316.どーやって狩ったとか教えてくれなくて大丈夫です

「イノシシとシカだって? 大猟じゃないか! いや~、むっちゃんやるなぁ~」


 秋本さんがニコニコしながらやってきた。今回も結城君と一緒に来てくれたようである。


「おいおい、わしの功績じゃあねえ。ここにいる全員がチームだぜ」


 陸奥さんがまんざらでもなさそうに答えた。なんかどっかで聞いた科白だけどなんだっけ?


「シカは途中の川に沈めてきたので一緒に行きますね」


 相川さんがポチと一緒に秋本さんたちを案内して出かけていった。タマはもう狩りはしたのでどうでもいいようだ。ユマと一緒にそこらへんをつついている。もう少ししたら洗ってやった方がいいだろう。


「そういえば途中の川ってどこらへんにあったんですか?」

「佐野君ちの裏山側だな。どうもその水を飲みにイノシシだのシカだのが来ていたようだぞ」

「裏山にも川があったんですか」

「ああ、その川が東の土地の方に一部流れていたみたいだな」


 やはり水場というのは大事だ。それを求めて裏山と東の土地の境を動物が行き来していたらしい。


「それが動物を増やすのにも一躍買ってたんですね……」

「そういうこったな。おかげで裏山の東側は木がうまく生えてないところもあったぞ。ありゃあシカが木の芽を食べ過ぎてるんだろうな」

「うわあ……」


 見た目はかわいいかもしれないけどやっぱり害獣には違いない。


「そういえば陸奥さんの土地の林、でしたっけ。あちらにも出るんですか?」


 陸奥さんは苦虫をかみつぶしたような顔をした。


「あそこはよほど奥に入らねえと銃が使えねえんだよ。だから罠は設置してあるんだがなかなかかかるもんじゃねえんだよな。で、だ」


 なんとなく言われることの予想がついてしまった。


「佐野君、ニワトリたちを何日か貸してくれ!」

「……即答はできないので、聞いてみます……」


 うちのニワトリ大人気である。そろそろ日が暮れるかなという頃に相川さんたちが戻ってきた。頑丈そうな枝にシカをくくりつけて。ちなみにイノシシの血抜きは途中の川でしてきたというので、うちの近くの川に置いておいた。うちの中に入れるのはさすがに虫とかが怖いので。イノシシは子どもと大人の中間ぐらいの大きさのを三頭捕まえたようだった。それだけでもすごいことである。

 さて、メインはシカである。角も立派ななかなかの個体だった。


「いや~、このクラスはすごいね。銃を使った痕もあるけど、この辺のズタズタになったところなんか……」

「あ、いいです。俺は聞かないんで」


 秋本さんが運んできたシカについて話し始めたがご遠慮願った。だってその傷絶対うちのニワトリがやったっぽい。だからうちのニワトリはなんなんだよお。


「佐野く~ん、いいかげん現実を見た方がいいぜ~」


 わかってる。そんなことはわかっているのだ。うちのニワトリたちの尾がやけに汚れているとか確認しているから理解はしている。それでも聞かされると聞かされないのでは大違いだ。というわけで秋本さんの揶揄は無視してポチの尾を洗った。うん、このトカゲっぽい尾って勢いよく当たったらめちゃくちゃ痛いよなきっと。


「じゃあこのシカは土曜日にゆもっちゃんとこへ持って行けばいいのか? イノシシは明日麓まで持ってくるよ」

「ああ、ゆもっちゃんには連絡してあるから大丈夫だ」


 いつのまに。


「明日はこの山の麓まで来るからよろしくな~」


 もう時間も遅いので、秋本さんたちがシカやイノシシを運んでいく際にみんな帰っていった。

 帰る時に陸奥さんと戸山さんが、


「あー、いてえ……今頃筋肉痛か……」

「二日後に来るとかやだねえ」


 と言っていた。本当に二日後に筋肉痛がきたらしい。忘れた頃にというヤツなんだなと怖くも思った。そこらへんのメカニズムってどうなってんだろうな。相川さんはピンピンしている。やっぱり運動量が違うんだろうな。俺ももっと動かなくては。

 明日は秋本さんが午後にはイノシシの肉を持ってきてくれるというので、それから分けることにした。内臓は明後日おっちゃんちにシカと一緒に持ってきてくれるらしい。急速冷凍しておいてくれるというのだから助かる。ありがたいことだ。


「ポチ、タマ、ユマ。明日はイノシシの肉は来るけど内臓は明後日だからな。明後日はおっちゃんちに行ってシカを食べるからな。わかったか?」

「ワカンナーイ」

「ワカッター」

「ワカンナーイ」

「……タマ、ポチとユマに説明してやってくれ……」


 どう説明したらいいのかわからない。つか、人に話すようにしゃべってる俺も悪いんだけど。


「ワカッター」


 そういえばタマも本当にわかってんのかな。


「明日は内臓はないぞ。明後日、おっちゃんちに行ったらある。わかった?」

「ワカッター」

「ワカッター」

「ワカッター」


 短く言い直したら今度はみんなわかったらしい。よかったよかった。

 あ、内臓はないぞ、ってのはダジャレじゃないから。別に狙ってないから。ほら、ニワトリたちもわかってないし。誰にともなく言い訳をしながら、豚肉の生姜焼きを作って食べた。

 明日は狩りはお休みらしい。みんなにはゆっくり休んでもらいたいなと思った。

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