354.昼寝ができる生活は平和だと思う

 昼食の後で山の木の剪定の仕方などをネットで検索したけど、調べ方が悪いのかやっぱりよくわからなかった。

 密集しているところは太陽の光が届かなくなるから、密集しないように切るんだよな? 桜の枝は切ったらいけないんだよな? いろいろ難しい。

 うがーっと叫んでもうまくいきそうもなかったので、昼寝することにした。寝て起きたらいいことがおこるかもしれない。人はそれを現実逃避という。ほっとけ。


「タマ~、俺は昼寝するから遊んできていいからな~」


 コタツに入って寝転がると、土間から届く位置にあったのか手をつつかれた。


「タマ、痛い……」


 家の中にいるんだからいいじゃないか。


「おやすみ~」

「オヤスミー」


 タマは寝ないんだろうけど言ってもらえるのが嬉しいなと思いながら意識を手放した。

 そういえば畑は大丈夫かな。ビニールかけてあるから大丈夫だろうけど、明日は見に行かないと……そんなことを思いながら目を覚ました。


「……あ~、疲れた……」


 なんで寝たはずなのに疲れてるんだ、俺? 腕をぐぐーっと伸ばした。ちょっと家の中が暗い。辺りを見回すと、タマが土間に座って丸くなっていた。鳥が休んでる姿ってかわいいと思う。なんかフォルムがまるっこくてさ。それはうちのでっかいニワトリたちも同様だ。


「タマ、おはよー」


 背中を向けているからその背中に声をかけたらタマはびくっとした。もしかしたら一緒に寝てたのかな。でも寝姿見られるの、タマは嫌がるんだよな。


「タマはずっと起きてたのか? 俺、すっかり寝ちゃったよ」

「……オキテター」

「そっか。退屈だったよな、ありがとうな」


 俺はタマが寝ていたのを気づかなかったフリをした。ここでからかうと前回の二の舞になりそうだったからだ。え? 前回どうなったかって? すんげえひどい目にあって、タマがポチとユマに怒られてたいへんなことになってたよ。ニワトリにだって嫌なことはあるものだ。(281話参照)

 冷蔵庫の野菜室から小松菜の葉を出して洗う。水は相変わらず冷たい。


「タマ、冷たいけど食うか?」


 一応手で揉んで温かくはしたつもりだけどどうだろうか。


「タベルー」


 バリバリとありえない音を立ててタマは小松菜を食べた。ニワトリにそのギザギザの歯とか聞いたことないっす。うちのニワトリたちマジぱない。

 時計を見るともう4時近かった。


「そろそろ帰ってくるかな……」


 上着を着て家の外へ出た。

 太陽が西の山にかかっている。周りに山が多いからここは暗くなるのが早い。タマも当たり前のように外へ出て、適当に地面をつっついていた。

 そのうちに羽が乱れたポチとユマが帰ってきた。


「おかえり」

「タダイマー」

「オカエリー」

「タダイマー」


 でっかいニワトリが爬虫類系の立派な尾をフリフリしながら走ってくる。さすがにぶつかられたら被害が大きいのでそっと家の中へ入った。ヘタレと言われても俺は自分の命の方が大事だ。

 お湯をつくり、タライを出し、すのこを出し、とニワトリたちを洗う準備をする。ニワトリたちは帰ってきてすぐ家の中へ入ったりはしない。体力が余ってしょうがないぜとばかりにそこらへんを走っている。ユマがタマと交代したらしく、タマがツッタカターと走っていた。うん、運動はした方がいい。夜眠れなくなったらたいへんだし。夏の間なら外へ放り出すんだが、冬はそういうわけにはいかない。そんなことしようとしたらきっと俺の方が叩き出されそうだ。

 タライの準備ができたところでニワトリたちを呼び、ざっと洗った。手早くやることも慣れてしまった。作業効率がいいとは言い難いけど、もたもたしてはいないと思う。

 そうしてやっとニワトリたちを家の中に入れた。その頃にはもう太陽は隠れてしまっていた。

 夕飯の支度をしながら、今日も平和だったなと思った。

 平和が一番だ。



 翌日はまた陸奥さんちにニワトリたちを連れて行った。


「今日明日で一旦終りにしてもいいだろう。ただなぁ……おそらくイノシシがいるはずなんだよ。山の上にいるかもしれねえんだけどな」


 陸奥さんが苦々しい顔をして林の向こうを睨んだ。


「国有林なんでしたっけ」

「それも特別保護区なんだよな……だから入るわけにゃあいかねえんだよ」

「管理人とかいるって聞きましたけど……」

「向こうで狩ることはあっても入っていいとは絶対に言ってくれねえだろう」

「それはそうですよね」


 別にこちらとしては乱獲したいわけではなく、被害があるから狩りたいだけだ。そうは言っても向こうも管理しているわけだからはいそうですかと入れてはくれないだろう。なかなか難しい問題だ。


「暗くなる前に帰ってこいよ~」


 と声をかけて三羽を林へ送り出した。それなりに広い林ではあるが、三日もあれば回りきるだろう。だから林に定住していなければ、あとはその向こうの山から下りてきたとしか考えられないのである。


「そういえば、先日解体していただいたアイガモ……」

「越冬して野生化してた奴だろ? 困るんだよな~。稲が穂を垂れる時期になるとアイツらそれを食い始めるからよ。野生化されると面倒なんだ」

「いろいろ難しいんですね」

「ああ、そんな簡単にできることでもねえよ」


 この時期の畑は主にビニールハウスと、寒冷に強い野菜が植わっているだけである。それも雪が降ったらそのままにしておく。雪の下に残された野菜は甘みが増えるらしい。

 今日はおっちゃんちに顔を出すことにしたので、ニワトリを任せて陸奥さんの土地を出た。

 今日はただの定期的な顔出しである。変わりがないといいな~と思いながら軽トラを走らせた。


ーーーーー

近況ノート書きました。

「五か月が経ちました~山暮らし連載その他雑感」

https://kakuyomu.jp/users/asagi/news/16817139557447302896


いつも応援ありがとうございます。

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