278.今頃になってあちこち連絡してみる

 秋本さんから連絡が来てからみんなもそもそと動き出し、今日のところはそこでお開きになった。

 明日以降のことを話した。


「獲れたからなぁ……今年はもうしまいにするか」


 陸奥さんがため息混じりに呟く。


「それもいいかもしれないねぇ。来年は相川君ちから始めて、また佐野君の都合がよければ入らせてもらってもいいかもね」

「うちはいつでもかまいませんよ」


 戸山さんの提案にそういうのもあるんだと思った。まだまだ冬は続くし、狩猟期間もまだあるから声をかけてくれると嬉しい。陸奥さんの土地はそれなりに広いんだけど、田畑が多いから狩猟には向かないって言ってたしな。他にも回れるところはあるみたいだけどやっぱり村から近い方がいいのだろう。


「……でも、確か川中さんが28日から休みにしたって言ってましたよね」


 相川さんが思い出したように言う。


「28日の夜はゆもっちゃんちで宴会だろ? まぁ……うるせえか。佐野君、28日は裏山に入ってもいいか?」

「ええ、かまいませんよ」


 情けない顔の陸奥さんに聞かれ、俺は笑顔で答えた。


「雪が降ったら、程度によっては無理だがなぁ」

「そこは朝連絡もらえればいいですよ。どうせ特に予定もありませんし」

「わかった」


 そうは言ったけど28日に大雪とかだったら泣くなぁ。夜のシカ祭りーって。でもそれで引きこもったら俺がニワトリたちのエサになりそうだ。例え吹雪になったとしても死ぬ気でおっちゃんちには向かわないといけないだろう。ニワトリ殺人事件とか笑えない。


「雪が降ってもあまりひどくなければ麓までは迎えにきますよ?」


 相川さんの気遣いがとても嬉しい。これはもう本格的にソリを用意しなければいけない気がする。倉庫をまた漁ってみようと思った。


「その時はお願いします……」


 降らないことを祈るばかりだ。

 みんなが帰ってから俺は山頂に向かって手を合わせた。


「どうか年始まで雪が降りませんように。あ、少しならいいですけど、いっぱいは困ります。お願いします!」


 都合のいいことを言っていたせいか、タマに何言ってんの? という顔をされてしまった。だって雪深くなったら軽トラだって動かないだろ。シカ食べにいけなくなるぞ。

 そういえば、と倉庫を見に行く。まだニワトリたちのエサはあるがもらってこられる時にもらってきた方がいいかもしれない。

 さっそく松山さんに連絡した。


「雪ぃどうだった? 大丈夫かい? うちはいつでもいいから、来られる時においで」

「ありがとうございます。もし明日行けるようでしたら伺います」


 松山さんのところも雪でたいへんだったみたいだ。特に養鶏場の雪下ろしが難儀したと言っていた。確かにしっかり下ろさないと潰れてしまうかもしれない。この辺りは雪国では全然ないんだけど、山だから降る時はいっぱい降ってくる。本当にどうにかならないものかと思う。


「あ」


 そういえば元庄屋さんちは大丈夫だろうか。今頃思い出す辺りどうしようもないよな。内心落ち込みながら電話してみたら奥さんが出て、近所の人が手伝ってくれたと教えてくれた。


「佐野君、電話ありがとうね。ほら、うちの人腰やっちゃったでしょう? ご近所さんが手伝ってくれてね。本当に助かったのよ。佐野君も、山はたいへんでしょう」

「いやまぁ……ははは」


 たいへんでなかったとはとても言えない。結局相川さんにおんぶにだっこだったし。こんなんでやっていけるのかと少し不安になってしまったぐらいだ。


「春になったら主人が息子と行くって言ってるからよろしくね」

「はい。お身体には気をつけてください」

「本当にありがとうね。よいお年を」


 そういえばもう年末なのだった。


「はい。よいお年を」


 そう言って電話を切った。この言葉を言うと年末だなと実感する。もう門松もしめ飾りもつけたのにな。なかなか年を越すというのは実感がわかないものだ。

 夕飯を用意して、また年賀状のことを思い出す。毎年出していたから出さないと決めても気になってしまうものだ。


「年賀状とかって……何書くんだよ。思うところあって山暮らししてますってか……ばかばかしい……」


 その通りだけど本当にばかばかしい。今頃誰かがどこで何やってるのかなんて想像もできないしするつもりもない。

 夕飯を食べ終えたらしいユマがトットットッと近づいてきた。


「どうした、ユマ。おかわりか?」


 おかわりだったら白菜かな。


「サノー」

「ん?」

「サノー」


 こたつから出て近づいたら、すりすりされた。かわいいなと思う。ついついにんまりして羽を撫でた。


「そうか、俺か」

「サノー」

「ユマは優しいな」

「サノー」


 でもさすがにちょっとイノシシ臭かったので口元は拭いてあげた。ポチとタマがボウルから顔を上げて「オカワリー」と言う。


「はいはい、白菜で終わりな」


 もちろんユマにもあげた。ニワトリたちに助けられているなとしみじみ思う。長生きしてもらわないとな。

 今夜は少し風が強いようだ。ガラス扉が風でガタガタいっている。これだと俺の寝る部屋はもっとうるさいかもしれないと思った。

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