426.お酒を飲んだらのんびりするものだ

 ……昨夜はまた調子に乗って小難しい話をしていたような気がする。

 まだ寒いので、みな同じ部屋で寝た。俺と相川さんはこたつで雑魚寝である。俺の布団は部屋から持ってきたけど、押し入れから布団を出そうとしたらなんか湿っているかんじがした。誰かが泊ると事前にわかっていれば干しておくのだが、今回は緊急だったし。そんなわけで相川さんには俺の敷布団を使ってもらったりしてどうにか寝た。それもこれもオイルヒーターが大活躍してくれているおかげである。そして、この部屋だけでも断熱効果を高める為の工事をしてくれた元庄屋さんに感謝だった。

 朝、窓の外は少し白っぽく見えたがもう降ってはいなさそうだった。


「ちょっと外見てきますね」


 曇りガラスの扉を開けたら、白はほとんど消えていた。夜のうちに雨に変わったのかもしれない。足元が少しぬかるんでいる。


「雪が雨に変わったみたいです。今は何も降っていません」

「それならよかった」


 相川さんが布団を畳みながら笑顔を向けた。

 これでもう雪は終りにしてほしいなと思った。屋根に雪が積もってないか確認したが、洗い流されたようである。これなら桂木さんのところも大丈夫だろう。


「朝ごはんの準備しますね」


 ニワトリたちのごはんを先に用意していたら、タマとユマが卵を産んでくれた。それを相川さんが避けてくれた。


「無精卵と有精卵の区別って、産んだばかりだとつきませんね。温めてみないとわかりませんが……それなりに数が集まらないとニワトリって温めはじめないみたいですよね」

「え?」


 相川さんに言われて俺は目を見開いた。確かにそういったことは調べていなかったけど、有精卵だったら勝手に温め始めるものだと思い込んでいた。


「そう、なんですか……」

「ああでも、今の時期だとそのまま転がしておいたら孵化しませんので、孵化させたいならもう少し暖かくなってからの方がいいとは思います」

「あ、はい。そうですよね」


 こんな寒い中で転がしておいたら有精卵も死んでしまうだろう。だから今の対応で問題ないのだと思うことにした。

 それでもかなり動揺はした。

 そっか。数がそれなりに集まらないと温めはじめないのか。ってことは4個か? それとも6個か? それか孵卵器でも借りるか? 焦る必要はないのだろうがちょっと考えてしまった。

 気を取り直してみそ汁を作った。白菜とワカメのみそ汁である。ワカメは常備しておけるから便利だ。そういえばのりとかワカメの栄養素って日本人にしか消化できないなんて聞いたことがあった。あれってのりだけだっけ? しかも確か生のりとかなんとか。生ののりって食べる機会なんかあったっけ? まぁいいか。

 おかずは分厚く切ったハムと目玉焼きにした。タマとユマの卵を一個ずつである。相川さんがとても嬉しそうな顔をしていた。喜んでもらえて何よりである。


「卵一個分って贅沢ですねぇ」

「喜んでもらえてよかったです」


 もちろん漬物も出した。

 ポチとタマは雪がもう残ってないということで遊びに出かけた。絶対今日は帰ってきたら泥だらけだよな。覚悟は必要だった。


「お昼はどうしますか?」


 昨夜ビールをお互い飲んでしまったので、昼ぐらいまでは運転はしない方がいいだろう。シシ肉ならそれなりにあるからシシ肉の味噌漬け丼にでもするかなと。


「お言葉に甘えてごちそうになりますね」


 相川さんが笑う。

 何気なくスマホを確認したら桂木さんからLINEが入っていた。あ、やべ、と思った。


「昨日はありがとうございました。もう雪が降らないといいですね~」


 ほっとした。特に何もなかったみたいだ。


「大丈夫? 何かあったら声かけてくれ。雪はもう降らないでほしいな」


 それだけ返して、相川さんとちょっとだけ外へ出た。畑に植えた苗はどうにかなっているように見えたが、実際はどうだかわからない。二、三日様子は見る必要があるだろう。


「季節外れの雪って本当に困りますよね」

「そうですね」

「相川さんのところの畑は大丈夫ですか?」

「リンが雪は払ってくれていましたが、様子を見てみないとわかりませんね」

「ですよね」


 天候とか、害虫とか、害獣とか、病気とか……食べられる物を作るのもたいへんだ。うちは害獣被害だけはないが、それでも楽とは言い難い。だから比較的育てやすい野菜とかしか植えてはいないんだけど。

 昼ご飯のおかずを相川さんが作ってくれた。シシ肉と大根の旨煮みたいな料理だった。うまかった。


「うーん、やっぱり固いですねぇ……」


 相川さんは眉を寄せた。大根に納得がいかないみたいだった。俺はおいしかったから全く文句はない。


「おいしいですよ?」

「それならいいのですが……」


 相川さんが凝り性というのもあるだろうが、一家に一人いたらすごく助かるだろうなと思った。一家に一人相川さん。みんな堕落しそうだ。これは本人には内緒である。

 二時頃に相川さんは帰っていった。ホント、甘えてばかりで申し訳ない。頭をぺこぺこ下げるぐらいしかできることがない。


「佐野さん、お互いさまですよ。お互いさまっていうのは僕と佐野さんだけの関係ではないんです。助け合いは巡り巡っていますから、気にしないでくださいね」


 そうは言われても慣れてはいけないと思うから、何か返せるものはないか、もう少し真面目に考えることにした。



ーーーーー

「離島で高校生活送ってます」は本日以降の更新がちょっと楽しいかもしれません(謎)

https://kakuyomu.jp/works/16817139557736626697

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る