336.うちのニワトリはとてもかわいい
暗くならないうちにとニワトリたちをざっと洗う。ユマは後で一緒に風呂に入るからいいけどポチは家の前でだけだから尾は念入りに洗った。けっこうがしがし洗ったつもりなのだが、鱗があるせいなのか痛みうんぬんはないようだ。この尾ってホント、どうなってるんだろうな。鎧みたいなものなのかもしれない。
「シカってどっから来たんだ?」
「アッチー」
「コッチー」
「ソッチー」
「お前らなー……」
ギャグじゃないし、タマが狩ったわけじゃないだろう。ノリがいいんだか悪いんだか。つい笑ってしまった。うちのニワトリたちは本当にかわいくて楽しい。
よくつついてくるけど、噛まれたことはない。あ、でももっと小さい頃はあったか。それこそ、まだニワトリとヒヨコの中間ぐらいの時に噛まれて血が出たんだよな。あの時はびっくりした。ニワトリたちも驚いたようで、それ以来噛まれてはいない。尾で攻撃もないが、跳び蹴りはタマがするし、上に乗られて重いし、食べ物は跳び散らかすし、ウンチはそこかしこでするけど自分のウンチは嫌いだからすぐに片付けろって怒るし……あれ? なんか飼ってるデメリットっぽいのも意外とあるな。
でもかわいいんだよなー。(ニワトリバカ全開)
わかってくれとは言わない。俺がうちのニワトリたちのかわいさをわかっていればいいだけだ。
さっそく何ニヤニヤしてんのよッ! とばかりにタマにつつかれた。なーんーでーだー。
この作業着はかなりしっかりしているから穴は空かないが、薄いやつだと穴が空きそうで怖い。とはいえタマも手加減はしてくれているようだ。
冷めた湯を排水溝に流し、ニワトリたちを家の中に入れる。オイルヒーターはつけっぱなしなので暖かさに触れるとニワトリたちの顔も緩むのだ。
夕飯をあげて、TVをつけ、少し時間を開けてからユマと風呂に入った。天気予報の通りなら明日明後日は晴れるようである。今年は雪が少ないと相川さんが言っていた。
「佐野さんて、晴れ男なんですかねー」
「晴れ男ってそういう意味じゃないでしょう~」
晴れ、といったらうちのニワトリたちのような気がする。もしくはリンさんの雪への呪いが今頃効力を発揮したか。って、どんだけ雪嫌いなのかと思うじゃないか。うん、ふざけるのは大概にしよう。
週間天気予報では後半が雨か雪の予報だった。雨か雪ってなると山は確実に雪だろうな。雪かきの道具の点検をしっかりしておかなくてはいけない。
翌日はポチとタマが遊びに行った。俺は一通り家事をしてから枯れ枝集めに専念した。ユマもちょっとした枝を咥えてきてくれたりしてお手伝いしてくれた。
「ありがとう。ユマはイイ子だな~」
何度も羽を撫でた。もしかしたら一人で取った方が効率はよかったかもしれないが、ユマが手伝ってくれたということが重要なのだ。三つぐらい束が作れるほど集まったので、今日はそれでしまいにした。立ち上がった時ちょっと腰が痛かったのが問題だと思った。
そんなかんじでその日の午後もまったり過ごした。
んで、シカ肉宴会の日である。川中さんが和菓子を買ってきてくれるというので、お金を後で払うからと相川さんと共に便乗させてもらうことにした。行ってもいいんだけどあそこの娘さんの、相川さんと俺を見る目がなんか怖かったんだよな。相川さんは若い娘さんに会いたいとは一切思わない人なので、川中さんが買ってきてくれるならそれで、と特に逆らわなかったようだ。行きたい人が行ってくれるのが一番だと思う。
「夕方に陸奥さんちに着くように行くから、早めに帰ってくるんだぞ!」
出かける日なのでポチとタマにそう言って送り出した。
「ワカッター」
「ワカッター」
二羽はいい返事をしてツッタカターと出かけて行った。落ち着かないということもあって、動かなければいられないようだった。俺もだけど興奮しすぎである。
ユマもなんとなく落ち着かなさそうにトテトテしていたが、俺の側を離れるというのはないらしい。今度うちのニワトリたちを安心させる為にもしっかり話し合わなければいけないなと思った。
宴会となると泊まりになるので荷物のチェックをし、ニワトリたちの明日の朝用の餌をクーラーボックスに入れた。人んちでお世話になると思うと、ニワトリたちをどうするか考えなければいけない。幸い陸奥さんちも土間は広いのでニワトリたちは夜そこで過ごしてもらうことになっている。
「寒いのに土間で大丈夫か?」
と陸奥さんにはかえって心配されてしまった。でもうちのニワトリたちを見ていると雨風が防げればいいみたいなんだよな。おっちゃんちの土間でも普通に過ごしていたし。じゃあ自分の部屋はとんでもなく寒いのに、ニワトリたちのいるところにはオイルヒーターまでつけてやってるのはなんでかって? 愛だ、愛。愛は全てを救うんだ! どっかで聞いたフレーズだな……。
夕方になる前にポチとタマがちゃんと戻ってきた。ゴミや汚れなどをざっと取ってから向かうことにした。
陸奥さんちでの宴会は久しぶりだ。あの時はイノシシだったっけ。
そんなことを思いながら軽トラを発進させた。
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