363.わくわくが止まらない
昼を過ぎてから、タマがポチを連れて帰ってきた。二羽とも羽根があちこちにいってて、いったいどこをどう帰ってきたのかという様相である。
「おかえり~。タマ、ありがとうなー。ポチ、大丈夫か?」
もしかしたら喧嘩とかしてきたのかもしれない。ニワトリってそんなに喧嘩っ早いものなんだろうか。
「ダイジョブー」
「ならいいけど。ごはん、食べるか?」
「タベルー」
「タベルー」
「オヤツー」
ユマにはすでにごはんをあげた後である。だがおやつはほしいらしい。かわいいなと思った。
二羽にはいつもの餌をあげてユマには白菜をあげた。バリンバリンと食べている音はかわいくない。なんでニワトリにこんな鋭い歯が沢山生えてるんだよ。間違いなく先祖返りだよなーと遠い目をした。
食べ終えたところでポチとタマの羽を直し、汚れを落とした。
ふと思い立って相川さんにLINEを入れた。
「今日のメンバーってわかりますか?」
「あれ? 聞いてませんでしたか?」
相川さんは聞いていたようだ。
今回は急きょ桂木姉妹も呼んだらしい。それと戸山さんにも声をかけたそうだ。
「川中さんと畑野さんは?」
「今回は全く関わっていないので話だけだそうです。平日ですしね」
「それもそうですね」
そういえば平日だった。どうも曜日感覚がおかしくなっていて困る。
参加者を聞いたからってなんてこともないが、ちょっとばかり心構えができた方がいい。今度こそニワトリたちを軽トラに乗せて出かけた。
もう二月も下旬になろうしているのにそれほど雪が降ったかんじもない。今年が暖冬なのか、やっぱり地球温暖化の影響を受けているのだろうか。雪は降ったら降ったで困るのだが、ほとんど降らないというのも困るのである。生き物というのは本当に面倒だ。(自分を含む)
陸奥さんちに着いた時、まだ太陽は冬の日差しを田畑に投げかけていた。のどかだなぁと思う。
すでに何台か軽トラが停まっていた。
軽トラを停めてニワトリたちを下ろした。とりあえず挨拶に行こうと、ニワトリたちに「待っててくれ」と言った。庭の方を見ると、縁側で秋本さんたちがお茶を飲んでいた。
「お? 佐野君じゃねえか。ニワトリたちはどうしたんだ?」
秋本さんが俺を見つけて声をかけてくれた。
「こんにちは、ニワトリたちは駐車場の方にいますよ」
秋本さんの隣にいる結城君に会釈をした。
「陸奥さんはどちらに?」
「ビニールハウスの方じゃねえかな? なんか取ってくるっつってたし」
「そうでしたか」
ニワトリたちどうしよう。そう思った時、秋本さんが俺の後ろを指さした。
「?」
振り向くと、ちょうど陸奥さんがニワトリたちに囲まれてこちらに戻ってくるところだった。ニワトリたちは青菜を口に咥えてごきげんである。どうも陸奥さんからいただいたようだった。
「佐野君、ポチも無事合流したんだな~」
「はい、今夜もお世話になります」
陸奥さんはとんでもないと手を振った。
「世話になってんのはこっちの方だ。こんなに頭のいいニワトリは初めてだ。それにイイ子たちだよなぁ」
「ええ、そうですね」
イイ子たちであることは否定しない。なんだかんだいって言うことはしっかり聞いてくれているしな。だからって俺のやることなすこと全肯定なわけじゃない。そこが余計に愛しかった。
「すいません、まだ明るいは明るいんですけど、ニワトリたちはどうしたらいいですか?」
「ああ~、運動させた方がいいんだったか?」
「はい、できれば」
「じゃあ……そうだな。少し暗くなったら帰ってきてくれるか? それなら遊んできてもいいぞ」
ポチが代表してココッ! と鳴き、三羽はツッタカターと林の方へ遊びに行った。
陸奥さんの言うこともよく聞くなー。
「……また何か狩ってきたりとかしませんよね……?」
結城さんがぼそっと呟いた。そんなフラグを立てるのはやめてほしい。
「わっかんねえけどなー。さすがに大物はないんじゃないか?」
陸奥さんが笑って言う。だからそういうフラグはいらないってば。俺は「ははは……」と乾いた笑いをするぐらいしかなかった。
「大きいと言えばイノシシはどうしたよ?」
「さすがに獲れねえな」
「もう山から下りてこないっつーならいいけどな。確かけっこうな大きさなんだろ?」
秋本さんと陸奥さんの会話を聞いて、やっぱりオッ〇ト主を想像した。映画の影響って侮れないな~。
途中で陸奥さんの奥さんが通りがかってお茶を淹れてくれたりした。
「すいません、おかまいなく」
と言ったが、
「若者は遠慮なんてしないのよ~」
と言って戻っていった。お茶がうまい。
そうしている間に戸山さん、相川さん、そして桂木姉妹の乗った軽トラが続々とやってきた。それだけ軽トラが停まると駐車場がいっぱいになる。これに川中さんと畑野さんが加わるとぎゅうぎゅうだ。(今日はもちろん来ない)つか、みんな軽トラだよな。やっぱ便利だもんな。ふと、川中さんが言っていたことを思い出した。
「軽トラって楽なんだけどデートには誘いにくいんだよねえ」
デートに誘う相手がいるのかなと思ったっけ。
そんなことよりハクビシンって七匹だったな。考えただけで腹が減ってきたが、それはそれでどうなんだろうか。
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