430.元庄屋さんのご家族が来た

 さて、いろいろ買ってはきたものの明日のごはんはどうしよう。

 ユマに昼ご飯を用意し、煎餅をばりばり食べながら考えた。やっぱ村で売ってる堅焼きの煎餅が好きだったりする。ソフトな煎餅では食べた気がしないのだ。

 いろいろ片づけをしてからちょっと墓参りをしてきた。来たばかりのせいかそんなに汚くはなっていない。汚れる時は一瞬で汚れるけどな。花粉とかで。花粉症ではないけど、この時期はマスクした方がいいんだろうか。蓄積で発症するようなことを聞いたことがある。


「明日は山倉の圭司さんと、その息子さんがいらっしゃいます」


 お墓にお知らせし、山頂に向かって手を合わせた。


「明日は山倉の圭司さんと、その息子さんと登りますのでよろしくお願いします」


 来たはいいけど登れなかったらどうしよう。ちょっと不安だけど、登れないってことは何かあるのかもしれないからそこは謙虚にありがたいと考えるようにしたい。

 生姜と白菜、卵の中華スープに、漬物、シシ肉の味噌漬け丼でいいか。一応登る時におにぎりも持っていくつもりだし。それから清酒と……と前日からいろいろ考えてしまった。

 夕方に帰ってきたポチとタマはそんなに汚れていなかった。ありがたいことである。

 久しぶりにユマが畑の側でマムシを捕まえて持ってきた。あまりにも久しぶりすぎてちょっと後ずさってしまった。マムシ怖い。


「た、食べていいぞ」


 と言ったらバリバリ食べた。ホント、丸ごと食べてるっぽいんだが毒とか大丈夫なんだろうか。

 そうか、もうマムシが出てくる季節になったか……と思ってから、明日の朝はニワトリたちに蛇を中心に狩ってもらうことにした。圭司さんたちが噛まれたらたいへんだ。

 で、翌日。ポチとタマには出かけないようにお願いした。一緒に山に登ってもらう為だ。

 圭司さんたちが来る前に家の周りの蛇退治を頼んだら、タマがノリノリでローラー作戦をしていた。そんなタマがマムシを捕まえたので食べていいと伝えた。やっぱりバリバリ食べてた。あのギザギザの歯がとっても怖いです。

 十時前に、軽トラが一台とステッ〇ワゴンがやってきた。ステッ〇ワゴンは圭司さんの車だろう。


「おはようございます、佐野さん」


 軽トラからは元庄屋さん夫婦が下りてきた。墓参りに行ってからそのまま帰るらしい。その方がいいと思った。年寄りには全く整備されていない山道はきついだろう。


「佐野さん、きちんとお礼もしなくて申し訳ありません。その節は本当にありがとうございました」


 奥さんに深々と頭を下げられてしまった。


「いえいえ。神様が知らせてくださったのだと思いますよ。お気になさらず」

「佐野さん、おはようございます」


 圭司さんが、息子さんと一緒に下りてきた。


「今日はよろしくお願いします。こっちは息子の将悟です。ほら、挨拶しろ」

「……初めまして、こんにちは」

「初めまして。佐野と言います。よろしく」


 息子さんはちょっと人見知りしているみたいだった。小さい頃はここに住んでいたと言っていたから、そこから知らない人が出てきたらどう反応していいかわからないよな。


「あ、あと……紹介します。うちのニワトリたちです」

「うわ、でかっ!」


 息子さん―将悟君が後ずさった。ユマが近くに来ていたから紹介してみた。


「将悟、言っただろ? でっかいニワトリがいるって」

「こんなにでかいとか誰が思うんだよ!」


 だよなぁとユマを見て同意する。ユマはナーニ? と言うように首をコキャッと傾げた。かわいい。

 ユマと将悟君を見比べてみたら、将悟君の方が若干背が低かった。確かにこれではユマに圧倒されてしまうかもしれない。


「おとなしいから大丈夫だよ。村の子どもたちと遊んだりもするし」

「そ、そうなんですか……」


 つか、村の子どもたちの人懐っこさの方がおかしいのかもしれない。たまに駄菓子が売ってる雑貨屋にユマと一緒に行くと、子どもたちが遊んで遊んでーってくるもんな。ま、怖がられるよりはいいけど。


「先に用事を済ませてしまいましょうか」


 ってことでさっそく墓参りに行くことにした。軽トラの荷台にポチとタマを乗せ(二羽にも挨拶はさせた)、助手席にユマに乗ってもらう。将悟君がえええと言いたげな顔をしていた。

 墓のところまで行くと、山倉さんと奥さんは笑んだ。


「いつもキレイにしてくれているんだな。佐野君、ありがとう」

「いえ、つい昨日掃除したばかりなので」


 頭を掻く。


「いやいや、周りの草とかもキレイに刈ってくれてるじゃないか。定期的に清掃してくれている証拠だよ。本当にありがとう」

「本当に、いい方に買っていただけてよかったわ。困ったことがあったらいつでもおっしゃってくださいね」

「いえ、あの……」


 そんなに感謝されるようなことはしていないのでやめてほしかった。みんなでざっと墓の清掃をし、花や線香を供えたりして手を合わせた。これからもできるだけお参りするようにしますので、どうぞよろしくお願いします。

 ニワトリたちには山に登れるかどうか確認してもらった。どうやら今日は登れそうである。よかったよかった。


「あの、事前に聞いておいた方がよかったと思うんですが、ここの神様って山頂付近にいないといけませんか? この、墓の側にいてくださった方が参拝とかもしやすいので頻繁に来られるんですけど」


 山倉さん夫妻と圭司さん、将悟君はお互いに顔を見合わせた。


「ご神体もなくて、山頂の近くにあった石を置いたんだったかな?」

「はい、そうなんです」


 山倉さんは難しい顔をしたが、


「だったら、悪いけど直接山頂で聞いてもらえないだろうか?」


 と答えた。


「あ、はい。じゃあそうしてきます」


 それでいいのかと、ちょっとほっとした。

 そうして山倉さん夫妻とはそこで別れ、ニワトリたちに先導してもらって圭司さん、将悟君と共に登ることにした。

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