415.そろそろ山菜の時期みたいです

 ニワトリがどこからイノシシを狩ってきたかは、言わなくていいらしい。


「そこらへんは俺らが見つけてニワトリたちに頼んだことにするから、昇平は気にすんな。どーせ二頭もいたんじゃ何日も回ることになってたかもしんねえしな。ま、これでどうにか終りだろ? ニワトリたちにはホント感謝だよ」


 おっちゃんがそう言ってガハハと笑った。

 それならいいんだけど。まぁそこらへんはおっちゃんたちがうまくやってくれるのだろう。もう考えないことにした。

 甘いもののおかげで頭はすっきりしてきたが、安心したらどっと疲れがきたのか動けなくなった。

 山登りとかもそうだ。座ったら途端にそこから根が生えたみたいに動けなくなる。だから休憩は立ったままがいいんだよな。


「じゃあ宴会が終ったらもういいよな。そろそろ田畑の手伝いをしねえと怒られっちまうからなぁ」


 陸奥さんが晴れやかに笑った。息子さんに継がせたとはいえ、人手が余っているわけではない。田植えなんかは辺り一帯の人たち総出でやるみたいだし。


「僕もそろそろ畑の手入れをしないとね。うちの方はイノシシ被害はないからいいけど、明日は我が身だよね~」


 戸山さんが畑の方を眺めながら呟く。俺もこれからは畑の手入れをしなくては。あ、でもその前に神様の社をどうにかしないといけない。


「相川さん」

「はい」

「山の神様に捧げるものってどうしてます? やっぱりお神酒とか用意していますか?」

「ああ……毎日ではないですけど、いい酒が手に入った時は持っていってますよ。山の上の神様にですか?」

「それもあるんですけどやっぱり神棚がほしいかなって」

「そうですね。神棚があればそんなに頻繁に登らなくてもいいですし。それじゃまた今度ホームセンターにでも行きましょうか」

「はい。でもその前に山倉さんに来ていただくのでその後でもいいですか」

「ええ、うちはいつでもいいですから声をかけてください」


 相川さんがにこにこしながら言ってくれた。本当に俺っておんぶにだっこだなと思った。

 お昼ごはんはシシ肉の味噌漬けを焼いたものが出てきた。うちみたいにただ味噌をつけただけではないらしい。おばさんは好みで酒やみりんを足したりしているようだ。もう感覚的なものだからレシピを、と言われても困ってしまうようだった。


「昇ちゃんもだいぶ料理には慣れてきたんじゃない? 自分の好みの味付けでいいのよ?」

「酒とかみりん、ですよね。みりんはあんまり使ってなかったな。使ってみます」

「でもねぇ、肉は漬けても味見ができないから野菜とか、刺身を漬けてから試してみてもいいかもしれないわね」


 確かに生肉を漬けるわけだから味見はできない。言われてみれば目から鱗だった。多分聞かなかったら指とか浸けて味見とかしていたかもしれない。危なかったと内心冷汗をかいた。つか、なんでタマとユマの卵は生で食わないようにしているクセにそういうところは抜けるんだろうな。タマとユマの卵はキレイに殻を洗えば生でも食べられそうだけど、あえて生では食べない。なにかあった時責任を取るのは俺だからだ。

 話は変わるけど、以前母さんがマグロの漬け丼というのを作ってくれたことを思い出した。確かあの時は醤油とみりんで漬けてたような気がする。俺、イノシシの醤油漬けって醤油と少量の砂糖で漬けてたけど今度みりんを使ってみようと思った。使うは使うんだけどみりんてレシピにあるから使うぐらいで、まだイマイチ使い方がわからないんだよなー。

 山菜の天ぷらも出てきた。そういえばもうそんな時期だった。


「あー、そっか。山菜の時期ですね」

「イノシシ探すついでにな。まだあんまり種類はねえが、昇平んとこも邪魔していいか」

「いいですよ。俺じゃ全くわからないんで」

「ニラとスイセンの区別もつかなかったか」

「区別つかないですね。危ないです」


 おっちゃんたちがガハハと笑った。ポケット山野草とかそういうのは持ってるんだけど、どうもその写真と現実の植物が一致しないのだ。平面と立体の違いで頭がうまく処理できないのかもしれない。だからキノコも絶対採らないし、山菜もこれは絶対食べられるってもの以外は採らないようにしている。


「タラの芽が採れたら声かけるからよ。急いで来いよ」

「はい! 是非!」


 もうそろそろで四月だ。タラの芽の旬って、四月から六月ぐらいだっけ。地域にもよるかもしれないけど。

 昼飯をまた腹いっぱいになるまで食べてしまいおなかがきつい。ちら、と相川さんを見れば相変わらずのイケメンっぷりだった。相川さんもさりげなくすんごく食ってるけど運動とかどうしてんのかな。


「佐野さん?」

「あ、すみません」


 つい謝ってしまった。


「どうかしました?」

「いやあ……これだけ食いまくってるとそろそろウエストが……。相川さんて特別運動とかしてます?」

「うーん……運動量としては佐野さんとあまり変わらないと思いますけど、ただ……」

「ただ?」

「ポチさんとタマさんてけっこう歩くペース早いんですよ。だから一緒に行動しなくなると僕も太るかもしれませんね~」

「ああ……」


 そういえば前に松山さんのところの近くの山でユマとタマがシカを獲った時、タマが秋本さんを連れて戻ってきたな。あの時確か秋本さんと結城さんの息がかなり上がってなかったか? もうちょっとみなさんに優しくしてあげてほしいと思った。(394話参照)


「うちのポチとタマがすみません」


 申し訳なくなって頭を下げた。相川さんが慌てたように手を振る。


「いえいえ。おかげで山中の進み方が大分楽になったんですよ。佐野さんのところのニワトリさんたちから、いろんなことを学ばせていただいています」

「そうだぞー。佐野君が気にするこたあねえ。わしらは好きでやってんだからよ」

「そうだよ~」


 陸奥さんと戸山さんにも同意されて頭を掻いた。

 三時頃にニワトリたちを呼び戻した。お土産にまたシシ肉と野菜をいただいてしまった。ありがたいことである。

 今日ニワトリたちが獲ったシシ肉の件はまた電話をくれるらしい。そうして運動どうするかなと思いながら山に戻ったのだった。


ーーーーー

レビューいただきました! ありがとうございます!


近況ノート上げました~。

「半年が経ったらしいですよ、奥さん!(誰」

https://kakuyomu.jp/users/asagi/news/16817139558610522299


お時間ありましたら見てやってくださいな~

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