359.ニワトリたちが捕まえてきたのは

 爬虫類系の立派な尾を振りながらポチが悠然と戻ってくる。嘴に何かの生き物を咥えて。

 まだ太陽はそこまで低い位置ではないから少し日が陰ってきたかなという頃である。


「ポチ、タマ、ユマ、おかえり。何を獲ってきたんだ?」


 近づいてみるとイタチのように見える。タヌキではなさそうだった。陸奥さんが近づいてきた。


「ポチ、ちょっと見せてくれるか?」


 ポチは陸奥さんの前に獲物を置いた。それはすでに絶命している。相変わらずその強靭な尾で狩ったようだった。


「ふむ……」

「陸奥さん、これ多分ハクビシンじゃないですか?」


 相川さんが生き物の顔を見て言う。


「ああ、確かにそうかもな」


 タマもまた置いたかと思うと俺の作業着に噛みついた。


「うわっ! タマ、どうしたんだっ?」


 そのまま引っ張られたことで、俺はたたらを踏んだ。それでもタマは引っ張るのを止めない。作業着に穴が空いたようだった。


「ついてこいって言ってるんじゃないか?」


 陸奥さんの言ったことが正しいだろう。


「タマ、わかったから一度放してくれ。歩きにくい」


 タマはしぶしぶ放してくれた。そしてトトトッと元来た道へ向かい、振り向いた。ユマも捕まえていたらしくその場にハクビシンらしきものを下ろした。


「これ、どうします?」

「ちょっと声かけてきます」


 相川さんが家の方へ走っていき、お嫁さんの節子さんを呼んできた。節子さんは軍手と大きなポリ袋を持ってきて、手際よくハクビシン? を三匹袋に入れた。


「小屋に運んでおけばいいですか?」

「できれば冷やしていただけると助かります。秋本さんに連絡しましょう」

「おう、そうだな」


 相川さんが秋本さんに電話をする。その間に俺と陸奥さんはニワトリたちに先導されるままに着いていった。


「ええ?」


 それは林の手前にある小屋だった。朽ちているように見えるから全然使っていないのだろう。陸奥さんがあちゃあと顔を拭った。


「……住みつかれちまったみてえだな……どうやって捕まえるか……」

「中にいるんですかね?」

「そりゃあ、ここに連れてきたってこたあそういうことなんだろ?」


 タマが陸奥さんに近づいてすりっとした。声を出さない方がいいってことなんだろうけど、俺にはそんなことしてくれたことあったっけか? 内心ちょっとむっとした。

 それよりも……さて、どうしたものか。


「追い出すのは簡単なんだがな……こんな近くに住み着いてるってなると他の家に屋根裏にも住み着いてる可能性がある。こりゃあうちも燻さねえとだな……」

「どうします? とりあえず捕まえられるだけニワトリに捕まえさせますか? それとも一網打尽を目指します?」

「とりあえず捕まえられるだけ捕まえてもらうか。あとはこの辺の家に知らせて全戸一斉に燻すことにしよう」

「わかりました」


 相川さんが追い付いてきた。


「ここですか?」

「はい、とりあえず戸を開けます。ポチ、タマ、ユマ、出てきたら倒せるだけ倒してくれ。逃げたのは追えそうもなかったら追うな」


 そっと小屋の戸に近づく。ニワトリたちは少し離れた位置に、お互い距離を取って立っている。狩りに慣れているような配置だった。


「開けます」


 取っ手をおもいっきり引っ張った。

 その途端バッ、バンッ! と派手な音がしたと思ったら、


「え」

「あ」

「おいっ!」


 戸がもうだめになっていたのか、蝶番が壊れて俺は戸の下敷きになった。そしてシュシュシュッと音がした。なにか小屋の中から出てきたような音だった。

 バンッ! バンッ! バンッ! と何かを打つような音が何度も背後からする。全てではなくても、きっとニワトリたちが倒してくれたに違いなかった。


「佐野さん、大丈夫ですか!?」

「す、すみません……」


 相川さんが倒れてきた戸を持ち上げて助けてくれた。俺は鼻を打ったぐらいであとはなんともない。後ろに倒れたからびっくりしただけだ。戸の下敷きになったと言っても元々そんなに厚さはなかったようだった。

 俺はバツが悪くなって謝った。


「佐野君大丈夫かー? ニワトリたちはすげえなー」


 陸奥さんののん気な声がして背後を見た。

 三羽のでかいニワトリと、その周りに倒れている生き物。

 なんていうか、すごい光景だなと思う。


「全部捕まえたのか?」


 立ち上がる。どこも痛みはないから大丈夫だろう。倒れているのは4匹だった。やっぱりこの小屋とか、周りで繁殖していたようだ。


「……けっこうな数ですね。近くに果樹園とかありましたっけ?」


 相川さんが困った顔をして聞く。


「うちじゃなくて、あっちの方でなんか育ててる家があるはずだ。追い出されてこっちに流れてきたのかは微妙なところだな」

「ですね」


 ニワトリたちはお手柄だ。


「今夜か……遅くとも明日の夜は招集をかけるようだな。佐野君、明後日の夜でいいか?」

「ええ、うちはかまいませんよ」


 ニワトリたちにも明日のそのまた次の日だと伝えると、ココッ! と返事をした。宴会よりも駆除を優先してほしい。

 そうして相川さんが持ってきてくれたポリ袋にハクビシンを入れて、陸奥さんの家に戻ったのだった。


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コメント欄が賑やかで嬉しい限りです(笑) いつもありがとうございます。

300万PV記念SSは今日明日で上げる予定ですのでまったりお待ちくださいませー

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