307.久しぶりに町へ足をのばしてみた

 ……まーでも俺もなんか崇高な思いがあって山買ったわけじゃないし。

 崇高どころか現実逃避する為に買ったんだよな。ちょっと落ち込んだ。

 おっちゃんちでお昼ご飯をいただいてから山に戻った。残ったシシ肉は秋本さんに多めに渡して解体費用に充ててもらい、残りはみんなで分けた。内臓など、うちが多めにいただいてしまって恐縮した。


「佐野君の山で獲れたものなんだから佐野君が量を決めてくれていいんだぞ?」


 そんな俺に、陸奥さんは不思議そうだった。でも俺が山の中を一緒に巡ったわけじゃないしな。基本はニワトリたちの餌の為だと割り切ろう。

 山に戻ったらさっそくポチとユマがタシタシしていた。


「あれ? 今日はユマなのか。暗くなる前に戻ってくるんだぞー」


 許可を出したら二羽共クラウチングスタートをきるようにツッタカターと駆けて行った。やっぱり運動不足だったらしい。悪いことをしたなと思った。


「あ、タマも遊びに行っていいからな?」


 どうせ今日は後は片付けぐらいしかしないし。そう言ったら軽くつつかれた。なんでだ。

 片づけをしてから家の表に出て辺りを見回す。今日もなかなかに空気が冷たい。なんていうか、山の下とは空気感が違うのだ。

 畑を見ると、小松菜がそろそろ良さそうだった。この寒さのなかよく育っているよなと思う。もちろんビニールは一部かけてあるけどさ。寒いせいか成長は遅い。それでも新鮮な野菜が食べられるのはありがたいことだと思う。


「明日の朝採るかな」


 今日はもう店じまいだ。


「タマー、俺昼寝するからなー」


 元家屋があったところにいるタマに声をかけて、俺は居間で昼寝をすることにした。明日は重労働だと思った方がいい。

 明日は午前中にN町に向かい、買物をしてから桂木さんと合流してこちらに戻ってくることにした。桂木妹は明日も教習があるらしい。仮免は取れたので路上教習だ。さぞかし冷や冷やしながら運転していることだろう。

 で、夜のうちに明日持って行くものを軽トラに積んでおくことにした。

 雪が残っていることを想定してスコップが必要だと思う。残っているとしたらもうカチカチの氷になっているはずだ。とても箒なんかでは掃けない。そうなってくるとあとやることはスコップで割っていくぐらいである。


「明日桂木さんちに行く予定だけど、行くか?」

「エー」

「イクー」

「イクー」


 今回はポチが留守番らしい。


「じゃあタマとユマな。先にN町行って、買物終えてからなんだよな……。どうすっかなー」


 おっちゃんちに二羽を置いてから、というのも時間のロスがある。桂木さん、相川さんに相談したら、いつも買物をしているスーパーの側の駐車場で桂木さんは待っているという。


「タマちゃんとユマちゃんの相手、しておきますね!」

「いいの? まぁ二羽がなんかやらかさないか見ててくれればいいけど」

「大丈夫です! 久しぶりに会えるの嬉しいです!」


 ということで桂木さんが駐車場で二羽を見ていてくれることになった。助かるなと思った。

 翌朝である。いつも通り朝食を準備して食べて、食べさせてポチを見送ってからタマとユマを軽トラに乗せて出かけた。行く時は荷台にタマが乗っているけど、駐車場についたら相川さんの軽トラの助手席にユマが乗り、タマがうちの軽トラの助手席に乗るらしい。確かに幌があるとはいえ荷台じゃあんまり安定しないしな。ちなみに、タマに相川さんの軽トラに乗るかどうか聞いたら思いっきりつつかれた。だからどんだけ大蛇嫌なんだよ。リンさんが乗ってた場所には乗りたくないって……。

 相川さんと合流してN町に向かい、いつもの駐車場に着くと桂木さんが先に着いていた。確かに町の方がところどころ雪が残っているように見える。こちらは雨が降らなかったようだ。そういうこともあるのだなと思った。


「明けましておめでとうございます! 今年もよろしくお願いします」

「ああ、今年もよろしく」


 元気よく挨拶をされたのでこちらも挨拶し返した。無駄のない動きでタマとユマを助手席に乗せ換え、桂木さんに頼む。


「桂木さんはなにか必要なものある?」

「大丈夫ですよ~。お弁当も持ってきたので」

「そっか、じゃあタマとユマのことよろしくな」

「はーい」


 相川さんと頭を下げて店に向かった。そういえば鍋キューブを買うってこの間思ったんだよな。買ってくか。キムチ鍋のキューブが売っていたので試しに買ってみることにした。シシ肉はけっこうな量があるんだけど、豚肉も食べたくなる。バラ肉だの調味料だのを買い、スーパーの側にあるドラッグストアに寄ったりしていろいろ買った。もちろんお昼用のお弁当も購入した。桂木さんの山で食べる予定である。家の中には入らないから軽トラの中で食べるようだろうけどな。

 軽トラに戻るとちょうど相川さんも戻ってきたところだった。


「桂木さん、ありがとう。じゃあ行こうか」

「いえいえ、タマちゃんもユマちゃんもかわいいですよね~。今日はよろしくお願いします」


 桂木さんの顔がほころんでいた。そうだろうそうだろう。うちのニワトリたちはかわいいだろう、とか飼主バカなことを思った。口には出さないけど態度には出ていたと思う。ホントすみません。

 ユマとタマは助手席に乗ったままだ、俺たちは買ったものをクーラーボックスに入れたりと準備をしてから桂木さんの山へと向かった。N町を出るとあまり雪が残っているようには見えない。やはり山が境界線になっていたのかもしれなかった。

 桂木さんの山、雪全部溶けてるといいななんて思った。

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