264.在宅は在宅でやることが山ほどある
火曜日は休暇日になった。さすがに宴会の翌々日からまた狩りができるほどの元気はないらしい。それにたまには家にいないとご家族も寂しがるだろう。いたらいたで邪険にされるんだけどな、なんて陸奥さんはワハハと笑っていたけどそんなはずはない。冬の間だけとはいえ、毎日のように狩猟に出かけている夫を奥さん方はどう見ているんだろうか。ああでももう子育てが終わって退職してからだからいいのかな。
「今日は陸奥さんたち来ないから、好きに過ごしてていいぞ~」
朝ニワトリたちにそう告げると、今日はユマとポチがツッタカターと遊びに出かけた。ウキウキして横に揺れている長い尾が可愛く見えるのが不思議だった。
「……どう見てもトカゲっつーかその手の尾なんだよな……」
触ったかんじかなりしっかりしているし、体重のほとんどは尾にいっているのではないかと思うほどだ。
もう十二月も下旬だ。そろそろ雪が降ってきてもおかしくはないだろう。毎朝かなり寒いから本当にもうそろそろではないかと思う。
昨日桂木姉妹が戻る時、
「年末年始まで、もし雪が降らなかったら初詣行きませんかっ!?」
と桂木さんに言われた。俺は相川さんを見る。相川さんは頷いた。年末は相川さんと過ごすことになっているし。
「うん、降らなかったらね」
そう答えたのに桂木さんからはじーっと睨まれた。
「……そーゆーの全くないってわかってますけどー……ホンット、ネタにしたくなりますよね……」
「は?」
時々桂木さん語がわからない。
「おねえは考えすぎー。ズバリ聞いちゃえばー」
「それはダメ! このもどかしいかんじがいいのよ! じゃあまたLINEしますんで!」
姉妹の会話がわからない。女の子たちって不思議だなと思った。
そういえば川中さんは昨日朝ごはんを食べてから早々に退散した。お酒、本当に抜けてたんだろうか。ちょっとだけ心配だった。でも今日になっても何も連絡がないから大丈夫なんだろうと思う。なにかあれば連絡くるだろうし。
今日も寒いけどいい天気だ。
洗濯をしたり布団を干したりする。畑の青菜もそろそろだったからまた収穫してみた。小松菜はずっと採れるからいいなと思う。小さい頃はあまり好きじゃなかったけど今はおいしく感じられるから、もしかしたら小松菜は大人の味覚なのかもしれないなんて勝手に思ってみた。
こんなに寒くても川ってまだ凍らないものなのかな?
「タマー、川見に行くぞー」
いろいろ確認できる時にするべきだ。川を見たら山の上の墓参りをしに行こう。枯草とか抜いて片付けた方がいいだろうし。昨日雑貨屋に行ったから今日は行かなくていいはずだ。
居間のこたつで紙にやることをリストアップしそれを一つずつ消していく。スマホのリストでもいいんだけど見なきゃ終りだし。やっぱ書いた方が実感するんだよな。山の上はどうしようかと思ったけど、あそこまで行く時間はなさそうだった。墓のところで山頂に向かって手を合わせたりした。
「すみませんが、春までおまちください」
なんて言って。真面目にいろいろやると時間がいくらあっても足りない。おかしいな。俺はのんびり隠遁生活をする為に山を買ったはずなんだが。
昨日またシシ肉をけっこうもらってきたからニワトリたちもご満悦だ。明日は秋本さんが内臓を持ってきてくれると言っていた。ビニールシートの出番だな。
昼食を終えていろいろ片づけをし、布団と洗濯物を取り込んだところで眠くなった。そういえば最近昼寝ってしていなかった気がする。乾いてなさそうな洗濯物を紐にかけて家の中に吊るしてから居間で寝ることにした。
「タマ、ごめんな……眠いから寝るわ。遊んできていいからなー……」
一日中表で駆けずり回っているタマからしたらとても耐えられないだろうと思う。でもユマでもタマでも誰かしら山では一緒にいてくれようとするんだよな。俺の山なんだからそんな危険なんてないはずなのに。
……もしかしてうちのニワトリたちの認識では、この山は危険なのか?
考えたって答えなんかでないから俺はそのまま眠ってしまった。んで、よっぽど疲れていたのかなんなのか寝すぎるほど寝てしまい、タマにどーんと乗られて起こされた。タマさん重いっすー。タマさんの愛がー、超重いー。
「あれ? タマもしかして太った?」
反射的に聞いてしまいめちゃくちゃつつかれた。ごめんなさいごめんなさい。
「いたっ、タマッ、いたいって、ごめんって、ごめんなさいっ!」
ニワトリでも太るって単語に反応するものなんだろうか。まぁ確かにタマは女子だが。
冬毛で羽が膨らんで見えるから丸っこくはなってるけど、重さはそれほど変わってないだろうと思ってたんだよな。でも冬だからやっぱり皮下脂肪を蓄えていたんだろうか。あれだけ駆けずり回っているから筋肉もすごそうだが。
夜、試しにお風呂に入っている時俺の上にユマを乗せてみた。
「サノー?」
「うーん、やっぱ少し重くなってる気がするなー。筋肉かな」
湯舟の中だから多少は軽く感じられるがやっぱり重くなっていると思う。んで下ろしたらつつかれた。なんでだ。
ニワトリにも女心があるのだろうか。それは永遠の謎かもしれない。ポチと顔を見合わせたがさっぱりわからなかった。
翌朝はなんというか、自分の寝ている部屋は底冷えがする寒さだった。家の中なのに顔が冷たすぎて痛いとかなんだ。やばすぎだろ。
「うう~、さ~み~……」
ハロゲンヒーターをつけてもなんか寒さが違う。スマホは一応動いたけどなんか充電が減ってる気がする。寒さでも充電って減るんだっけか。どうにかして温かい居間に辿り着いた。
「ポチ、タマ、ユマ、おはよう……」
部屋にいた時はとにかく寒さから脱出しようと思って出てきたから気づかなかったが、ガラス扉の向こうが白く見えた。
「嘘だろ……」
鍵を開けるのももどかしく玄関のガラス扉を開ける。
「う、わぁ……」
そこは一面銀世界だった。
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