291.正月といえば

 ニワトリたちは久々の違う山ということでフィーバー(死語)してきたようだった。夕方に戻ってきてやりきった! というようなふんす、という顔をしている。うん、これはこれでかわいい。ニワトリバカだって? ほっとけ。

 昼食は昨夜の残りの鍋の汁にうどんを入れたものだった。だしがしっかり出ていてとてもおいしかった。


「やっぱ鍋いいですよね~」

「ですね。でも一人だとなかなか……」


 相川さんが苦笑した。


「スーパーで鍋キュープとか売ってるの見ました?」

「ああ、一人暮らしにも対応しているってやつですかね。でも一人で鍋って食べるかなって思ってしまうんですけど」


 鍋は複数人でつつきたい派のようだ。そこらへんはきっと人によるのだろう。一回ぐらいは試してみたいと思う。


「一度買ってみようかと思ってはいます」

「そうですか。感想を聞かせてくださいね」


 鍋のだしのおかげで、うどんがとんでもなくおいしかったのでおかわりしてしまった。おかげでまた転がるはめになってしまった。


「夕飯はおせちの残りと……もちでいいですかね~」


 ニワトリたちが夕方遅くに帰ってきたことで、強制的にまたお泊りになってしまった。桂木さんからまたLINEが来たので、今夜も相川さんちに泊まると連絡したら、


「えー、いいなー。ちょっと仲良すぎじゃありません?」


 と返ってきた。なんなんだいったい。

 俺がよほど微妙な顔をしていたのか、相川さんに「どうしたんですか?」と聞かれてしまった。

 LINEの内容を話したらまた苦笑されてしまった。


「うーん……山暮らしなんてこんなかんじじゃないですかね? とはいってもリンの秘密を話したのは佐野さんだけなので、運命共同体みたいなことは勝手に思ってますけど」


 そういえばリンさんのことを知っているのは俺だけなのだった。だからみんな相川さんは彼女と暮らしていると思っている。ってことは、俺って彼女持ちの家に居座るお邪魔虫か? ……そうかもしれない。


「あー……どう返すかなー……」

「正直に返せばいいんじゃないですか? ニワトリさんたち、実際戻ってこなかったんですから」

「そうですね」


 ニワトリたちが山巡りに行って暗くなるまで戻ってこなかったんだ、と。

 相川さんが風呂を沸かしてくれたのでユマと急いで入った。暗くなると途端に寒くなるから、冷え切る前に入らなくてはいけない。


「それにしても……見事に雪がないな……」

「ユキー、ナイー」


 ちょっとだけユマは不満そうだ。


「だよなー……」


 リンさんはパトロールというより雪を駆逐しに行っているのではなかろうか。ちなみにポチとタマはすっごく汚れて戻ってきたのですでに湯でざっと洗ってある。お風呂は嫌みたいだから、ごみなどを取ってからぬるま湯を何度もかけるという形だ。はっきり言って手間だが、ニワトリたちの満足そうな顔を見るとがんばるかって思ってしまう。その点ユマは洗い場で汚れを落としてお湯で洗った後一緒に入浴できるのがいい。もちろん出たら急いで拭かないといけないが、もうこういう生活に慣れてしまっていた。

 俺たちが出た後入れ違いに相川さんが入る。本当は先に入ってもらった方がいいと思うのだけど、お客様が先です、と言ってがんとして譲らなかった。ユマは広いお風呂に二晩も入れてご機嫌だ。そんな期待に満ち満ちた目で見られても浴室の改造なんかしないぞ。


「オフロー?」

「うちの風呂はあれ以上でかくならない。これ以上大きくなるなよ!」


 そんなことを言っていたら相川さんに笑われた。いや、もううちのお風呂ではぎりぎりなのは間違いないのだ。

 相川さんが出てからおせちの残りと餅を焼いてもらった。砂糖醤油につけた餅うまい、きなこのもうまい。わかっていても食べ過ぎてしまう。餅は危険だ。


「佐野さん、お餅持って帰りますか?」

「あー……でも三日にはおっちゃんちですよね。どうしようかな」

「そうですね。多分二泊ぐらいはすることになりますかねー」


 おばさんがとても嬉しそうだったから二泊ぐらいした方がいいだろう。それ以上は要相談だ。

 明日はうちに帰って、洗濯だのもろもろして、明後日から今度はおっちゃんちだ。すでにすごく食べすぎているから家では節制しないとである。胃薬は……置き薬の中にあったような気がする。


「佐野さん、明日の朝は力うどんでいいですか? 野菜はしっかり入れますけど……」

「お任せします。ありがとうございます」


 また餅か。おいしいんだけど、おいしいんだけど……ちょっと重いんだよな。それだけ腹持ちがいいってことなんだろうが、食べ続けているとなんか飽きるんだよな。ごはんだったら飽きないのに、なんでだろう。


「佐野さん、餅が飽きたなら飽きたって遠慮しないで言ってくださいね」


 しっかりお見通しのようだ。俺は首を振った。


「飽きてないですよ~」


 まだ、ね。

 多分おっちゃんちに行っても沢山餅を食べさせられるんだろうなと思う。きっと餅の数を聞かれて、「1個で!」と言っても二個出てくるとかそんな想像をしてしまう。きっとこれは想像だけでは済まないだろう。

 ……鏡餅、買わなくてよかった。

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