと思った。


「ちゃんと意志の疎通ができてるのがいいですよね。でもニワトリは……町では飼えませんよねぇ」


 圭司さんが残念そうに言う。普通のニワトリでも、ちょっと町の一軒家では難しいのではないだろうか。庭が相当広いなら、あるいは。


「そうですね。運動不足だと夜中起きて騒いだりしますから、町ではちょっと……」

「ああ、やっぱりそうなんですか」

「インコぐらいならいいと思うんですけど」

「インコは、なぁ?」


 圭司さんが将悟君と顔を見合わせた。苦笑し合っていたから何かあったのかもしれない。俺は特に聞かないことにした。


「お昼ご飯、食べられそうですか?」

「いただきます!」


 将悟君が即答した。家の前で改めて服をぱんぱんはたいていたら、ユマがトットットッと近づいてきて俺たちをつついてから戻って行った。


「え? なに?」


 圭司さんと将悟君が目を白黒させた。


「たぶん小さい虫などがくっついていたのではないかと思います。つっついて取ってくれるんですよ」

「……ニワトリ、優秀ですね」

「はい、優秀です」


 おかげで家の中にあまり虫とかを持ち込まないで済んでいる。実際のところ、家の中に虫が出てもニワトリたちが食べてしまうからあんまり発生はしていないと思う。虫が嫌いなわけではないが、柱とかにでっかい虫とかくっついてるとビビるからちょっと勘弁してほしいとは思っている。そんなのもニワトリたちは見つけるとバリバリ食べているけど。あ、でも……カブトムシとクワガタは見つけ次第俺が逃がすようにはしている。これはもう気持ちの問題だ。

 将悟君はあれだけおにぎりを食べたにもかかわらず、沢山食べてくれた。


「シシ肉、おいしいです!」

「口に合ってよかった。みそ漬けにしただけなんだけどね」

「この卵って……」

「ああ、ユマとタマの卵だよ」

「えええええ。すっごく濃厚でおいしいですね!」

「よかった。たぶんここでしか食べられないから食べていってくれ」

「ありがとうございます!」


 喜んでいっぱい食べてくれてよかったよかった。お茶を飲んで一息ついた。中学生はいっぱい食べるよなと嬉しくなった。やっぱりごはんはみんなで食べた方がおいしい。


「圭司さん、一応ここに神棚を置こうかと思ってるんですけど……」

「山の神様を祀る為ですか」

「ええまぁ。いつでも上まで行けるわけではないので」

「そうですね。簡単な祠は今度持ってきますけど、普段はこちらでいいと思います。山の神様ですから、山のものならなんでもいいでしょう」

「ですかね」


 一応神様に聞いてみようと思った。

 本来家の神棚というのは山の神様を祀るものではないだろうけど、うちは例外だってことにしてほしい。ネットで調べるといろいろ手順とかあるみたいだが、そういうのってけっこう最近になってできたやり方だったりすることも多い。最近つっても百年ぐらいだからもちろん俺は生まれてないんだけど、この山の神様もそうだが日本の神様って八百万もいるわけだから、これがこうってのは特に決まってないと思うんだよな。

 つーわけで俺はここの神様に聞くことにした。あんまり聞きすぎて嫌がられないかどうかだけ心配ではある。

 ふと見るとなんだか将悟君がそわそわしているように見えた。


「将悟君、どうしたんだ? 足りない?」

「え? いえ! おなかいっぱいです。えっと……」


 何か言いたいことがあるようだ。せかさないように将悟君を促したら、彼は重い口を開いた。

 それを聞いて、あー、と思ってしまった。

 まぁ俺はそんなに実害なかったからいいけどな。内心苦笑する。

 アメリカザリガニが増えた理由はだったらしい。

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