288.山で暮らす初めての年末です
相川さんちのお風呂は外なので、早いうちにいただいた。屋根はあるので雨が降ってきても大丈夫だが、四阿っぽく四方は開いているのだ。冬の露天風呂に毎日入るのはたいへんそうだなと思う。でも山の景色が見られるのはとても開放感があっていい。相川さんは本当に仕事が丁寧で、風呂の周りの草などもしっかり刈られている。ユマもとても満足そうだ。
今回枯れ枝などを運んできた。相川さんは嬉しそうに、
「ありがとうございます」
と薪をおいてある場所にしまった。炭焼き小屋の周りには竹は生えていなかったから、火にくべても爆ぜるものはないはずだ。
「リンのおかげで枯れ枝集めも順調なんですけど、いただけると助かりますね」
この露天風呂はいわゆる薪で湯を温めるタイプのものなのだ。なので気が付いた時には薪を作っているらしい。薪を作るヒマがない時は枯れ枝を集めるのが一番だ。だが集めるだけでもそれなりに時間がかかる。なので今回の手土産は正解だったようだ。
「はー……ユマ、気持ちいいな」
「キモチイー」
ユマの羽に丁寧にお湯をかけてやる。相川さんちの風呂はけっこう広いのでユマと入るのにとてもちょうどいい。うちのお風呂も今のところぎちぎちな状態で一緒に入っているが、これ以上大きくなったら無理だとはユマに伝えてある。ほっとくと自分より大きくなってしまいそうだ。そしたらどーすっかなと思うのが最近の悩みである。
出たら急いで身体を拭いてユマを拭き、相川さんちに戻る。ここのお風呂は母屋から濡れないようにこられるものの、外気に触れっぱなしなのでヒートショックが心配だ。若いから大丈夫というものでもないだろう。
「お風呂お先にいただきました」
「寒かったでしょう」
相川さんが温かいお茶を淹れてくれた。
「ありがとうございます」
お茶請けは白菜の漬物だった。浅漬けらしい。
「けっこう作れるものですよね」
そんなに大きくは育たないらしいが、山の上の畑でも白菜はけっこうできるようだ。
「おかげで最近ずっと白菜なんですよ。食べていってもらえると嬉しいです」
そう言って相川さんははにかんだ。そんなわけで、ニワトリたちの夕飯はシシ肉と大量の白菜になった。シシ肉はリンさんも食べるが一度に大量に食べて何日も食べないという生活である。今日は食べる日ではなかったようだった。内心ほっとしたのはないしょだ。リンさんの食事風景とかあまり想像ができない。だってあの恰好は擬態だというし。
夕飯はぼたん鍋だった。とても贅沢だなーとにまにましてしまう。漬物、小松菜の煮びたし、ほうれん草の胡麻和え、レンコンのきんぴら等の副菜も素晴らしい。
「おいしいです~」
「鍋は一人では食べづらかったので、佐野さんとつつけて嬉しいです」
「そうですよね。鍋を一人はな~」
やっぱり鍋は人がいないとそこまでしたいとは思えない。今は一人用の鍋キューブなども売られてはいるが、それではなんだか寂しい気がする。ああでも、野菜を大量にくたくたに似ておかずにするって考えならありかな。ごはんを入れておじやみたいにしてもいいかもしれない。今度N町に買い出しに行った時買ってみようと思った。
「後で天ぷらを揚げますね。蕎麦も打ったので、年越し蕎麦もありますから」
鍋の残り汁には明日の朝うどんを入れてくれるようだ。明日の朝も楽しみである。
「おおお……」
全くもって至れり尽くせりだ。それにしても、おっちゃんも蕎麦は手打ちするらしいけど、田舎って蕎麦を打ちたくなるなにかがあるんだろうか。陸奥さんも暇になると蕎麦を打つと言っていたし。(蕎麦打ちに必要なキレイな水があるというのもあるかもしれない)
リンさんは土間で早々に寝るようだ。冬の間は寝る時間がとても長いらしい。多少騒いでもちょっとやそっとでは起きないので気にしなくていいそうだ。俺はニワトリたちを眺めた。
「蕎麦は台所で食べましょう」
「はい」
その方がいいだろう。この部屋に夜中まで電気がついていたらニワトリたちが寝られないだろうから。でもちょっとだけ、電気がずっとついた部屋だとニワトリたちは寝ることができるのかどうかはちょっと気になる。そのまま朝まで鳴かれても困るのでやってみようとは思わないが。
片付けをしてニワトリたちにおやすみを言う。
わかっていないだろうけど、
「また来年もよろしくな」
と呟いた。
来年だけでなく、次の年も、その先もずっと共に暮らしていきたい。
「オヤスミー」
「オヤスミー」
「オヤスミー」
律儀に返事をしてくれるニワトリたちに笑む。
「ちゃんと寝るんだぞー」
枕が変わると寝られないなんていう繊細な子たちではないから、電気を消せばすぐに寝るだろう。今日は年越しまで起きているつもりなのでアルコールはとらなかった。年が明けてからビールをあけるつもりである。
いつでも寝られるように用意された部屋の布団を早々に敷いておく。どーせ寝る直前までぐだぐだ話しているのだ。今年あったこととか、その前にあったこととかもろもろを。別に反省ってほどではないけど、お互いに話をすることでいろいろ考えがまとまればいいと思う。
来年は、どんな年になるだろうか。
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