268.ずっとずっと降り続いています

 相川さんは一応お昼ご飯としておにぎりを三つ持ってきたらしい。卵スープと漬物を出したら十分ごちそうだと喜ばれた。俺はまた醤油漬けのシシ肉をタマネギと炒めて丼にした。とてもおいしい。塩胡椒だけで焼いてもいいのかもしれないけど、やっぱりシシ肉はちょっと臭みがある。それを消すには漬けておくのが一番だ。ごはんがよくすすむ。(もちろん相川さんにもおすそ分けした)

 ユマにもシシ肉は出した。こちらは生の、なんの味もつけていない肉である。養鶏場で買った餌と一緒にいつも通り平らげてくれた。


「ユマ、あとで雪かきしようかと思うんだけど、手伝ってもらってもいいか?」

「ユキカキー?」


 ユマがコキャッと首を傾げた。相川さんが言うには、ユマの尾にほうきの先をつけてぶんぶん振ってもらったら早いのではないかと。リンさんは何もつけずにぶんぶん尾を振っているらしい。当たったら骨とか折れそうだな。こわい。


「イイヨー」


 なんのことだかわからないだろうに即答してくれるユマさん、マジぱねぇっす。一生お世話させてください。(意味不明)


「ありがとう。頼むな」


 お茶を飲んでまったりしてからよっこらせと立ち上がる。年寄り臭いって? ほっとけ。

 竹ほうきは何本もあるのだ。倉庫を漁ってヘッドが比較的簡単に取れそうなほうきを出して相川さんと外す。そしてユマに、尾につけてもいいかの許可を取ってからつけてみた。


「これで尾を横に滑らすように振ってもらっていいか?」

「イイヨー」


 何度か動きを修正すると、キレイに横に振れるようになった。それで振ってもらうとなるほど、ユマが通った後はほとんど雪が残らない。ある意味重機に近いなと思った。


「この調子で道でやってもらえれば雪が掃けますね。でも少しぐらいですよ。基本は僕たちで掃いたり捨てたりします」

「そうですね。ありがとうございます」


 俺たちもほうきを持ち、雪用のスコップを持ってガレージの周りの雪を掃いたり、道路の方の雪を掃いたりした。確かにまだ雪が固まっているわけではないのでほうきでもけっこうキレイになるものだ。もう固まっているっぽいところはスコップを使ったりした。正味一時間やってみたが全然進まない。それよりも俺たちが汗だくである。


「佐野さん、休憩しましょう。戻りますよ」


 汗をかいた服でいつまでも寒い場所にいると、冷えたところが凍傷になってしまうこともあるという。それを見越して相川さんは着替えを多めに持ってきたそうだ。


「ユマー、休憩するぞー」

「タノシーイ!」


 ユマが尾をふりふりしながらどんどん前へ進んでいく。


「ユマー! 白菜食べないのかー!」


 ユマの足がピタッと止まった。


「タベルー!」


 戻ってきてくれた。俺はほっとした。

 もしかして、ポチやタマも楽しんで雪かきをしてくれるだろうか。ちょっと考えてしまった。


「あまり期待はしないでおこう……」


 期待して冷たい目を向けられても困るからな。うちのニワトリたちは意外と物事の好き嫌いが激しいのだ。

 一度家に戻ってユマに白菜を出し、俺たちは服を着替えた。一応乾燥機もあるから洗濯機を回すことになっても大丈夫だ。でもなんか外に干さないと乾いた気がしないんだけどな。


「洗濯機に入れちゃっていいですよ。あとでまとめて洗濯しますから」

「助かります」


 相川さんの服も一緒に放り込んで、お茶を飲んで甘い物を食べてから再度雪かきに戻った。俺たちっていうよりユマの尾につけたほうきがかなりいい仕事をしてくれた。


「……三羽で手分けしてやってくれれば明日一日で麓まで掃けそうですけど……」

「相手はニワトリですからね」

「ですよねー……」


 果たしてポチとタマはどうだろうか。ユマは思いっきり褒めちぎっておいた。クンッと頭を持ち上げて得意そうにしてるのがとてもかわいい。


「ユマ、すっごく助かったよ~。ありがとうな~。ユマはえらいな!」

「エライー?」

「うん、えらいえらい」

「エライー!」


 羽をばさばさ動かして喜びを表現している。ううう、なんてかわいいんだろう。


「佐野さん、目尻が下がってますね」

「ええ、かわいくてたまらないので」


 愛は正しく伝えておかなければ。そうこうしている間にポチとタマが雪まみれになって戻ってきた。


「ポチ、タマ、おかえり。雪の中はどうだった?」

「ツメターイ」

「ツメターイ」

「そっかそっか。ほら足拭いて入れ入れ」


 玄関先で雪を落とせるだけ落としてやり家の中に入れた。寒さにいくら強いとはいっても一日中外にいたら寒かっただろう。バスタオルを持ってきて濡れた羽を拭いてやったりしていた。相川さんもポチ相手だがさりげに手伝ってくれて助かった。

 うちの周りとか道路の一部は雪かきしたものの、それ以外の場所にはどんどん雪が積もっている。


「あ、屋根……さすがに雪下ろさないとまずいですよね」

「頑丈な脚立ってありますか?」


 作業が終わったと思ったらまた作業だ。倉庫を漁って脚立を出し、支え合いながらどうにか屋根の雪も落とした。でもまだまだ止む気配がない。


「夕方までみたいな予報だったと思うんですけど……」

「山はやっぱり違うんですよ」

「暮らすにはやっぱり過酷なんですねぇ……」


 腕も足もどこもかしこも痛い。明日は筋肉痛確定だな。

 情けない話だが、相川さんがいてくれてよかったと思った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る