335.そういったこともよくある話で
昼はシシ肉を解凍してタマに出した。もちろん少し温めて食べやすい温度にしてからである。
冷たいのをそのまま出しておなかが冷えたらたいへんだし。タマはいつもの餌と共においしそうに食べた。
また何日か空けてから回るつもりのようだが、相川さんちの裏山にもう行かないのかと改めて思った。それなのにユマに譲るって、タマは相当えらい子なのではないだろうか。(ニワトリバカ全開)ご褒美か、ご褒美……と思ったけど何も浮かばなかった。また今度考えることにする。
午後のまだ早い時間だが、相川さんからLINEが入っていた。なんだろう、と思ったら。
「ええええ?」
俺は目を疑った。
イノシシは見つからなかったらしいが、シカを捕まえたという。
「シカかぁ、シカ……」
よかったなと思った。でもどういう経緯で見つかったんだろう。なんとなく紛れ込んだ形なのか、それとも群れのようなものを見つけたのか。ニワトリたちを送ってきてくれる時に教えてくれるだろうとはやる気持ちをどうにか押さえた。
それにしても、シカと見たらステーキとか思い浮かべる辺り随分毒されてきたなと思う。別に悪い意味ではないけど。
枯れ枝をまとめて駐車場の側に運んだ。炭も近々作るって言ってたしな。いろいろどうするのか聞いておかないと。
俺が落ち着かないせいなのか、タマもなんとなく落ち着かない様子でぐるぐるしていた。立ち止まってはコキャッと首を傾げたりしている。でもシカを捕まえたみたいだとかは伝えなかった。相川さんが来ればわかることだからだ。
でも俺がなんかそわそわしているのは察しているようなので、俺が落ち着かないとダメだなと改めて思った。
そうしているうちにまたLINEが入ってきた。シカを取りに秋本さんが来てくれたのでニワトリたちを送ってきてくれるという。今度の宴会は陸奥さんちでやるそうだ。
「また後で詳しい話はします」
「ありがとうございます。お待ちしています」
そう返した。
それからポチとユマが帰ってくるまでに三十分もかかっただろうか。その間もなんとなくそわそわしていたせいか、意味もなくタマに二回ぐらいつつかれた。なんでだ。いや、なんとなくわかるけどすっごく理不尽だよな。
相川さんの軽トラが入ってきた時はほっとして、つい顔を綻ばせてしまった。
「今回もありがとうございました」
相川さんが晴れやかな顔で言う。助手席にはユマが収まっていた。ポチは荷台から当たり前のようにバサバサと羽を動かしながら下りてきた。二羽とも少し汚れていて、その爬虫類のような尾も汚れていた。つまりそういうことらしい。
ううう……やっぱり今回もうちのニワトリたちが活躍したのだろうか。喜ばしいことなんだろうけど、イノシシとかシカを狩るニワトリってなんなんだよ。怪獣大決戦かよ。これでクマまで出てきたらどうすればいいのだろう。
「相川さん、お疲れ様でした。ニワトリたちのお守りをしていただいてすみません」
「いえいえ。ポチさんとユマさんが気づいて先回りしてくださらなかったら捕まえられませんでしたから。お世話になっているのはこちらの方ですよ」
にこにこしながらさらりと相川さんが答えた。どんどん狩りの仕方が洗練していっているらしい。そんなこと知りたくなかったよ、ママン(誰)
「それで、一応今日でうちの裏山を回るのは終えるんですが、また三月ぐらいに様子を見たいとは思っています。宴会は明後日の夕方陸奥さんちで行いますので是非一緒に来てくださいね」
「はい、わかりました。いつもありがとうございます」
相川さんは頭を掻いた。
「いやぁ……自分たちがどれだけニワトリさんたちのサポートありきで動いているのかよくわかります。人間楽な方に流れるんだから困ってしまいますよね~」
「まぁ……猟犬とか連れて狩りをする方もいらっしゃるって聞きますから、別におかしなことではないと思いますけど……」
実際その方が楽だろうし。それにうちのニワトリたちは嫌がってないしな。猟犬ならぬ猟鶏ってところがちょっと引っかかるぐらいで。
闘鶏ってのもあったな。今は日本では禁止されてるんだったか? 鶏自身が好んで闘っているならいいけどそうでなければひどい話だとは思う。今度そこらへんも調べてみようと思った。
「……そう、言われてみればそうですね。猟犬と一緒にしたら双方に失礼な気はしますが……」
うちのニワトリじゃ待てと言ったところで止まらないしな。訓練してうんぬんっていうよりかなり気ままだ。
「今回も内臓のほとんどはニワトリさんたちに差し上げる予定ですが、その……」
「ええ、病気の個体だった場合は早めに連絡ください。一頭だけでいたんですか?」
「なんとなく……更に裏の山から入り込んできたかんじではあったですよね。だからうちの山自体には今のところいないようにも思えます。また三月になったら調査はするつもりですけど」
「ああ……その月その月で違うかもしれませんよね」
動物の生態うんぬんといってもこちらが把握しているのはごく一部だ。もしかしたら観察しているうちに新しい発見があるかもしれない。
「そうだ。枯れ枝を集めておいたんですけど、持って帰られますか?」
「助かります。薪は十分集めてあるつもりなんですけど、狩りをしているとおろそかになってしまうので」
相川さんは嬉しそうに枯れ枝の束を持って帰っていった。
「また何かあったら連絡します。ポチさん、タマさん、ユマさん、本当にありがとう」
相川さんはうちのニワトリたちにも丁寧に礼を言って帰って行った。
「最終日に何か獲れてよかったな」
「ヨカッター」
「ヨカッター」
「ヨカッター」
全会一致だった。(なんか意味が違う気がする)
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