414.そんなにがんばって狩ってこなくてもいいと思う
一頭を運んだら畑のところにおっちゃんたちがいた。天秤棒を持っていたので、イノシシと交換してまた相川さんと山に上った。興奮と若さ故の二往復である。つか、あんまり年寄りに運ばせるのもなぁってやつだ。
やぶを避けていくと遠回りになるってのはわかったけど、それでも運びづらいは運びづらかった。どうにか二頭目もおっちゃんちの側まで運んだら、本山さんが来ていた。娘さんも一緒である。
「昨日、じゃねえな。一昨日の今日とは恐れ入ったよ……」
本山さんが苦笑していた。俺は横を得意げに歩くポチを恨めしそうに見た。いいよな、お前らは倒すだけで。倒すにも技術がいるってことは知ってるけどさ。
本山さんにイノシシの確認をしてもらった。
これが見覚えがあるイノシシだったらニワトリたちはお役御免だろう。俺にも予定がないわけではないから、早く派遣が終わるに越したことはない。
「うん……たぶんこれぐらいの大きさだったと思うんだよな。佐野君、ありがとうな」
「いえ……」
おっちゃんたちがどこまで話したかわからないので俺は曖昧に返事をすることしかできなかった。イノシシを狩るという目的があったとはいえ、勝手に隣の山にニワトリたちが上ったのである。下手なことは言えなかった。
すでに秋本さんには連絡をしていたようで、ほどなくして秋本さんの軽トラが駐車場に入ってきた。
「おー、今日は二頭か。すげえなぁ!」
秋本さんがにこにこしながら言う。処理費用は今回は本山さん持ちで落ち着いたようだ。いつのまにかおばさんも出てきて娘さんと話している。
「内臓はニワトリたちの取り分でいいんだよな?」
秋本さんが確認するように聞いた。本山さんは不思議そうな顔をした。
「もっちゃん、イノシシはニワトリたちが狩ってくれたんだ。ニワトリたちは内臓が大好物なんだとよ」
おっちゃんが説明した。
「あ、ああそうなのか。じゃあ内臓は全部佐野君に渡せばいいか?」
戸惑いながら本山さんが言う。大丈夫かなとちょっと心配になった。娘さんがこちらに来た。
「すみません。父はよくわかっていないみたいなので、イノシシの処分はどうすればいいでしょうか? 教えてください」
「ああ、今もっちゃんにも話したんだがよ、内臓は全部ニワトリにくれてやってほしいんだ」
「はい、それは全然かまいません。えっと、イノシシの肉ってどうなりますか?」
内臓はニワトリたちがゲットできたようだ。つっても解体してみないと病気のあるなしとかもわからないから、まだなんともいえないが。
「ユウコちゃんはどうしたい?」
「うちは……イノシシの肉とか調理しなれてないので、できればまた昨日みたいな形で真知子さんに料理を教わりながら、宴会みたいな形で消費できると助かります」
娘さんがきっぱり言った。
「もっちゃんはそれでいいか?」
「あ、ああ……それでいい」
あまった肉に関してはこちらで分配してもいいという。だがそれにはおっちゃんが待ったをかけた。
「もっちゃん、奥さんと長男に確認してから返事をくれ。だが狩ったのはニワトリたちだから内臓はもらうがな」
「あ、ああ……」
本山さんは戸惑うように言いながら娘さんと一緒に戻っていった。どちらにせよこれから食肉に加工したとしても食べるのは明日以降になるだろう。
「血抜きとかの処理はして冷凍しておくから、方針がわかったら連絡してくれ」
秋本さんはそう言うと、本山さんの娘さんに名刺を渡してイノシシを運んで行った。やっぱり解体なんてしているぐらいだからでかい冷蔵庫なんかもあるんだろう。もし機会があったら見せてもらいたいものだと思った。
「あらあら、うちは全然かまわないけど……決まったらどうするか教えてね。無理に明日に宴会なんてしなくてもいいだから。するにしても明後日ぐらいがいいわ」
「はい、ありがとうございます」
娘さんは本山さんを促して帰っていった。何度もこちらに首を下げながら。
実際どうするのかはわからなかったがとにかく疲れた。そんなに大きくないイノシシだったとはいえ道なき道を進んで運んでくるのは骨が折れた。
「昇平、相川くんもありがとうな」
おっちゃんが晴れやかに笑って俺たちを縁側へ促した。とりあえず休憩だ。
ニワトリたちはボサボサである。どこで何をどうしたらそうなるんだと言いたくなるような状態だった。休憩したら少し直してやらないと。でも今は無理だ。
「ポチ、タマ、ユマ、ありがとな。でも勝手に人の山に入っちゃだめだぞ」
クァーッ! とポチが鳴いた。それは了承で鳴いたのか、それとも気に食わないのかどっちなんだよ?
「まだ遊んでていいぞ。あとで羽とか直そうな」
そう声をかけると三羽共また畑の方へ駆けて行った。また山とか登らないといいんだが。
「山には絶対に上るなよ~!」
クァ~ッ! うるさいとばかりにやけくそな返事が届いた。ちょっと態度悪いんじゃないのかコラ。
「ホント、昇平んとこのニワトリはおもしれえよなぁ」
おっちゃんがガハハと笑う。陸奥さんと戸山さんも笑った。こっちとしては笑いごとではないんだが。
「ほらほら、昇ちゃんも相川君も座って! お茶を淹れるから」
「ありがとうございます」
おばさんに促された。相川さんと作業着の汚れを確認し、ざっと落としてから手を洗って、やっと俺たちは縁側に腰掛けた。飲んだ翌日に作業させられたせいかなんかちょっと頭がぼーっとする。って、まだ午前中じゃないか。
お茶をずず……と啜り、団子を食べたら少し頭がすっきりした気がした。
やれやれである。
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