277.戻りが遅い時はなにかあったりする

 どうにか家に辿り着いてほっとした。雪かきはかなりしっかりしていたとはいえ、山道を走らせるのは精神的に消耗する。それでも俺の家はここだから、やっと帰ってこれたという気分だった。やっぱり我家が一番である。

 まだみんな戻ってきていないみたいなので、急いでみそ汁を温め直すことにした。もう門松もしめ飾りも飾った方がいいのかな。スマホで調べたら13日を過ぎたらもう飾ってもいいらしい。後でさっそく飾ってみることにした。


「あ、鏡餅買ってない……」


 雑貨屋にはそれなりの大きさの鏡餅が置いてあった気がする。


「あー、どうすっかなー……」


 買ってもいいとは思うのだが食べきれる気がしない。餅ってけっこうカビが生えやすいから食べ切れる方がいいなと思ってしまう。カビが生えてもそこを削ればいいとは聞くんだけどね。気分的に嫌なんだよな。

 漬物を用意して、みんなが戻ってくるのを待っているのだが、こういう時に限ってなかなか戻ってこない。スマホを確認したけどなんの連絡もない。裏山は電波が入らないだろうから、連絡ってできないよな。そういえば陸奥さんたちってトランシーバーとか持っていたりするんだろうか。俺はそういう免許も持ってないけど。

 玄関を出て辺りを見回す。こんなに晴れているのに雪だるまは溶ける気配もない。けっこう寒いんだなと改めて思った。畑の向こうにいたユマがトットットッと戻ってきた。


「ユマー、みんなまだ帰ってきてないよなー?」

「コナイー」

「だよな。ありがと」


 この寒いのにユマも元気なことだ。ニワトリって風邪ひかないんだろうかとか思ってしまう。……たぶんひくとは思う。

 やっぱり寒くて外で待っていることはできなかった。村とは気温が全然違う気がする。

 スマホが振動した。慌てて確認すると相川さんからだった。


「そろそろ戻ります」


「よかった」と呟いた。

 みそ汁の鍋に触れて確認する。まだ冷めていないからこのまま待っていればいいだろう。あ、でも。できればあとどれぐらいで着くかぐらいわかるといいなとも。なんか俺の帰りを待っていた母さんの気持ちがわかったような気がした。全然連絡しなくて悪かったなと今更ながら思った。手元にスマホがあるのに、簡単に連絡する手段があるのにろくに連絡もしなかった。今から帰るよでも一言入れれば母さんも助かっただろうな。そんなことをつらつら考えているうちに表から声が聞こえてきた。

 近くまできていたようだった。

 コツン、コツンと玄関の扉を叩く音がした。開けるとユマがいた。戻ってきたよと知らせてくれたようだ。


「ユマ、ありがとうなー」


 本当にうちのニワトリはかわいい。嬉しくてついにまにましてしまう。


「おかえりなさい!」


 玄関を出て声をかけると、ポチの後ろから陸奥さんが手を上げてくれた。


「シカが獲れたぞ! 一頭だがな!」

「えええ。すごいじゃないですか!」


 おばさんの希望通りになったなと苦笑する。戸山さんと相川さんが木の棒にシカをくくりつけて戻ってきた。


「いやー、重いよなぁ……でも嬉しい重さだね」

「角も立派ですしねー。あ、山の下まで秋本さんが取りにきてくれるというので後で持って行きますね」


 すでに秋本さんにも連絡済みらしい。


「うわあ、本当に立派ですね。どこで見つけたんですか?」


 裏山の東側で見つけたそうだ。となると、もしかしたら桂木さんの土地の方から迷い込んできたのかな。角もけっこうな大きさのある立派な雄シカだった。おかげで持ってくるのがたいへんだったようである。けっこうな重さがありそうだ。撃ってすぐに放血し、川でしっかり洗ってきたらしい。そのまま川に沈めてきてもよかったが、また雪が降ると取りにいけなくなってしまうので運んできたという。


「シカかぁ……そういえば湯本のおばさんが食べたいようなこと言ってましたね」


 そう伝えると陸奥さんは考えるような顔をした。相川さんの軽トラに乗せたシカを眺める。そして頷いた。


「そうだな。今日明日はまだ、だが……明後日ならおいしく食べられるだろう。ゆもっちゃんには連絡しておこう」


 俺はシカ肉がうまく調理できそうもないから宴会で食べられると嬉しい。ニワトリたちの為に内臓とかは少しもらうけどね。


「宴会で食ったとしても肉は残るからな。いい正月が迎えられそうだ」


 みんなにこにこしている。年の瀬に獲物が獲れてよかった。調査だけで終わってしまったら楽しくないもんな。ポチとタマは相変わらず雪まみれなので家に入れる前に雪を丁寧に落としてざっと羽を整えた。二羽共ご機嫌でよかったなと思った。


「いつも通りですけど、みそ汁はありますよ」

「おー、佐野君。いつもありがとうな」


 みんな身体が冷えていたのだろう。こたつに入ったら根が生えたように動かなくなった。そのまま荷物を引き寄せている姿に笑みが漏れた。みそ汁と漬物を出して、お祝いにとタマとユマの卵を炒めて出したらとても喜ばれた。今朝は使っていなかったのだ。

 秋本さんから連絡がくるまでその後はみなのんびり過ごした。無理はしないのが一番である。


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