429.西の山の人と町へ買物に行く。ヘビとニワトリと一緒に

 なんで川を見に行くかというと例のアレだ。

 アメリカザリガニがどうなっているか見る為である。それともまだ早いだろうか。山の上は寒いから出てくるのはもう少し先かもしれないが、少しは確認はしておきたかった。


「ユマ、ザリガニ見つけたら教えてくれ」

「ワカッター」


 前にいっぱい獲ったからユマも形を覚えているみたいだ。でもアメリカザリガニと他のザリガニの区別もつかないんだよな。スマホで調べて確認するか。実のところ、この山は川が多いのだが、あまり深さがない川は全てザリガニでいっぱいだったのだ。多分誰かが逃がしたかどうかしたのだろうが、それにしても数が多くてびっくりした。好んで食べてくれるリンさんやテンさんに感謝である。


「イター」


 ユマがさっそく一匹捕まえてくれた。


「うわ、いたのか。まだいるもんなんだなー」


 スマホで調べたらアメリカザリガニっぽい。


「ユマ、食べるなら食べてもいいぞ」


 そう言ったら食べづらそうではあったがバリンバリン食べた。……ニワトリってあんなギザギザの歯はついてないと思うんだ。ホントどうなってるんだろうと思いながらざっと家の近くの川を眺め、家に戻った。

 荷台にクーラーボックスを用意したりしてユマと共に出かける。助手席も椅子を外してあるがそれでももうきつそうに見える。ユマは大丈夫なんだろうかとちょっと心配になった。


「ユマ、座っててつらくないか? 荷台に乗るか?」

「ンー? ニダイ、ヤダー」

「そうか、きつかったら言えよ」


 相川さんの山の麓で合流する。助手席にもこもこの服を着せられたリンさんが乗っているのが見えた。上半身は人間のように擬態しているから服は定期的に買っていると言っていた。足元には毛布をかけて蛇の部分が見えないようにしている。


「おはようございます、佐野さん。いつもの駐車場でいいんですよね?」

「はい、お願いします」


 いつも使っている駐車場は広いから二台並んで停められないなんてことはない。

 車を近づけて停め、窓を少し開けておく。これでユマとリンさんがおしゃべりできるだろう。


「買物行ってくるな」

「ハーイ」


 小声でユマが返事をしてくれた。かわいくてつい顔がにまにましてしまう。


「リンさん、ユマのことよろしくお願いします」

「ワカッタ」


 表情は全く動かないが(擬態の為)、キレイな女性の顔が頷くように上下する。遠目から見たら普通に女性が助手席に座っているようにしか見えないよな。


「ユマさん、うちのリンのことよろしくお願いします」


 相川さんがユマに挨拶する。ユマはそれにココッと返した。本当に頭のいいニワトリだ。

 銀行へ行ったり郵便局へ行ったり、本屋でお祝いの図書カードを買ったり(図書券とおばさんは言っていたけど今は図書カードになっているらしい)、最後にスーパーに寄ったりと用事を一気に済ます。もろもろのことはネットでできたりもするが、手数料なしでお金を下ろすのはさすがに村では難しい。コンビニもないしな。本当に車がないと山間部は生きていけないからたいへんだ。

 こちらにこないと買えないお菓子を買ったり、足りない調味料を買ったりした。今日は相川さんと別れたら豆腐屋へ行ってこようと思っている。卵も買った。最近村の雑貨屋で卵を買うとへんな顔をされるのだ。タマとユマが卵を産むことはいつのまにか知られているようである。

 いろいろ知られているというのはどうも煩わしいが、俺はまだ山の上に住んでいるからあまり問題はない。タマとユマの卵はとてもおいしいけど、普通の鶏卵だって食べたくなるんだよ。つか、小さいのとでっかいのは別物だと思うんだが。

 それはともかく昼飯にレバニラ炒め弁当を買った。ユマには一応白菜を持ってきてある。帰宅したらちゃんとごはんをあげる予定だ。


「ただいま」


 買ったものを荷台のクーラーボックスに詰めていると相川さんも戻ってきた。


「どうしても多くなってしまいますよねー」


 両手にいっぱいの買物袋を提げて、相川さんが苦笑した。


「そうですね」


 たまにしか町にも出てこないしな。ユマ用の白菜を出し、運転席で昼ご飯を食べる。相川さんと来た時はいつもこうだ。これぐらいが楽でいい。


「帰りに俺、豆腐屋に寄っていきます」

「僕も寄りたいので一緒に行きましょうか」


 豆腐はやっぱり村のが一番だ。相川さんが豆腐屋に電話をかけてくれた。そうだ、臨時休業とかもあるもんな。頭を掻いた。


「ホームセンターへ行くのは明日どうするか相談してからですよね」

「そうですね。うちの神棚ぐらいならもう買っちゃってもいいんですけど、できればご神体をもっと参拝しやすい場所に移せたらなぁって」

「確かに近くに祠があった方が便利ですよね」

「でも移すのにもどうしたらいいのかわかりませんし」

「……佐野さんの山の神様はあまりそういうこと気になさらないようなかんじはしますけど……」


 相川さんが言いにくそうに言う。どういうことだろうか。明日山倉の圭司さんに会ってから相談しようと思った。

 豆腐屋であれもこれも買わせてもらった。

 スンドゥブチゲ用のスープも買う。最近キムチも漬け始めたというので少し分けていただいた。


「いろいろやってますね」

「豆腐だけじゃもうやっていけないのよ」


 豆腐屋のおばさんが困ったように笑んだ。もっと買いに来るようにしないとなと思った。


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