306.飲んだ翌日はやっぱ梅茶漬けが定番です
……今回もそれほど飲まなかったので頭は大丈夫だった。ただ、意外と揚げ餅がおいしくて食べすぎてしまったらしい。起きたら胃が少しもたれていた。
「……餅は危険だ……」
布団から起き上がってうなだれる。でもあの程度でもたれるって、俺の胃はそんなに弱くなっているのだろうか。
「佐野さん、起きていらしたんですか。おはようございます」
先に起きていたらしい相川さんが呼びにきてくれた。今日も朝から爽やかである。
「……おはようございます。胃薬ってありますか?」
「ああ……ありますよ。佐野さんでもなかなか回復しないものなんですねぇ」
相川さんは先に胃薬を飲んだようだった。布団を畳み、顔を洗って玄関の横の居間に顔を出すと、おっちゃんが新聞を読んでいた。
「おはようございます」
「おお、昇平。起きたか。卵もらったぞ」
「どうぞどうぞ」
おっちゃんの前にはベーコンエッグがあった。タマとユマの卵にしてはサイズが小さいなと思ったけど、卵を炒めて一個を二人で分けたらしい。
「昇ちゃん、おはよう。ベーコンエッグ作るわね。相川君と分けて食べてちょうだい」
「おはようございます。ありがとうございます」
いつも通り梅茶漬けをいただき、ベーコンエッグをいただいた。うん、うちのニワトリたちの卵は最高だな。
「……本当に濃厚でおいしいですよねぇ。ユマさんたちみたいなニワトリって他にいるんですかね?」
相川さんが首を傾げながら言う。でっかいニワトリってブラマとかは聞いたことあるけどどうなんだろうな。
「突然変異っぽいがなぁ……だが三羽同時となるとどうなんだろうな。やっぱでかい種の親鳥がいたのか」
「どうなんでしょうね」
鶏が先か卵が先か、意味合いは違うけど気持ち的にはそんなかんじだ。でっかい親鳥がいたとしたら、それってどこまで大きくなるんだろうな? タマとユマはポチほどはでかくないけどやっぱそれなりに大きいし。しかも尾が爬虫類系だし、ってやっぱ羽毛恐竜なのでは?
「……おはよう」
「おはようございます~」
「……おはようございまーす……」
陸奥さん、戸山さん、川中さんが起き出してきた。畑野さんは朝方帰っていったらしい。秋本さんについては結城君が飲んでいなかったので昨夜のうちに帰って行った。今時奇特な若者よね~なんておばさんが言っていた。本人はあまり酒は好きじゃないようなこと言ってたっけ。
「真知子さーん、卵ないの卵。佐野君ちの」
川中さんがさっそく言っている。
「やだわ~、早い者勝ちに決まってるじゃないの~」
陸奥さんと戸山さんがあからさまに落胆したような顔をした。まぁまた機会があったらというところである。
当然のことながらニワトリたちはとっとと朝食をいただいて畑に駆けて行ったそうだ。おっちゃんちの畑もけっこうな広さはあるんだけどうちの山に比べれば当然狭いわけで。お昼をいただいたら帰ろうかなと思った。ニワトリの運動不足っていうよりユマの運動不足が心配なんだよな。今のもふふわ加減は冬毛のせいだとは思うけど。
つか、冬毛の動物ってかわいいよなー。見た目もこもこしてて。ん? 羽は冬毛っていうのか? 羽毛っていうぐらいだからいいのか。
「明日、は休みでいいか。祝日だしな。佐野君、明後日からまた回らせてもらっていいか」
陸奥さんが言う。そういえば月曜日は成人の日だったか。どうも毎日が日曜日な生活だから祝日とかがわからなくなっている。
「はい、よろしくお願いします」
「ん? なんだなんだ? もう昇平んとこを回んのは終わったんじゃあねえのか?」
おっちゃんが不思議そうな顔で聞いた。
「昨夜のイノシシは佐野君の山で獲れたんだけどよ、裏山から東の土地に向かってイノシシの足跡とシカを見つけたんだよ。桂木の嬢ちゃんから許可をもらったからうまくすりゃあシカも獲れるしな」
「そりゃあいいな」
陸奥さんの説明でおっちゃんが笑顔になった。そういえばシカを食べたいようなことおばさんが言ってたな。うまく捕まえられればいいんだが、そういえば桂木さんの土地って裏手は平地が多いからシカが多いようなこと言ってたっけ。一頭ぐらい捕れるといいな。
あ。ドラゴンさんはどうしているんだろう。
勝手に東の土地に入って怒らないかな。
「ちょっと桂木さんに確認したいことがあるのでLINEしますね」
断ってから桂木さんにLINEを送った。
「タツキさんて冬眠してるみたいだけど大丈夫? 勝手に土地入っても問題ない?」
「ああー……明日確認しに戻ります。雪でたいへんそうだったらヘルプしてもいいですか?」
「役に立つかどうかは微妙だけど、いいよ」
とすぐ返ってきたLINEに返信した。
「相川さん、明日なんか予定ってあります?」
それで即相川さんを頼ってしまう俺、情けない。
「どうかしましたか?」
「明日桂木さんが山の様子を見に戻ってくるらしいんですけど、全く手入れしていないので山道が通れるかどうか不安みたいなんです。だからヘルプ求められた時に対応できたらなって」
「ああ、そういうことですか。僕は特に何も予定はないのでかまいませんよ。あ、でもちょうどN町に買い出しに行く予定だったので、ついでに迎えに行きますか?」
「それもいいかもしれないですね。あ、でも乗せるところがないですね」
お互いに。まぁでも買物に行ってその帰りに一緒に連れて来るなら(もちろん車は別だ)、こっちがやきもきして待っている必要はないからいいかもしれない。
「じゃあ、迎えに行く時間を決めますか」
そんなやりとりをしていたら川中さんにじーっと見られていることに気づいた。
「? どうかしました?」
「……いいなあーって思っただけだよ。僕も山買えばよかったなーって」
思わず相川さんと苦笑してしまった。勤め人が一人で山を買って暮らすのはなかなかたいへんではないだろうか。陸奥さんと戸山さんがなんともいえない表情をしていたのが印象的だった。
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