259.限られた時間でも山は回るみたいです

 翌朝も快晴だった。雪雲はどこへ行ってしまったのだろう。天気予報でもあと何日かは晴れみたいだけど。

 今日は人がいっぱい来るはず、と確認してみそ汁をまた大鍋で用意することにした。今日は川中さんと畑野さんも来ると言っておいたせいかポチとタマがなんか落ち着かないようだった。N町から買ってきたえのきを鍋に入れる。今日はわかめとえのきのみそ汁だ。きのこの栽培って確か相川さんがしていたな。今度教えてもらおうと思った。

 9時を過ぎて、続々と軽トラが入ってきた。川中さんと畑野さんも来た。


「おはようございます、何か獲れたらいいなぁ」

「おはよう。そんなに簡単に狩れるものでもないだろう」


 二人とも相変わらずである。なんだかこのやりとり、安心するなぁ。

 そういえば昨日桂木さんたちはこちらに戻ってこなかったようだった。教習所の予約が取れたらしい。だが日曜日である今日の予約は取れなかったようだ。


「今日は湯本さんちに行きます。ではのちほど」


 と朝LINEが入っていた。イノシシの話を聞いたんだろうな。桂木妹から直接教習所の様子が聞けたらいいなと思った。


「今日は夕方からかぁ……暗くなる前に出るようだよね」

「それはいつものことだろう」


 川中さんがぼやき、畑野さんがツッコミを入れる。そうしてみな準備を整えて裏山へ出かけて行った。

 もう手慣れたもんだよな、とみなの後ろ姿を見送りながら感心した。

 ユマと家や畑の周りを見て回る。あと二、三日もすれば青菜がまた収穫できそうだ。虫などがいてもニワトリたちが目ざとく見つけて食べてくれるからそれほど農薬を撒く必要もない。つってもうちのは無農薬農薬なんだけどさ。撒くとものすごく怒られるんだよな。

 おっちゃんちに送ったお歳暮はまだ届かないだろう。なにか手土産を、と思ったけどこれといったものがない。イノシシが捕れたと聞いたのもN町から帰ってきてからだった。昨日雑貨屋を見て来ればよかったな。今のうちに買物に行った方がいいのか、それとも陸奥さんたちが昼に戻ってきてからにすればいいのか悩む。イノシシ祭りだからおっちゃんちに泊まるわけで、そうしたらさすがに手ぶらというわけにもいかない。


「手土産……」


 一瞬どこかでマムシを捕れたら、と思ったけどそれで喜ぶのはおっちゃんだけだ。そういえば先日持って帰ったマムシはどうなったんだろう。また酒を作るつもりなんだろうか。……やっぱり煎餅ぐらいが無難な気がする。もー、本当に俺は手土産のセンスがなくて困る。

 そうしてからあ、と思った。桂木姉妹に頼めばいいのではないかと。さっそくLINEを入れたら、


「おばさんが喜びそうなものを見繕っていきます」


 と返ってきた。お金はきちんと払う旨伝えた。よかったよかった。

 昼頃、みな一度戻ってきた。


「向こうで食べてもいいんだが、やっぱ佐野君のみそ汁がうまくてなぁ」


 陸奥さんがわははと笑う。うちだとこたつもあるしな。まだ雪は降っていないとはいえ冬だ。日中とはいえ山の中を何時間も歩けば冷えるに違いなかった。


「捕まえることを考えたら向こうでそのままの方がいいですけどね」

「場所がしっかり絞り込めていればな」

「だいたいわかってるんでしょう?」

「ああ、だいたいはな」


 川中さん、畑野さん、陸奥さんがそんなことを言い合っている。戸山さんはこたつで幸せそうだ。


「あー、やっぱりこたつはいいよねぇ。癒される……昨日は疲れたしなぁ……」

「昨日大掃除だったんでしたっけ?」


 戸山さんに聞くと、「そうなんだよー」と即答された。


「ガラス磨きとかさせられてさー、散々だよ。まー、昨日で終わったからいいけどね。……ごめん、佐野君ちょっと昼寝してもいいかな?」

「いいですけど、水分きちんと取ってくださいね。毛布とってきます」

「えー、戸山さん行かないのー?」

「佐野君ありがとー。いやー、嬉しいなぁ……」


 川中さんが文句を言っている。戸山さんがゆっくりとお茶を飲んでいる間に自分の部屋の押し入れから毛布を一枚出した。うん、大丈夫。かび臭くはない。毛布とか布団は定期的に干しているから大丈夫だとは思うが、いざ誰かにかけるとなると気を遣う。そうでなくてもこれらは元々ここにあったものだったので。

 居間に毛布を持って行くと、戸山さんが嬉しそうに笑った。


「佐野君はいいなぁ。若い子はいいね。男だからとか、女だからとかなくて」

「俺一人暮らしですし」

「そうだよねえ」


 嫁さんがいたら任せてしまうかもしれない。でも嫁、と言っても誰の顔も浮かばない。しいていうならユマだが、ユマとか言ったら頭おかしい人扱いされそうだなと思った。まぁうん、将来はわからないが今のところは本当にいらないのだ。


「じゃあ、戸山さんを頼みますね」

「はい。といってもここで寝ててもらうだけですけど」

「佐野さんがいるからいいんですよ」


 相川さんに声をかけられて、またみんなを見送った。日が少しでも陰ってきたら戻ってくるというから出かける準備だけはしておこう。一応お泊りセットは準備してあるけど。

 戸山さんはこたつで、座布団を枕に横になっている。一応その上から毛布をかけてあるから風邪は引かないはずだ。お茶もしっかり飲んでいたしな。ユマは家の周りで好きに過ごすようだ。

 洗濯物を取り込んだり、いろいろ家事をしながら今夜を思う。みなでわいわい酒を飲むのがとても楽しみだった。


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