364.待っている時間も大切なスパイス

 桂木姉妹が買ってきてくれた大福をお茶請けに、お茶をずず……と飲む。うん、大福がうまい。


「和菓子屋で買ってきたの?」

「うん、そう。おにーさんのこと聞かれたよー。リエの大好きな人ーって言っといた!」


 桂木妹がにこにこしながら言う。お茶を噴きそうになった。

 桂木さんを見やると、桂木さんもにこにこしている。ま、他意はないんだろうけどな。


「おー、佐野君モテモテだね~」


 戸山さんと秋本さんに茶化された。


「やめてくださいよ~」


 苦笑して返した。高校卒業したばかりの娘の言葉を真に受けるほど求めてないし。だからといって枯れているわけでもない、と思いたい。


「相川さんのことも聞かれましたけど、知らないって言っておきました」

「ありがとうございます」


 少し距離はあるが、桂木さんが相川さんに報告すると彼は軽く頷いた。少しは目を反らさないで話をできるようになったみたいだった。


「そういやあ、相川君の彼女はいつもどうしてんだ? あんまりこっちにばっか構ってるとフられるんじゃねーか?」

「僕もそれは心配なんだよね~」


 陸奥さんと戸山さんが言う。相川さんは苦笑した。


「彼女は彼女で好きに過ごしてるからいいんですよ~。お土産は持って帰らないとまずいですけどね」

「そうだな。せめてお土産ぐらいはな~」

「それならいいけどね。邪魔してるんじゃないかっていつも心配だよ」

「そんなことはないですよ」


 彼女と目されているのはリンさんだ。リンさんは冬の間は動きが鈍くなって、外出を嫌がると言っていた。だからその分俺が少しフォローしないとなとは思っている。


「そういえばハクビシンって内臓も食べられるんですか?」


 ちょっと気になって秋本さんに聞いてみた。


「食べられるよ~。ただやっぱり寄生虫が怖いから生では食べられないけどね。一昨日預かったハクビシンの内臓は急速冷凍したから、解凍して少し茹でてもらってるよ」

「ありがとうございます」


 ニワトリ用だけどやっぱり生でそのままというのはいただけない。急速冷凍してから-20℃以下で48時間冷やすと寄生虫が死ぬとは聞いている。ただ寄生虫によってはそれでも生きている場合があるから茹でてくれているのだろう。ありがたいことだと思った。

 秋本さんは笑った。


「佐野君が礼なんて言うことはないよ。ニワトリたちはそれだけの働きをしているからね。小屋に住み着いてたハクビシンが七匹もいたってことは、近くの家の屋根裏にも何匹かいたっておかしくはない。見つからなかったらそれでいいけど、もし見つかったら追い出さなきゃいけない。どうしても動物がいるとダニだのなんだのが増えるから、定期的に確認しないとかな~」


 今日の秋本さんは饒舌だった。


「ま、おかげでうちも全体的に屋根裏を確認したんだよ。それでネズミを何匹か捕まえたからね~」

「やっぱりいるんですね」

「ネズミはどこにだっているよ。猫とか、脅威度の高い生き物がいれば捕まえるか食べるかしてくれるだろうけどね~」


 ちょっと考える。もしかしてうちにもいるんだろうか。でも天井から音とか聞いたことはないんだよな……。

 思案していたら秋本さんが先回りしてこう言った。


「佐野君ちは多分いないと思うよ。いたとしても害がない程度じゃないかな?」

「? そうなんですかね?」

「たぶんね~」


 そういうものなんだろうか? よくわからないけどその話はそこで終りになった。

 日が少し陰ってきた。


「あ、ちょっと見てきますね」

「なんか狩ってきたら教えてよ~」

「いやあ……」


 そんなにそんなに狩ってこなくていいと思う。俺は頭をかきかき縁側から下りて駐車場の方へ向かった。相川さんもさりげなくついてきた。


「まだ少し早くないですか?」

「そうですね。早いとは思うんですけど、なんか落ち着かなくて」

「僕もです」


 桂木姉妹と話はするようになったが、苦手なことには変わりがないみたいだ。俺がいない時に彼女たちと話すのは嫌なのかもしれないと勝手に思った。

 駐車場から田畑を見回す。林の方からもまだニワトリたちの姿は見えない。


「なんか……でかいイノシシがこの辺りにいるみたいですね」

「陸奥さんが言ってましたね」


 でかい、というぐらいだから何年も生きている個体なのだろう。そんなのに田畑を狙われたらたいへんだろうと思う。今回は無理でも、またニワトリたちを連れてくる必要があるだろう。ニワトリたちが連日林の中を巡っても出遭わないというのだからやはり山の上から下りてきているんだろうな。


「……難しいですね」

「そうですね」


 ぼんやりとそんなことを言っていたら、太陽がどんどん西の空へ近づいていっているのが見えた。

 やがて、ニワトリたちが戻ってきた。さすがに今日は戦利品はなかった。


「ポチ、タマ、ユマ、おかえり。なんかいたか?」


 三羽ともコキャッと首を傾げた。何もいなかったらしい。

 相川さんが三羽の様子を見て笑いをこらえていた。うん、うちのニワトリは面白いしかわいい。(ニワトリバカ全開)

 そしてニワトリたちも一緒に庭の方へ戻ったのだった。


ーーーーー

本日は一日外出の為、次話も含めて予約更新していきます。よろしくー

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