290.おせちっていろんな種類があるらしい

 実家のおせちも、いつの頃からか注文になった。あれもこれもと作るのはたいへんだったのだろうと思う。元々おせちって、三が日何もしなくていいように作っておいたものではなかったっけ。これは俺の思い違いだろうか。

 好きな時に起きてきてくれればいいですからね、という相川さんのお言葉に甘えて目が覚めてからもぼーっとしていたら、トットットッと音がした。しまった、と思った時にはタマにのしっと乗られていた。


「タ~~~マ~~~~……」

「オキロー」

「……お前が乗ってたら起きられないだろーがっ! どけっ!」


 タマが胸の上からどく。ああ苦しかった。パタパタと音がして相川さんの顔が覗いた。


「あ、タマさんが起こしてくださったんですね。相変わらず仲がいいですね~」

「……おはようございます」


 そんないいものじゃないです。最近見た目にはそれほど変化はないけどなんか重くなってるし。


「……起こしてくれるのはいいけど乗るなよ。重さで潰れるだろ?」


 そう文句を言ったらつつかれた。なんでだ。

 玄関兼土間なスタイリッシュ空間に顔を出すと、ニワトリたちが早々に朝ごはんをもらっていた。

 テーブルの上には漬物と三段重ねの重箱が置かれている。


「朝食の前に祠にごはんをお供えしてくるんですけど、佐野さんはどうしますか?」

「あ、はい。行きます行きます」


 この山の祠は家から近いところにあるのだ。この山に昔住んでいたお墓の近くにある祠に、ごはんを入れた小さい皿を持って挨拶に行った。

 今日はとてもいい天気だ。そういえば初日の出とか見なかったな。山の上だけどそこまで開けているわけではないから、初日の出を見ようと思ったらけっこう時間がかかったかもしれない。


「今年もどうぞよろしくお願いします」


 二人で手を合わせて祈った。

 相川さんちに戻って重箱を開けてもらった。確かに全て二人前という数である。黒豆とか田作りとかそういう定番の物は入っていたけど、それ以外はなんかちょっと違うというかんじだった。なんとなく、中華っぽい?


「試しに中華おせちっていうのを頼んでみたんですけど、どうですか?」

「……面白いですね」


 相川さんは苦笑した。どうしてもおせちだと冷たいから中華って言われてもなんか微妙な気がする。おいしいはおいしいけどいろいろ奇をてらわなくてもいいのではないかと思った。そう、おいしいはおいしいのだ。

 ニワトリたちは順次食べ終えたらしく、こちらを見てコキャッと首を傾げた。遊んできていーい? と聞いているようだった。おとなしくとぐろを巻いて休んでいるリンさんにお伺いを立てた。


「リンさん、すみません。うちのニワトリたちが山の中を回りたいようなんですが、虫などを食べてもいいですか?」

「カマワナイ」

「ありがとうございます」


 礼を言ってニワトリたちを送り出した。


「佐野さんて、リンにも丁寧ですよね」

「相川さんを見習っているだけですよ」

「僕、ですか?」


 全然意識していないようだった。最初うちに来た時、相川さんはリンさんを見せてくれてニワトリたちに山を回る許可を求めてくれた。あれを見てとても感心したのだけど、相川さんはさっぱり覚えていなかったらしい。それぐらい自然にあの行動が身についてるってことなんだろうな。やはり見習わなければと気持ちを新たにした。

 リンさんもゆっくりと家を出てパトロールに出かけていった。

 一通りおせちを食べたら雑煮が出てきた。


「もち、いっぱい切っちゃったんで食べてくださいね」


 相川さん、張り切り過ぎである。


「そんなに食べられないですよ~」


 そう言いながらもちを二個入れてもらって食べた。とてもおいしい。


「佐野さんちのお雑煮ってしょうゆベースですか?」

「ええ、うちはしょうゆベースでしたね」

「砂糖とか入れませんよね?」

「入れません」


 こういうのも地域によって違うらしいということは聞いたことがある。


「うちの父が、お雑煮には砂糖をかけるんですよ。山盛りで」

「えええ」

「父だけがやっているのでいいんですけどね」

「その家によって違うんですかね」

「そうかもしれません」


 餅はけっこう腹に溜まる。食べ終わってからは腹を抱えてごろごろしていた。相川さんちは居心地がよくて困る。


「佐野さん、今夜どうされますか? うちとしては泊まってっていただいてもいいですけど」

「あー……ニワトリたちが戻ってきてからでいいですか?」

「はい。食べる物はいくらでもあるのでかまいませんよ~」


 最近は昼に合わせて戻ってくることが多いのだが、今日に限ってなかなか戻ってこない。


「アイツら、腹減らないのか?」


 ちなみにツッタカターと駆けて行ったのはポチとタマである。ユマは家の周りでうろうろしているようだ。二羽と一緒に遊びに行ってもいいんだけどな。まぁなんというか、ユマにはユマのこだわりのようなものがあるのだろう。わかんないけど。

 そんなわけでユマは相川さんちでお昼ご飯をいただいたが、二羽はどこをほっつき歩いているのか、昼食には戻ってこなかった。ホント、どこまで行ってるんだろうな。

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